神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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極東

実技演習

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 俺たちは久しぶりに道場へと足を踏み入れた。
 額縁に飾られている先代の師範たち、少し黒ずんだ付け柱、いつもの道場だ。
 前の演習からは、二ヶ月も経っていないはずなのに、懐かしさを感じる。
 床板に俺の顔が映り、手入れが行き届いていることを物語っている。
 担当教官が指示を出した。
「コレより演習を始める。二人組を作れ。
だが忘れるな。コレは訓練だ。戦闘経験を積むために、多種多様な契約者と戦うのだ。」
 俺はどおり、槍馬に話しかけようとした。
 が、彼は美奈の元に行ってしまったので、俺は一人になった。
"美奈なんて、お前が誘わなくても、勝手にペアが出来るだろうが!! "
 俺は次に斥へと話しかけようとするが、彼は先に羽々斬とペアを組んでいる。
 水崎は変幻と、例田は加賀谷木と、金田は、鉄胃と……
 そこで吉川へと話しかけようとしてた黒澄が俺に気づき、振り返る。
 すると彼女は俺の方を見て、「クスッ」と笑う。
 他に、他に余っている人間は……
 そうだ、今日は花川が任務に出てるから奇数だった。
 そうしているうちに、したり顔の彼女がこちらに歩いてくる。
「どうしたの? そんなにキョロキョロして、相手が居ないの? 」
「んな訳あるか、俺は槍馬んところに入れてもらうんだよ。」
 苦し紛れに出た俺の言い訳はコレだ。馬田なら、もっとマシな答えが出たと思う。
「でも坂田君は、美奈とのお話に夢中で、慎二のことなんてまるで眼中に無いみたいだけど……」
 コイツに頭を下げるなんてごめんだ。
 そう言ったくだらないプライドで意地を張っているうちに、吉川が俺のことを呼んだ。
「桐生君あまり? だったら入れてあげようよ千代!! 」
 もう泣きたい。
「…りがとう。」
 さらに調子が良くなった黒澄は耳に手を当てると
「ん? なんて? 聞こえないなぁ~」
 と言ったので、俺は
「ありがとう、相手いなくて困ってました。」
 と叫んだ。
 担当教官はペアを組み終わったことを確認すると、指示を出してきた。
「ん? なんだ? 桐生は俺とやる予定だったが、まぁ良いか。それじゃ適当に初めて行ってくれ。」
 そうならそうと最初から言ってくれよ。
 まぁ良い、教官とはいえ、生身の人間じゃ訓練にもならないからな。
「ピュン。」
 風を斬るような軽い音。
 俺はそれが彼女の心だということを理解して、ようやく斬られたことに気がつく。
 俺はお返しにと、吉川向けて凛月を飛ばした。
「キン。」
 軽い金属音とともに、攻撃が金剛によって弾き返される。
---金剛落コンゴウオトシ---
 俺の頭上に、無数のツララが生成され、俺を貫かんとする。
「オイ、お前ら、二体一なんて卑怯だぞ!! 」
 俺の情けない言葉が、道場一杯に響き渡る。それに気がついた周りの契約者たちが、演習を辞めて俺の方を見る。
 いつもの俺なら、二人なんて簡単に屠ることができたであろう。
 だが、今は身体強化の呪術を使うことが出来ない。視野を広げることもできない。
 俺は身体に電流を流し、かろうじて彼女たちの攻撃を避けると、脳を電流で叩き上げる。
 処理能力を急加速させて、痛みは、電極の遮断によってシャットアウトする。
 地面を蹴り上げた吉川が、拳に黒い塊を宿して、俺の懐に潜り込む。
「人の着替え覗いたりとか、千代のことチラチラ見てたりとかキメえんだよ。」
 吉川はこんなこと言わない。
 コレは彼女に魔具が補完した悪意だ。
 つうか水崎の件は完全な不可抗力だろ。
 間違えて男子更衣室で着替えてたのはアイツだ。
 左腕に電流を流す、左手は吸い込まれるように、彼女の右腕を掴もうとした。
「触るな変態!! 」
 黒澄に横から金剛宿した拳で殴られる。
「んぶッ。」
 俺は意識が一瞬飛びそうになり、屋根まで飛ばされたことを確認すると、磁場操作で反転し、天井の上に着地する。
---金剛波コンゴウハ---
       ---心喰波シンクウハ---
 彼女たちは、天井を走っているゴキブリを見るような目で、俺に攻撃を飛ばしてくる。
"もう俺の負けで良い?"
 が、考えを改める。
 今負けたら、今後、ずっとマウントを取ってくるだろうし、なんか違う気がするから。
---雷核ライカク---
 電磁フィールドが俺の体を覆う。と同時に、磁場操作を解除し、体勢を立て直すと、彼女たち向けて飛び降りる。
 高いところからの奇襲。これじゃ本当にゴキブリじゃないか!!
 俺は雷核の耐久を気にしながら、避けられるものだけは、確実に避ける。
 彼女たちがバックステップすると、遅れて着地し、今度は捨て身で彼女たちに接近した。
 度重なる攻撃で雷核が砕け散る。
 と同時に彼女たちの喉笛向けて、チャクラムと小太刀をそれぞれ押し当てた。
「「わわ、降参!! 」」
 俺はその言葉を聞き入れると、凛月を彼女たちの喉笛から下ろした。
「?? 」
 とてつもない衝撃。
 天と地がひっくり返る。
"あー投げられたか。"
 吉川が俺を見下ろしている。
「はーい。私たちの勝ち!! 」
「慎二よっわ。」
 と黒澄。
「俺は聞いたぞ確かに『降参』ってな。」
「『降参』とは言ったけど、『降参する』とは言ってないヨ。」
 吉川はそういうと、井戸の方へと行ってしまった。
 黒澄も
「慎二はホント騙されやすいよね。」
 と言い残し、吉川の後を追って行った。
 俺はしばらく、ピカピカの床に仰向けで倒れ、
「殺しとくべきだったな!! 」
と叫んだ。
 


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