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演習
新・外京
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ここは、外京。
極長の命で賀茂川と高野川の三角州に作られたリゾート施設である。
彼が臣民にアメを与えた理由。
それは中流階級者に対するガス抜きであった。
近年、叢雲のカケラによって驚異的な発展を遂げた極東。
その発展はスラム街をも巻き込むものであったのだが。
それを良しとしない人間も一定数いた。
特に、京内に住むことで優越感を得ていた人間たちは、他所から人間が入ってきたことにより、彼らに対する複雑な感情を燻らせていた。
その矛先は、下級層の人間から徐々に、ことの発端である極東の上層部へとシフトしていった。
であるので、今日では、坂上をよく思わない中流階級者も多い。
今、ギャラリーの反対側で、低反発のソファーにドッシリ構えているマダムも、表向きは、扇を仰ぎながらニコニコと笑顔を浮かべているものの、心の奥底ではどのようなことを考えているかは、分からなかった。
ギャラリー……
そう、今俺たちはコロシアムにいる。
「演習っていうか、見せ物じゃねえか!! 」
俺の想像の斜め上である。
坂上は、契約者たちの能力測定を行うとともに、臣民にへと極東の「新兵器」に対するデモを行う。
そして、その中流階級者からは軍資金を巻き上げるわけだ。
隣で斥がため息をついた。
「俺たちは、モルモットであり、曲芸師って事か……」
「闘犬かもしれんな。わんわお。」
俺たちがそう言った他愛のない話をしていると、アリーナの入り口が開放され、中から見慣れた皮肉屋が、七宝隊長を引き連れて出てくる。
中流階級者たちは、彼を見ると、雑談を中断させる。
各々、さまざまな感情を彼に向けながら、次の一声を待った。
「やぁ。ブルジョアの皆さん。ボンジュール。ご機嫌麗しゅうございます。」
皮肉屋は平常運転で、最初の一声を放ち、次の一声を放つために息を吸う。
「この度は、十三部隊の契約者お披露目会に出席していただきありがとうございます。」
「今回、皆さんをお呼びしたのは、他でもない。私の発明した新兵器たちの血湧き肉躍る戦いで、アドレナリンをドバドバっと出してもらうことでございます。」
「さぁ今日は、現実の事なんて忘れて、心行くまで他の寝具言ってくださいまし。」
そういうと、彼は給仕が差し出した盆の上のグラスを手に取り、高々と掲げた。
「極東の未来に……乾杯。」
「「「乾杯」」」
中流階級者たちが声を上げる。
場の雰囲気が目に見えて変わった。
この時だけ、この瞬間だけは、彼に対する不信感が、彼らから消え去ったに違いない。
「なぁ、慎二。俺たちのハードル上がってないか? 」
隣で斥が両掌を返して、たまげている。
「その様子なら、能力の暴走は大丈夫そうだな。俺の足を引っ張られても困るし。」
斥は左拳を俺の胸に当ててくる。
「こっちこそ、足引っ張んなよ。散々デカい口叩いてたくせに、本番で足がすくんでも知らねえからな。」
電光版には第一試合の対戦相手が記されていた。
<第一試合:霧島、灰弩チームvs黒澄、新潟チーム>
極長の命で賀茂川と高野川の三角州に作られたリゾート施設である。
彼が臣民にアメを与えた理由。
それは中流階級者に対するガス抜きであった。
近年、叢雲のカケラによって驚異的な発展を遂げた極東。
その発展はスラム街をも巻き込むものであったのだが。
それを良しとしない人間も一定数いた。
特に、京内に住むことで優越感を得ていた人間たちは、他所から人間が入ってきたことにより、彼らに対する複雑な感情を燻らせていた。
その矛先は、下級層の人間から徐々に、ことの発端である極東の上層部へとシフトしていった。
であるので、今日では、坂上をよく思わない中流階級者も多い。
今、ギャラリーの反対側で、低反発のソファーにドッシリ構えているマダムも、表向きは、扇を仰ぎながらニコニコと笑顔を浮かべているものの、心の奥底ではどのようなことを考えているかは、分からなかった。
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そう、今俺たちはコロシアムにいる。
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俺の想像の斜め上である。
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そして、その中流階級者からは軍資金を巻き上げるわけだ。
隣で斥がため息をついた。
「俺たちは、モルモットであり、曲芸師って事か……」
「闘犬かもしれんな。わんわお。」
俺たちがそう言った他愛のない話をしていると、アリーナの入り口が開放され、中から見慣れた皮肉屋が、七宝隊長を引き連れて出てくる。
中流階級者たちは、彼を見ると、雑談を中断させる。
各々、さまざまな感情を彼に向けながら、次の一声を待った。
「やぁ。ブルジョアの皆さん。ボンジュール。ご機嫌麗しゅうございます。」
皮肉屋は平常運転で、最初の一声を放ち、次の一声を放つために息を吸う。
「この度は、十三部隊の契約者お披露目会に出席していただきありがとうございます。」
「今回、皆さんをお呼びしたのは、他でもない。私の発明した新兵器たちの血湧き肉躍る戦いで、アドレナリンをドバドバっと出してもらうことでございます。」
「さぁ今日は、現実の事なんて忘れて、心行くまで他の寝具言ってくださいまし。」
そういうと、彼は給仕が差し出した盆の上のグラスを手に取り、高々と掲げた。
「極東の未来に……乾杯。」
「「「乾杯」」」
中流階級者たちが声を上げる。
場の雰囲気が目に見えて変わった。
この時だけ、この瞬間だけは、彼に対する不信感が、彼らから消え去ったに違いない。
「なぁ、慎二。俺たちのハードル上がってないか? 」
隣で斥が両掌を返して、たまげている。
「その様子なら、能力の暴走は大丈夫そうだな。俺の足を引っ張られても困るし。」
斥は左拳を俺の胸に当ててくる。
「こっちこそ、足引っ張んなよ。散々デカい口叩いてたくせに、本番で足がすくんでも知らねえからな。」
電光版には第一試合の対戦相手が記されていた。
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