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悪魔の国
凛月を求めて
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メリゴ大陸を出発してから二週間、俺たちはカタルゴ大陸のど真ん中に居た。
予想より何倍も早いペース。
コレも、新潟の体力が人間離れしているせいだ。
鬼である俺が人間の彼女に置いていかれそうなのである。
コレはカタルゴ大陸横断RTA新記録だななんて思っていたら七宝から通信が届いた。
どうやら極東が襲撃されて、事後処理に追われているらしい。
どうやらワーメリゴンも復興に協力してくれるらしく、ゲートが開通し次第、すぐに極東へと帰らなければならなくなったそうだ。
俺は槍馬と美奈の安否を聞こうとするが、そこで通信は切れてしまう。
俺たちは砂漠を抜けて、サバンナに差し掛かった頃、オアシスのほとりにある小さな町を見つけた。
そこで俺は新潟からワーメリゴンの帽子を渡される。
「ほら変装。僕たちはワーメリゴンから来た孤児の行商人で……不服だが、君が兄で僕が妹。」
全部七宝が考えた設定だ。なんだコレは職権濫用じゃないか。
「ほーらおにーちゃんやっと町が見えてきたよ。早くいかなきゃ。」
さっきの気難しい顔とは正反対の無垢な笑顔。
「お前にやられても嬉しきゃねえよ!! 黒澄ならまだしも。」
「ふーん千代なら良いんだ。後でメッセージ送っとこーっと。」
つい口が滑ってしまった。
「そういう意味じゃねえ!! 」
「わーお兄ちゃんが虐めるぅ誰か助けてぇ。」
周りの人間がジロジロと俺たちを見ている。
下手に目立ちすぎだなコレは。
すると新潟が俺の太ももをつねってきた。
「……ほら早く演技をするんだ!! 君がぎこちないせいで疑われているじゃないか。」
そうじゃないと思います。
「あーごめんな、お兄ちゃんが悪かった。ほーらあそこの露店でお菓子を売ってるぞーお兄ちゃんが買ってあげようなー。」
「えへへお兄ちゃん大好き。」
すると周りの大人たちは、俺たちに慈しみの心を向け、中には泣き出す老人もいた。
「こんな小さい子が。うちの孫と一緒に育ててやりたい。」
「この年で働いているのか。お労しやお労しや。」
コイツら、馬鹿なのか?
新潟が美味しそうに丸いドーナツを食っている。
確か南国の方でも同じようなお菓子があったような。
サーター? なんだっけな。
「ほら行くぞ。次の町だ。」
急にスピードを上げた彼女の背中に付き、体力の消耗を抑える。
「なぁ新潟。」
「なんだい? 余計な体力は使わせて欲しくないんだけど。」
「なんでアスィールは凛月を盗んでいったんだ? 」
「そんなこと、僕に聞くなよな。」
そうだ。凛月がいかに優れた武器であろうとも、契約相手がいなければなんの役にも立たない。
あの時、俺を生捕りに出来たわけだし、宿主ごと連れ去ることも出来たわけだ。
俺ほど彼女と適合した人間などいないだろう……というのは自分を過信し過ぎているか。
「きっと王様も気がついたんだよ。彼女の魅力に。王様は、凛月のことが好きで好きで忘れられなくなって、夜も眠れなくなったんだ。」
ああ、コイツに聞いたのが間違いだった。
新潟は身体能力も、座学の成績もトップクラスなのに、凛月の話題になると、途端にIQが下がる。
どうやら恋が人を盲目にするというのは本当の話らしい。
「あーそうだなお前に聞くようなことをする俺のオツムが弱いんだよきっと。」
「そうだよ、凛月の魅力に気づいていないキミはバカだ。そうだろ座学最下位。」
「もうそのネタは辞めてくれよ。鬼だって心が傷つくんだ。」
だが、案外王様も、深くは考えていないんじゃないかな。
が、それは無性に腹が立つな。人様のもんを勝手に盗んでおいて、その動機が骨董品のコレクトって。
* * *
極東の上層部ではお通夜のムードが室内を充満させていた。
「……極長、何か言うかとはないか? 」
「十三部隊は、聖の脅威から都を守った。現に隊員の須崎美奈は、天子を助けるために、自ら人質にへとなりました。貴方が部下に命令を出すこともなく、慌てて地下シェルターへと逃げ込んでいるいる間にね。」
「そう言うことを言っているのではない。七宝君の遠征の件だ。彼が極東に残って居てくれれば、こんなことにはなっていなかった。」
大藤が二人に割って入る。
「場をわきまえてください御二方、建設的な議会にしましょう。契約者が拐われ、魔具を奪われた中、極東はどうするべきなのか。」
そこで新潟が手を上げた。
「私の娘が、魔具奪還に勤しんでおります。もうしばらくお待ちを。」
「十三部隊は、メリゴ大陸の開拓と、都の治安維持に忙しい。須崎を助けに行くことは難しいな。」
「グランディルに使者を送れ。ワシが手紙を書く。」
そこに小さな童がゆっくりと円卓に向けて歩いてくる。
「天子様? 」
「ててて天子様!! 実権は私にお任せくださいと……」
「控えろ伴。ワシはもう堪忍袋の尾が切れた。」
「そして無力な自分にもな。」
天子は円卓に少し背の高い椅子を置くと、そこにちょこんと座る。
「美奈はワシの大切な臣下じゃ。必ずワシの手で取り返す。」
「資料を見せろ。極東の復興に取り掛かるぞ。」
予想より何倍も早いペース。
コレも、新潟の体力が人間離れしているせいだ。
鬼である俺が人間の彼女に置いていかれそうなのである。
コレはカタルゴ大陸横断RTA新記録だななんて思っていたら七宝から通信が届いた。
どうやら極東が襲撃されて、事後処理に追われているらしい。
どうやらワーメリゴンも復興に協力してくれるらしく、ゲートが開通し次第、すぐに極東へと帰らなければならなくなったそうだ。
俺は槍馬と美奈の安否を聞こうとするが、そこで通信は切れてしまう。
俺たちは砂漠を抜けて、サバンナに差し掛かった頃、オアシスのほとりにある小さな町を見つけた。
そこで俺は新潟からワーメリゴンの帽子を渡される。
「ほら変装。僕たちはワーメリゴンから来た孤児の行商人で……不服だが、君が兄で僕が妹。」
全部七宝が考えた設定だ。なんだコレは職権濫用じゃないか。
「ほーらおにーちゃんやっと町が見えてきたよ。早くいかなきゃ。」
さっきの気難しい顔とは正反対の無垢な笑顔。
「お前にやられても嬉しきゃねえよ!! 黒澄ならまだしも。」
「ふーん千代なら良いんだ。後でメッセージ送っとこーっと。」
つい口が滑ってしまった。
「そういう意味じゃねえ!! 」
「わーお兄ちゃんが虐めるぅ誰か助けてぇ。」
周りの人間がジロジロと俺たちを見ている。
下手に目立ちすぎだなコレは。
すると新潟が俺の太ももをつねってきた。
「……ほら早く演技をするんだ!! 君がぎこちないせいで疑われているじゃないか。」
そうじゃないと思います。
「あーごめんな、お兄ちゃんが悪かった。ほーらあそこの露店でお菓子を売ってるぞーお兄ちゃんが買ってあげようなー。」
「えへへお兄ちゃん大好き。」
すると周りの大人たちは、俺たちに慈しみの心を向け、中には泣き出す老人もいた。
「こんな小さい子が。うちの孫と一緒に育ててやりたい。」
「この年で働いているのか。お労しやお労しや。」
コイツら、馬鹿なのか?
新潟が美味しそうに丸いドーナツを食っている。
確か南国の方でも同じようなお菓子があったような。
サーター? なんだっけな。
「ほら行くぞ。次の町だ。」
急にスピードを上げた彼女の背中に付き、体力の消耗を抑える。
「なぁ新潟。」
「なんだい? 余計な体力は使わせて欲しくないんだけど。」
「なんでアスィールは凛月を盗んでいったんだ? 」
「そんなこと、僕に聞くなよな。」
そうだ。凛月がいかに優れた武器であろうとも、契約相手がいなければなんの役にも立たない。
あの時、俺を生捕りに出来たわけだし、宿主ごと連れ去ることも出来たわけだ。
俺ほど彼女と適合した人間などいないだろう……というのは自分を過信し過ぎているか。
「きっと王様も気がついたんだよ。彼女の魅力に。王様は、凛月のことが好きで好きで忘れられなくなって、夜も眠れなくなったんだ。」
ああ、コイツに聞いたのが間違いだった。
新潟は身体能力も、座学の成績もトップクラスなのに、凛月の話題になると、途端にIQが下がる。
どうやら恋が人を盲目にするというのは本当の話らしい。
「あーそうだなお前に聞くようなことをする俺のオツムが弱いんだよきっと。」
「そうだよ、凛月の魅力に気づいていないキミはバカだ。そうだろ座学最下位。」
「もうそのネタは辞めてくれよ。鬼だって心が傷つくんだ。」
だが、案外王様も、深くは考えていないんじゃないかな。
が、それは無性に腹が立つな。人様のもんを勝手に盗んでおいて、その動機が骨董品のコレクトって。
* * *
極東の上層部ではお通夜のムードが室内を充満させていた。
「……極長、何か言うかとはないか? 」
「十三部隊は、聖の脅威から都を守った。現に隊員の須崎美奈は、天子を助けるために、自ら人質にへとなりました。貴方が部下に命令を出すこともなく、慌てて地下シェルターへと逃げ込んでいるいる間にね。」
「そう言うことを言っているのではない。七宝君の遠征の件だ。彼が極東に残って居てくれれば、こんなことにはなっていなかった。」
大藤が二人に割って入る。
「場をわきまえてください御二方、建設的な議会にしましょう。契約者が拐われ、魔具を奪われた中、極東はどうするべきなのか。」
そこで新潟が手を上げた。
「私の娘が、魔具奪還に勤しんでおります。もうしばらくお待ちを。」
「十三部隊は、メリゴ大陸の開拓と、都の治安維持に忙しい。須崎を助けに行くことは難しいな。」
「グランディルに使者を送れ。ワシが手紙を書く。」
そこに小さな童がゆっくりと円卓に向けて歩いてくる。
「天子様? 」
「ててて天子様!! 実権は私にお任せくださいと……」
「控えろ伴。ワシはもう堪忍袋の尾が切れた。」
「そして無力な自分にもな。」
天子は円卓に少し背の高い椅子を置くと、そこにちょこんと座る。
「美奈はワシの大切な臣下じゃ。必ずワシの手で取り返す。」
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