神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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大陸遠征

梓帆手

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 俺たちは砂浜に足をつける。 
 各々、その歴史的瞬間を肌身で味わおうと、慎重な足取りになっていた。
 全員が浜に降り立つと、麻川が、ひとまず能力を解除する。
「𓍯𓇋𓎡𓇋𓋴𓄿𓅓𓄿𓈖𓄿𓈖𓇋𓅱𓍯𓋴𓇋𓏏𓇌𓇋𓂋𓍢」
 派手な服を来た現地人が、俺たちに槍を向ける。
 何を話しているか分からないが、霧島が翻訳してくれたらしい。
 俺にも聞き取れるようになった。
「貴様たちは誰だ? 聖か? 返答次第ではそれ相応の態度を取らせてもらう!! 」
 と、後ろから怖物の生き物がノシノシ歩いて来た。
「おい待て、彼らは聖ではない。顔をよく見ろ。奴らはこんなに顔色が良くない。」
「リーダー!! 」
 どうやら彼がこの集団の長らしい。が頭に生えた二対の角を見て、俺は唖然した。
 七宝が前に出てくる。
「俺たちは極東軍だ。メリゴ大陸に渡るために北上して来た。貴方に危害を加えに来た訳ではない。」
 すると長らしき男は俺たちをその大きな眼でギョロギョロと見つめてから、俺の存在に気づき、振り返った。
「集落に来い。ここは春でもまだ寒さが厳しい。野宿は危険だ。」
「リーダー!! 彼らを信用しても良いんですか? 彼らも聖たち見たいに、我々を奴隷にしに来たのかも知れない。」
「その心配はない。彼らを村に入れろ。」
 そう言って彼は歩き出した。
「それと、そこのツノ持ち。後で俺のところに来い。」
 頭にツノの生えた人間なんているはずが無いので、十中八九、俺のことだろう。
「分かった。お前の家は後でコイツらに聞いておく。」
 俺たちは彼らに連れられて、集落へと、やって来た。
 どうやら彼らはルーシーと呼ばれる民族らしい。
 もっと内陸の方に住んでいたが、聖たちに土地を奪われ、こんな辺境まで来たらしい。
 彼らの奴隷になりそうなところを、リーダー:梓帆手シボテという鬼に助けられたらしい。
 彼には戦闘能力こそないが、他人を強化する呪術に優れているらしい。
 ルーシーたちを強化した彼は、聖を退けさせながら、ここまで彼らを導き、能力でこの村を開拓させたらしい。
 十三部隊の皆が、祭りに参加する中、俺だけはルーシーに連れられて、梓帆手の館まで来た。
「良く来たな、ボウズ。まぁ座れ。」
 俺は尻をつき、両足を組む。
「アンタも鬼か? なぜ俺を助けた。」
 梓帆手が口を開いた。
「鬼を見たのは久しぶりだ。聖は俺たちを見つけると、躍起になって浄化しにくる。数もだいぶ減ってだな。呪具だけが人間の手に渡り、戦へと利用されている。」
「なぜ? 聖は鬼や吸血鬼を狩るんだ? 」
 梓帆手は西の方をその大きな親指で突き出した。
「ローランド大陸の西側に何があるか知っているか? 」
 俺は首を横に振る。
「俺は極東から出たことが無かった。今日までな。」
「強大な虚無空間だ。あの土地は、強烈な瘴気が充満していて、草木一本すら生えない。試しに先駆植物を強化し、あの土地に巻いたところで、ダメだった。」
「お前はなんともないのか? 」
「ああ、俺は鬼だからな。だがお前は辞めておけ。半分人間だろう? 」
「と、話を戻そう。彼らが俺たちの処理を躍起になる理由。」
「それは、俺たちがシド・ブレイクの術式で生まれた副産物だからだ。」
 俺は身を乗り出した。
「それはどういう事だ。」
 梓帆手は首を傾げる。
「俺もそこまでは良く分からない。気がつけば、シベリアという収容所らしき場所で倒れていた。自分が何者であるかも分からない。だが俺はただ、そこにあった。俺は見たぞ。まだ若き頃の剣を携えた彼の姿を。」
「それからは? 」
「そこからはお前らも知っている通りだ。シド・ブレイクは世界を支配していた神族を民族浄化し、今のグランディル帝国を作った。」
「てことはとどのつまり、鬼はそのシベリアって場所で生まれたということか? 」
「多分な。お前の親も。」
 梓帆手はこちらを見た。
「そう言えば、お前の両親の話を聞いていなかった。鬼は子を作ると、陽の気と陰の気が暴走して灰に還るからな。だがお前にそう言った症状は見られないし、それどころか安定している。」
 俺はなぜ梓帆手がそのようなことを知っているかは聞かない事にした。
「母さんは鬼だった。父さんのことは……あまり知らない。だが、母さんは父さんが『英雄』だと言っていた。」
 梓帆手は大声で笑い出す。
「英雄かぁ。大層な肩書きだなw いやいや、悪い悪い。お前の父親は鬼の血にも耐えられるほどの人間だったわけか。」
「それでそれで? お前の両親は? 今どうしている? 」
「……」
 梓帆手も察したのだろう。少し慌てた顔をしていた。
「悪い。悪気は無かった。許せよ同志。」
「聖に殺されたんだ。父さんも母さんも。」
「母さんは、聖たちに……そして父さんは……」
 腹の底から熱が込み上げてくる。
 気がつけば、俺は右手に握っていた湯呑みを握りつぶしていた。
「なるほど、それがお前を軍人にした理由か。」
 梓帆手は腕を組み出した。
「お前はまだ若い。なら、復讐を遂げた後のことを考えねばならん。当然グランディルの人間は、お前と同じように、お前をそのままにはしておかないだろうし、残りの人生をどう過ごすかも考えねばならん。」
 俺は心なく吐き捨てた。
「復讐を遂げたモノに真っ当な人生を生きる権利なんてありません。」
 梓帆手は眉をハの字に曲げる。
「つまり何も考えていないということだな。」
「……」
 何も言い返せ無かった。
「今のお前はシド・ブレイクだ。神族から、聖へ、聖からお前へ。同じ歴史を繰り返している。聖を狩り尽くした後はどうする? お前が皇帝になるのか? 」
 皇帝になりたい訳ではない。だが、真剣に首を傾けて見せた。
「うーん。やっぱり俺は皇帝って柄では無いかな。」
 その言葉を聞くと、梓帆手は立ち上がり、館を出て行こうとした。
「全部終わって、途方に暮れたら、俺のところに来い。」
 彼はその言葉だけを残して暖簾のれんをかきわけた。

 
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