神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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エピローグ

嵐の前の静けさ。

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 アリーナの熱狂から数日後。
 私、七宝剣は、あのペテン師に呼び出され、極長室に訪れる。
「やぁ。後片付けで疲弊しているところすまないね。」
 察しはついていた。
「グランディル帝国が再び動きを見せたらしい。どうやら東に向けて進軍しているみたいだ。」
「そうですか……なら早急に手を打たねばなりませんね。」
 極長はそこで指を組んでディスクに肘をつく。
「そうだな、彼が北から攻めてくることはまず無いだろう。アソコは瘴気に満ちている。聖といえども、アレほどの虚気を触れればひとたまりも無い。」
「となれば、南から、海路を使ってこちらまで来ますか? 」
「その可能性が高い。南に迂回するとしても、運河を開くにしても、どちらにせよカタルゴ連合国と戦いになることは免れないであろう。」
「カタルゴが保って三年、そこから中立国のセルで補給を済ませて、ウボクががんばっても二年……」
「ならば私がすべきことは……」
 極長は姿勢を正して、私に使命を投げた。
「十三部隊を五年で、完璧な状態にしてくれ。」
「承知いたしました。」
 ここで私は一つの莫大な不安が脳裏に浮かび、極長を問いただした。
「伴光は……」
 極長はその一言で全てを理解していた。
「私も同じ気持ちだよ七宝くん。伴は契約者のことをよく思っていない。彼らが責めて来た時には、極東軍を使い、悪戯に戦力を浪費させることだろう。」
 私は脳内に一つの案が閃く。
「…しますか? 」
 極長は最初に口角を上げ、それから眉を上げて、目を細めて耐えきれんとばかりに笑い出した。
「プププププ。いやいやごめん、君からそんな言葉が出てくるとは思わなかったからさ。いやいや、ヤバすぎでしょ君。流石に僕でもそこまではしない。君が僕のことをそんな奴だと思っていたのなら心外だな。」
 梯子を外された気分。
 いや、その表現すら間違っている気がする。
 でもこの男は
「あの子の父親を殺せと私に命令したのは貴方です。」
「でも、ちゃんと生きてたでしょ。『殺すつもりでやらなきゃ勝てない。』僕が言ったのはそう言うニュアンス。ホントに殺そうとしていたの? うわこわ。独裁者じゃん。」
「とにかく、伴は殺さないよ。そうすれば私の側近としての立場も危うくなる。だって彼、太政官でしょ。天子代理だよ。内裏だけに。」
「ことが来れば、こちらから天子に告げ口してやるさ。彼が物事を自分で判断できるようになったら、自分で判断させれば良い。私はそのお手伝いをするだけさ。側近としてね。」
 極長はとても楽しそうだった。
「そのためにしなければならないことが一つ……」
「また私ですか? 」
「ほう、君は頭の回転が速い。デザイナーズチャイルドは話が早くて助かる。」
「亀田さんは? 」
「だーめだダメダメ。アイツはガキの守りに向いてない。それに、伴がそれを黙って置くはずがない。いやだよ亀田クンが馬から落ちて事故死したりしたらさ。それに契約者もダメ。内裏にすら入れてくれないだろうね。」
 私はため息をついた。
「結局私と言うことになるのですか……」
 極長はコクコク頷く。
「そうそう。君は地位も高いから容易に、彼の元に近づけるし、守りも上手だし、万が一のことがあっても殺されることはないしね。」
 つまりこの男は、私の四肢が曲がれても問題ないと……
 勝手な方だ。
「分かりました引き受けましょう。軟弱で臆病な誰かさんに代わって、この私が。」
「ほう、言うようになったじゃないか七宝くん。十三部隊の件と天子の件、両方頼んだよ。」
 私は極長室を後にした。
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