神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

文字の大きさ
上 下
14 / 145
極東

会議

しおりを挟む
 ここは極東の中枢。大内裏の極東太政院。
 つまり伴光の館だ。
 極東には珍しい密閉された空間に、巨大な円卓が配置され、それを囲むように側近たちが椅子に腰を掛けている。
 光源は足元から照らされているライトのみ。
 それゆえに部屋はほんのり薄暗かった。
 民部の大藤、武家筆頭の新潟、そして桐生家と坂田家の席には新しく、黒澄家と羽々斬家が居座っていた。
 そして隣で大きな欠伸をしているのが、兵部省、極長の坂上頼次だ。
 伴光が咳払いをして口を開いた。
「挨拶は省きます。そういう関係でも無いですし。」
「さて今回の議題ですが、極東の人口問題と資源について。」
「極東はここ五年で人口を25%も増やし、資源消費量は200%、つまり五年前の2倍にまで膨れ上がりました。」
「ゆえに私は徴兵、遠征で口減らしをおこなっておりましたが、極長。あなたたちのが活躍されたことにより、それを行うことが難しくなりました。」
 私は思わず口を挟んだ。
「伴殿、発言よろしいでしょうか。新潟、黒澄、羽々斬家の前でその発言は、いささか倫理観にかける発言なのでは? 」
 それを新潟が遮る。
「まぁまぁ落ち着きたまえ七宝殿。私たちは気にしていない。伴殿続けてくれ。」
 伴は極長の元へと振り返る。
「このままでは中流階級をコントロールすることすら危うい。力で抑え込むというのにも限度がありますが。」
 彼は大きく伸びると、立ち上がり、ケースから書類を取り出すと、円卓に搭載されている端末にメモリーを接続させ、真ん中のモニターに資料を映し出す。
「伴総統。私だって何も考えずに、十三部隊を戦場に登用した訳ではないよ。君の非生産的なマニュフェストに正直うんざりしたっていうのはあるけどね。」
 伴は眉を顰め、すかさず言い返した。
「そもそも、天様が禍々しい力を手にしなければ、こうなることもなかった。」
「同時に私たちもグランディルに隷属していたことだろう。」
「君が奴隷として彼らの貴族たちに飼われていた未来だって存在するんだよ。いや、君じゃ絶対無理でしょ。そのプライドじゃ。」
 伴の顔が紅葉のように染まる。頭に血が昇っているのが分かる。
「ならその責任、全部取ってもらうぞ。」
「言われなくてもそのつもりです。だからこうやって資料を用意して、貴方のような頑固モノにでも分かるように、デジタル資料も作ってきたんですよ。」
 今度は極長が咳払いをした。
「ゴホン。それでは改めて始めさせて頂きますか。」
「皆さん、ご存知の通り、極東の鉄鋼の九割以上はウボクからの輸入品であります。
コレは問題だ。」
 伴がまた口を挟む。
「それが極東の人口問題となんの関係があるんだ? 」
 極長は愉快に手を叩いている。
「よくぞ聞いて下さいました。」
「まず鉄グスの輸入には莫大なコストがかかっていること、コレが極東の財政を圧迫していることは確かです。そのせいで極東の建築物のほとんどは木造、家具にも金属が使われることは必要最低限しかない。」
「こちらをご覧ください。極東の暴徒や、聖の襲撃で火がつけられた場合、極東の建造物の八割が焼失するというデータが出ています。もちろん大内裏もね。おお?伴殿、赤くなったり青くなったりお忙しいですね。」
 伴の顔はさっきとは対照的に血の気が引いて真っ青になっていた。
「ならどうすれば良いか? 答えは簡単ですよ。取りに行くんです。どこの利権も無いところから。」
 興味を持った大藤が口を挟んだ。
「どこの権力も及んでいない場所? そんな場所はない。ほとんどはグランディルが平定してしまったが、一体どこにそんな都合のいい場所があるというのだね坂上くん。」
 坂上は両手を掲げる。
「あるじゃないですか。はるか東に巨大な大陸が。」
 大藤は絶句した。
「メリゴ…大陸……そんなところまで兵が派遣できるわけが……」
「いますよ、とっておきの部隊が。契約者なら十五人いれば、メリゴ大陸とポータルを繋ぐことが可能だというデータが出ています。そうすれば、メリゴ大陸は極東の領土であるも当然。初めて極東が進軍するんですよ世界に。これまでの耐え凌ぐ政策はもう終わりだ。これからはグランディル、セルという強国と肩を並べるのです。」
 メリゴ大陸への遠征……
 あまりにも大きな彼の野望に、私は震え上がった。
 周りの側近からの反応から、他の人間たちも同じように震え上がった事だろう。
「もちろん何人かは極東に残します。暴徒、他国からの侵略、得美士がまた攻めてこないとも限らない。国内の問題は山積みです。」
「遠征にまで一ヶ月ほど猶予も頂きたい、この計画は完璧に成功させたいですから。機械の整備やら、備品補充、契約者たちが遠征できるように訓練させる必要もある。
 こんなこと過去に無い前例ですからね。」
 黒澄が立ち上がった。
「必要なら私の娘も使ってくれ。」
 コイツに黒澄の親を名乗る権利があるのかは分からなかった。
 が私は、この上ない違和感を飲み込む。
「もちろん作戦の指揮は七宝君、君だよ。君が部隊を編成したまえ。」
 私はその言葉でハッと我に帰った。
「はい、極東の未来のために。」
 





しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

続・歴史改変戦記「北のまほろば」

高木一優
SF
この物語は『歴史改変戦記「信長、中国を攻めるってよ」』の続編になります。正編のあらすじは序章で説明されますので、続編から読み始めても問題ありません。 タイム・マシンが実用化された近未来、歴史学者である私の論文が中国政府に採用され歴史改変実験「碧海作戦」が発動される。私の秘書官・戸部典子は歴女の知識を活用して戦国武将たちを支援する。歴史改変により織田信長は中国本土に攻め入り中華帝国を築き上げたのだが、日本国は帝国に飲み込まれて消滅してしまった。信長の中華帝国は殷賑を極め、世界の富を集める経済大国へと成長する。やがて西欧の勢力が帝国を襲い、私と戸部典子は真田信繁と伊達政宗を助けて西欧艦隊の攻撃を退け、ローマ教皇の領土的野心を砕く。平和が訪れたのもつかの間、十七世紀の帝国の北方では再び戦乱が巻き起ころうとしていた。歴史を思考実験するポリティカル歴史改変コメディー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

無職で何が悪い!

アタラクシア
ファンタジー
今いるこの世界の隣に『ネリオミア』という世界がある。魔法が一般的に使え、魔物と呼ばれる人間に仇をなす生物がそこら辺を歩いているような世界。これはそんな世界でのお話――。 消えた父親を追って世界を旅している少女「ヘキオン」は、いつものように魔物の素材を売ってお金を貯めていた。 ある日普通ならいないはずのウルフロードにヘキオンは襲われてしまう。そこに現れたのは木の棒を持った謎の男。熟練の冒険者でも倒すのに一苦労するほど強いウルフロードを一撃で倒したその男の名は「カエデ」という。 ひょんなことから一緒に冒険することになったヘキオンとカエデは、様々な所を冒険することになる。そしてヘキオンの父親への真相も徐々に明らかになってゆく――。 毎日8時半更新中!

―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。 そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。 そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。 そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。 そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。 果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。 未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する―― 注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。 注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。 注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。 注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

処理中です...