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聖の国
美奈とレン
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「大丈夫か? 」
俺は美奈に触ろうとした。
「キャッ。」
彼女に拒絶されてようやく気づく。
そうだ彼女はもう美奈であって美奈ではない。
「悪かった。配慮が足りなかったな。なんて呼べば良い? レン? 神族様? おひーさま?」
「分からないのよ……自分でも。」
「私が美奈であるのかレンであるのか? でも私、あの女の子みたいに無邪気になれない。レンは内気な女の子だったのよ、いつも姉のセイの影に隠れていた。」
九年近く記憶がなく、七年近く偽りの記憶を埋め込まれていたのだ。
人生の半分以上を美奈という人格で生きていたことになる。
そうなれば自分を失ってしまうことにも無理は無い。
「何者かである必要なんてない。お前が好きなところに居場所を作れば良いんだ。ここに居たいのならそうすれば良い。」
「ここに私の居場所なんて無いわよ。それにここに隠れれば、極東の刺客が来てカーミラ兄さんにも迷惑がかかる。私は知らない間に、もう戻れない場所まで来てたんだわ。」
そう言って、彼女は極東の魔具を握りしめる。
俺は言葉に困った。こういう時、槍馬なら、なんて言葉をかけて励ましていただろうか。
自分のオツムを限界まで酷使して考えた。
だか、答えは出なかった。
すると、レンは自ら立ち上がるとこう宣言した。
「私、極東に帰るわ。もうここに私の家も、家族も、みんないなくなっちゃったから。極東が新しい私の居場所。さぁ連れて行って、あなたの故郷に。」
彼女の芯は俺の思っていたより数倍も強かったらしい。
「ああ、帰ろう。俺たちの故郷に。」
そこに極東の特殊部隊が駆け込んでくる。
「禁忌指定魔獣、桐生慎二、逃亡罪により拘束する。」
俺は両手を上げた。
「どうやら送ってやるのは無理みたいだな。」
「なん…で? 」
「ちょっとした規律違反だ。また後日ゆっくり話をしようぜ。」
* * *
「ったく手間かけさせやがってよッ。」
兵士の一人が俺をぶつ。
が俺の負けずと言葉を返した。
「お前らが無能だからこうやって俺があちこち回る羽目になってるんだろうが、いっつも後ろで怯えているくせに、こういう時だけノコノコ出て来やがって。極東が襲撃された時、何をして嫌がった? 」
「口だけは達者なガキめっ!! 」
俺に追加のボデーブローが来る。
「ふん…反論できねえのか。暴力じゃなくて、少しはそのおめでたい頭で考えてみたらどうなんだ。」
「ぶっ殺すぞケダモノ。」
「そのケダモノが東奔西走しないと、何も成り立たない国なのか極東は? お前らは租に飼われている家畜か? 」
「がっぁーーー」
三人目が軍用ナイフを持ってこちらに襲いかかってくる。
「何事だ!! 」
声を上げたのは七宝だった。
「慎二が見つかったって言ったから、来てみれば、何やってんだお前は……」
「「「七宝隊長。」」」」
「いや、ご苦労だった。狂犬にはちゃんと首輪をつけるべきだな。」
「「「ごもっともです。」」」
三人の兵士が去っていく。
俺は早速今起こっていることを七宝に包み隠さず全部話した。
「何? グランディルの地下に封印されていた神族が逃げ出しただと? 美奈が神族で、かつての記憶を取り戻した……か。」
「それ、なんて小説? 」
「事実は小説より奇なり、ご覧のありまさです。」
七宝は首を振った。
「いやいや、地下空洞には一度来たことがあるんだ。」
「…全部知っていたんですね。」
「ああ、忘れるわけないさ。もう少しで代行者の力を奪還できた。君の父親と一緒にね。」
「彼女を助け出すこともできた、だけどね、あの頃は俺が剣たちを使い始めて間もない頃でね。安定して使いこなすことができなかったんだ。」
それよりも俺は話すべきことがあった。
「美奈のことはみんなになんて説明しますか? 」
「ん? そんなもん『年頃だから察してやってくれ。』というしか無くないか? 全部彼女次第だよ。」
「あなたに相談して本当に良かったです。」
「ほはぁ。それはよかった。」
「ええ良かったですよ。 本当にね。」
俺たちが地下空洞を出ると、みんながいた。
「もう、メリゴ大陸の件は片付いたのですか? 」
「ああ、ワーメリゴンたちが頑張ってくれているおかげでね。極東は大赤字だが、ワーメリゴンたちに多額の通貨が流れたことで、メリゴ大陸は目まぐるしい発展を遂げているよ。」
「ああ……干されるわ。」
「俺もだよちくしょう。」
琵琶が俺の背中を優しく叩く。
「軍法会議だってよ。頑張れな。」
馬田が琵琶を止める。
「おい、琵琶。」
鏡子は相変わらず自分の顔を見ている。
斥がこちらに来た。
「またお前に先を越されちまったようだな。」
「そんなことはない、お前のおかげさ。」
それから黒澄が顔を背けながら、俺の腰をツンツンと叩いてくる。
「何? 疲れてるんだ。」
「一人でなんでも解決して……バカ。」
なんでもは全くだが、一人でって言うのは違う。
「しょうがねえだろ。契約者たちは事後処理で誰一人動けなかったわけだし。それに一人じゃねえ。」
そう言って、凛月奪還のMVPである新潟を探した。
「新潟は? 」
「気になるの? 」
「あのなぁ。」
「家の方で色々と話をつけているみたい。あの子も家が家だから。」
「そうか、面倒なことに巻き込んじまったな。」
雑談していると、麻川が皆を呼んだ。
「ブレイク兄弟が目を覚ます前に逃げるぞ。」
熱海、灰弩、羽々斬が動力源のチェックをしている。
俺たちは美奈を連れて、鉄の板に乗り込んだ。
俺は美奈に触ろうとした。
「キャッ。」
彼女に拒絶されてようやく気づく。
そうだ彼女はもう美奈であって美奈ではない。
「悪かった。配慮が足りなかったな。なんて呼べば良い? レン? 神族様? おひーさま?」
「分からないのよ……自分でも。」
「私が美奈であるのかレンであるのか? でも私、あの女の子みたいに無邪気になれない。レンは内気な女の子だったのよ、いつも姉のセイの影に隠れていた。」
九年近く記憶がなく、七年近く偽りの記憶を埋め込まれていたのだ。
人生の半分以上を美奈という人格で生きていたことになる。
そうなれば自分を失ってしまうことにも無理は無い。
「何者かである必要なんてない。お前が好きなところに居場所を作れば良いんだ。ここに居たいのならそうすれば良い。」
「ここに私の居場所なんて無いわよ。それにここに隠れれば、極東の刺客が来てカーミラ兄さんにも迷惑がかかる。私は知らない間に、もう戻れない場所まで来てたんだわ。」
そう言って、彼女は極東の魔具を握りしめる。
俺は言葉に困った。こういう時、槍馬なら、なんて言葉をかけて励ましていただろうか。
自分のオツムを限界まで酷使して考えた。
だか、答えは出なかった。
すると、レンは自ら立ち上がるとこう宣言した。
「私、極東に帰るわ。もうここに私の家も、家族も、みんないなくなっちゃったから。極東が新しい私の居場所。さぁ連れて行って、あなたの故郷に。」
彼女の芯は俺の思っていたより数倍も強かったらしい。
「ああ、帰ろう。俺たちの故郷に。」
そこに極東の特殊部隊が駆け込んでくる。
「禁忌指定魔獣、桐生慎二、逃亡罪により拘束する。」
俺は両手を上げた。
「どうやら送ってやるのは無理みたいだな。」
「なん…で? 」
「ちょっとした規律違反だ。また後日ゆっくり話をしようぜ。」
* * *
「ったく手間かけさせやがってよッ。」
兵士の一人が俺をぶつ。
が俺の負けずと言葉を返した。
「お前らが無能だからこうやって俺があちこち回る羽目になってるんだろうが、いっつも後ろで怯えているくせに、こういう時だけノコノコ出て来やがって。極東が襲撃された時、何をして嫌がった? 」
「口だけは達者なガキめっ!! 」
俺に追加のボデーブローが来る。
「ふん…反論できねえのか。暴力じゃなくて、少しはそのおめでたい頭で考えてみたらどうなんだ。」
「ぶっ殺すぞケダモノ。」
「そのケダモノが東奔西走しないと、何も成り立たない国なのか極東は? お前らは租に飼われている家畜か? 」
「がっぁーーー」
三人目が軍用ナイフを持ってこちらに襲いかかってくる。
「何事だ!! 」
声を上げたのは七宝だった。
「慎二が見つかったって言ったから、来てみれば、何やってんだお前は……」
「「「七宝隊長。」」」」
「いや、ご苦労だった。狂犬にはちゃんと首輪をつけるべきだな。」
「「「ごもっともです。」」」
三人の兵士が去っていく。
俺は早速今起こっていることを七宝に包み隠さず全部話した。
「何? グランディルの地下に封印されていた神族が逃げ出しただと? 美奈が神族で、かつての記憶を取り戻した……か。」
「それ、なんて小説? 」
「事実は小説より奇なり、ご覧のありまさです。」
七宝は首を振った。
「いやいや、地下空洞には一度来たことがあるんだ。」
「…全部知っていたんですね。」
「ああ、忘れるわけないさ。もう少しで代行者の力を奪還できた。君の父親と一緒にね。」
「彼女を助け出すこともできた、だけどね、あの頃は俺が剣たちを使い始めて間もない頃でね。安定して使いこなすことができなかったんだ。」
それよりも俺は話すべきことがあった。
「美奈のことはみんなになんて説明しますか? 」
「ん? そんなもん『年頃だから察してやってくれ。』というしか無くないか? 全部彼女次第だよ。」
「あなたに相談して本当に良かったです。」
「ほはぁ。それはよかった。」
「ええ良かったですよ。 本当にね。」
俺たちが地下空洞を出ると、みんながいた。
「もう、メリゴ大陸の件は片付いたのですか? 」
「ああ、ワーメリゴンたちが頑張ってくれているおかげでね。極東は大赤字だが、ワーメリゴンたちに多額の通貨が流れたことで、メリゴ大陸は目まぐるしい発展を遂げているよ。」
「ああ……干されるわ。」
「俺もだよちくしょう。」
琵琶が俺の背中を優しく叩く。
「軍法会議だってよ。頑張れな。」
馬田が琵琶を止める。
「おい、琵琶。」
鏡子は相変わらず自分の顔を見ている。
斥がこちらに来た。
「またお前に先を越されちまったようだな。」
「そんなことはない、お前のおかげさ。」
それから黒澄が顔を背けながら、俺の腰をツンツンと叩いてくる。
「何? 疲れてるんだ。」
「一人でなんでも解決して……バカ。」
なんでもは全くだが、一人でって言うのは違う。
「しょうがねえだろ。契約者たちは事後処理で誰一人動けなかったわけだし。それに一人じゃねえ。」
そう言って、凛月奪還のMVPである新潟を探した。
「新潟は? 」
「気になるの? 」
「あのなぁ。」
「家の方で色々と話をつけているみたい。あの子も家が家だから。」
「そうか、面倒なことに巻き込んじまったな。」
雑談していると、麻川が皆を呼んだ。
「ブレイク兄弟が目を覚ます前に逃げるぞ。」
熱海、灰弩、羽々斬が動力源のチェックをしている。
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