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大陸遠征

間話

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 あの後、七条であったトラブルを二、三件片付けてから寮に戻り、床についた。
 昨日のことはあまり覚えていない。無意識のうちに時間が過ぎていて、気がつけば朝になっていた。
 原因は言わずとも分かる。原因は七宝が漏らした遠征についてだ。
 俺は書物をいくつか鞄に押し込むと、いつも通り悲田院へと赴いた。
 十三部隊の養成教室へと入ると、彼らはいつも通りに談笑していた。
 槍馬も、美奈も、斥も、鏡子も、加賀谷木も。
 新潟はいつも通りに鋏を研ぎ、黒澄は朝に予習をしている。
 異常でなくて異常な光景。
 俺は彼らを見て、ここの人間が異常であることを思い出す。
 俺たちはまだ十代の子供であるのだ。
 だがしかし、隊長の命令を破り遠征の話をするものは一人も居なかった。
 意識的な無意識。異常にまでに計算された平凡。
 コレが俺の精神をグリグリと削った。
 彼らは内部告発者を恐れているの忠犬か? それとも情報が外に流れることを恐れる任務に忠実な獣か?
 美奈が俺に気がつき、こちらにやってくる。
「あっ慎二だ!! 」
「お、おお。」
 俺は昨日のことを美奈に聞きたい気持ちが、胃から声帯まで上がってくるのをグッと抑えた。
「槍馬ね? あのストラップとっても喜んでたよ。」
「よお……慎二。」
「ああ……槍馬。」
 槍馬も同じ気持ちのようだ。
 お互いがお互いの腹の内を見たい。
 だがどこからとなく冷たい視線がこちらを見つめ、会話が続かない。
 急に斥が声を上げた。
「な…なんだって!! 」
「そりゃ好きだぞお前のこと。思わせぶりな態度を取るのは斥と慎二だけだからな。」
 鏡子だ。
「慎二も!? 」
 コイツは……てか誰がいつ思わせぶりな態度をしたんだよ。
「全部嘘。ホントにお前は面白いな、ちょっとからかっただけですぐに顔を赤くして。」
「なんだ…良かった…いや良くない、いや、どっちだ。」
 鏡子が席を立ち、すれ違いざまに耳打ちする。
「感情を表に出すな。上に処分されるぞ。」
 鏡子の演技のおかげで、なんとかこのムードを乗り切ることができた。
 ヨレンの鐘が鳴ったので、俺たちは席に着く。
 黒澄が少し怒った声で(いや、いつも怒っているのだが)
「首の怪我、もう治ったのね。」
 とだけ言った。
"いや、謝罪の一つもなしかよ。"
 と 俺は思った。
 確かに投げ飛ばしたのは吉田かもしれないけど……
 教室内は少し湿布臭かった。昨日の実技で身体を痛めた奴でもいたのだろう。
 俺は大きな欠伸をする。
 お世辞にも、塹壕の掘り方や、広げ方、隊列の組み方、曲輪の作り方が、俺たち契約者の役に立つとは思わなかった。
 一般少年兵と同じカリキュラムだと思えば、納得出来るが、そもそも、このやり方は契約者に合っていない。
 "せめて、実戦経験豊富な、霧島たちにまた教えてもらえねえかな。"
 と思い、二回目の欠伸をする。
「桐生、眠そうだな。丁度いい。お前なら、塹壕をどのように広げ、どのように活用するかを知っていそうだ。」
 俺は頭を掻きながら、ダルそうに答える。
「塹壕が対聖戦に、どのようなメリットを生むんですか? 奴らは地形変性はもちろん、空だって飛び始める始末。鏡子や羽々斬に壁を作らせた方がまだマシですよ。」
「キサマァ。」
 気がつくと俺は廊下にバケツを二つ持たされて立たされていた。
 なんだかしょっぱい。泣いてなんかいない。ちょっと目にゴミが入っただけだ。
「そんなんだから聖相手に損害を出し続けたんだ。」
 

 
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