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極東

夷狩

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 七宝の剣に掴まった俺は、東にある得美士のアジトへと着いた。
 彼らは丘陵地の中身をくり抜き、アジトとして使っていたらしい。
 麓で契約者たちが戦っている。
 おそらく不意打ちにあったのだろう、陣形が乱れて、各々、自分のことで手一杯の様子であった。
 山頂ではリーダーと思わしき人物と、槍馬が戦っていた。
「槍馬!! 」
 俺は剣から飛び降りると、満身創痍で倒れかけた彼へと駆けていく。
「やはり、お前の頭脳では、その魔術具を満足に使いこなすことも出来ないようだな。」
 リーダーは不敵に笑った。
「慎二…気をつけろ。奴は魔術具と契約している。」
「ああ、ゆっくり休め。」
 俺は立ち上がると、リーダーの方を見た。
「お前が『得美士』だな。」
「いかにも、は私が得美士だ。だな台与鬼子とよのきし。」
 久しぶり? 俺はコイツとどこかで会ったのか? 
「悪い悪い。お前が覚えているはずも無いな。昔話をしよう。」
 七宝がそれを遮る。
「慎二、奴の話を聞くな。」
 隊長に過去の話を聞くと、はぐらかされる。
 最初は俺のことを安じてくれていたのだと思っていたが、どうもそうでは無いらしい。
 俺は過去が知りたかった。隊長が父さんが、母さんが見た世界を。
「俺たちは都の人間から蝦夷と呼ばれていた。仏を信仰していたんだ。元々な。」
「だが、宗教って言うのは、そのなんだ。規模が大きくなるにつれて、色々な価値観の人間が増えていく。」
「やがて俺たちは、宗教で金儲けをしようとする吉田家と古き良き教えを守ろうとする𠮷田家へと分裂した。」
「吉田家の人間は、金を持っていたから、極東に賄賂を贈ることが出来た。」
「しばらくして、極東からおふれがでたよ。『𠮷田家』を討伐しろってな。」
 俺は今にも飛び掛からんとする隊長を遮り、得美士の話に割って入った。
「その話が俺となんの関係がある。」
「元得美士様は、お前の父さんと母さんに殺された。そしてそこで伸びているガキの父親にな。」
 「俺たちは蝦夷なんて言われて賊として扱われているが、何も間違っていないと思っている。」
 俺は思わず言葉を漏らした。
「お前は…何を言っているんだ? 」
「復讐だ。奴らに対する。」
 初めて向けられた感情に戦慄する。
 心が揺れ、鳥肌が立つ。
 それだけ、彼の言葉には力がこもっていた。
 いや、俺は何を言っているんだ?
 俺はコレまで、人をたくさん殺めてきた。
 この感情を他人からぶつけられたことが無かったことの方が奇跡に等しい。
 ナイフを構えて、走り込んでくる得美士を、隊長の剣が弾き返す。
「武器を構えろ慎二!! 任務中だ。」
 俺は銃鬼に問いかけた。
「なぁ銃鬼、今の話は本当か? 」
---ああ、もちろんじゃ。あの男が言っとることは、一文字たりとも間違ってはおらん。全部事実じゃ。たとえ史実として間違っておるとものぉ---
「俺はどうするべきだ? 」
---それはお主が決めることじゃ。好きな時にトリガーを引けば良い。わしが力を貸してやる---
「凛月。」
---あの人は嘘をついていないよ。でも決めるのは宿主である慎二。大丈夫、どんな形になろうとも私は君の味方だから---
「俺は……俺は……」
「慎二ィ!! 」
 得美士を抑え込んでいる七宝が叫んだ。
「お前は自分の正当性を証明するために、十三部隊に入ったのか? 」
「……」
 俺は今更何を考えていたのだろう。呪具を手にしたあの瞬間から、俺の運命は決まっていた。
 もう戻れない、今更。
 七宝の剣が得美士の伸びた腕によって絡みとられて、彼の右手が七宝にクリーンヒットする。
 俺は懺悔をするために十三部隊に入った訳でも、自分を正当化するために強くなったわけでも無い。
「聖への復讐だ!! 」
 七宝が吹っ飛ぶと共に俺は銃鬼の引き金を引いた。
---疾風ハヤテ---
 身体強化を施すと共に、銃鬼を宙に投げ、すかさず凛月を腰から取り出す。
---雷轟電撃ライゴウデンゲキ---
 迸る激しい電撃が耳を聾するような音を立て、彼の体を貫いた。
 俺は振り返り、得美士を見る。
「…ックックック……」
「クハハハハハ。」
 奴には全く効いていなかった。
「呪具、コイツはとんでもねえ兵器だぜ。」
 抉れた胸部は、ゴムのように元に戻った。
 先程の腕の伸び縮みや、衝撃の吸収、それに驚くのほどの絶縁性能。
「なるほど、ゴムか。」
 奴は身体のバネを利用して、ナイフで俺に斬り込んでくる。
「あの女に頼んだのが正解だったな。台与鬼子に勝てる呪具をくれと。」
 鞭のように暴れ回る奴のナイフを両手の凛月でなんとか捌く。
"これじゃ埒が開かねえ。"
 小太刀を力強く振り払い、大きくノックバックさせる。
 すかさずコイルを操作して、飛び出した小太刀の反動で宙に浮かび上がる。
 奴の手は、蔓のように伸びていき、俺を捕らえようとする。
「銃鬼!! 」
 放り投げた銃鬼が自分の左手にすっぽりハマる。
 引き金を数回引いた。
 今度は、伸びてくる触手に向けて。
 凛月の鎖はまだ伸びる。
 最長30キロメートル。
 雲を抜けたころ、奴の手は限界に達して、関節が抜ける音がした。
 引いていく手とは対照的に、何かがこちらに迫って来ている。
 目視することは出来ないが、俺はそれが何か分かっていた。
 地上に刺さっている小太刀を電流操作で引き抜き、引き付ける。
 遅れて得美士が圧倒的な跳躍力で上空20キロメートルまで這い上がってきた。
「台与鬼子ィ!! 」
 引き付けられた小太刀を右手で受け取ると、落下し始めた身体に任せ、大上段を放つ。
---堕雷ラクライ---
 雷を帯びた二振の刃が得美士を襲う。
 奴は左手からもナイフを引き抜き、両手でそれを受け止める。
 凄まじい衝撃。
 地上に雷が落ち、ナイフが砕ける。
 が、奴は衝撃を全身で受け止めると、弾性で弾き返した。
 反作用が俺の両腕を襲う。
「ブチブチ。」
 前腕屈筋あたりに、切り離されたような痛みを感じる。
 続いて、両腕にとてつもない熱を感じた。
---慎二!! ---
 凛月が叫んだ。
「構わない。電気信号のパスを頼む!! 」
---分かった。---
 両腕から痛みが消え、両腕が動くようになる。
 少し違和感があるが問題ない。
「今度は俺の番だぁ!! 」
 ゴムの拳が俺に飛んでくる。
 俺は身体の電極を操作して、その攻撃を避ける。
 そして、すかさず凛月を振るい、彼の喉笛を狙う。
 左手で再び銃鬼を握ると、呪術を発動。
---黒龍弾ホロウ・ストライク---
 漆黒の龍が奴に喰らいつく。
 感覚は確かにあった。
 だが奴は関節を外すと、その鋭い顎から這い出てきた。
 俺たちは重力で逆さになりながら、斬り合った。
 攻撃は当たっているはずなのに、奴には傷ひとつつかない。
 対照的に俺の身体は、かすり傷などで徐々に傷がつき始めていた。
 ついに俺たちは、地上へと激突する。
 凄まじい砂埃を撒き散らすと、俺たちは、距離を取った。
 衝撃でアジトが崩れる。
 丘陵全体が崩れ始めた。
「お前じゃ俺の身体には傷ひとつつけられねえ。大人しく俺に首を差し出せ。そうすれば許してやる。」
「お断りだ。俺にも殺すべき存在がいる。」
 奴には電気が効かない。
 なら。
「凛月、コイルの抵抗を限界まで上げろ。」
---えっ?分かったよ---
 俺は残ったありったけの電気をコイルへと注ぐ。
 電流が重い、コイルに負荷がかかっているのがわかる。
「俺の父さんたちと何の因縁があるかは知らないが……」
「退け。俺の復讐の邪魔だ!! 」
 奴に向けられた感情、そんなものはもうどうでも良かった。
---焦熱電雷刃ブレード・オブ・インフェルノ---
 復讐の業火が得美士を焼き斬る。
 そして俺の両腕を焼いた。
 電極が焼き切れる。
 が、凛月のパスが切れても痛みが戻ってくることはなかった。
 

 
 


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