神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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復讐鬼

組手

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 俺は無事契約者になれたわけで、契約者恒例の射的を行なっていた。
 線の前に立ち、五メートル先の的に未知術を当てることで、その威力を測定する。
 いわゆるテストだ。
「迅雷!! 」
 「迅雷!! 迅雷!! 迅雷!! 」
 俺が未知術を発動させることは無い。
「クソッ。」
 何で父さんには出来て、俺には出来ないんだ。
 ちゃんとイメージも組んでいるし、呪術も問題なく発動できる。
 そもそも、未知術云々の前に、宿主であるある俺が、凛月の能力を使えないこと自体おかしいのだ。
 俺の成績は相変わらず0を表している。
 コレは同期の十人の契約者だけでなく、全ての契約者での最低スコアを表していた。
 未知術を発動できない者がいるにせよ、そもそも魔具の能力を使えない者など俺以外に一人もいない。
「ガッ。」
 俺は胸ぐらを掴まれ、壁に叩きつけられた。
「君だよね凛月の契約者は。」
「なぜボクじゃなくて君なのかな? 」
「君は、凛月にふさわしくないよ。」
---落ち着いて下さいマスター---
 今俺の胸ぐらを掴んでいるのは、新潟鋏子。
 そして、彼女を宥めているのは、魔具の鎌鋏だ。
「黙れ!! 出来損ないが!! ボクに指図するな!! 」
 不意に、俺と彼女の間に炎が飛んでくる。
「言ったはずだ。お前に、凛月の鍵穴は無い。キミのお父さんにも、そのことは、一から十まで丁寧に話した。」
 十三部隊隊長の七宝剣だ。
 鋏子は小声で俺に呟いた。
「……ぶだ。」
「勝負だ。ボクと君、どちらが凛月に相応しいか。」
 いうまでも無い、結論は出ているだろう。先述したとおり、俺は未知術を発動させるどころか、凛月を扱うことすら出来ない。
 そんな状態の人間は、無能力者と変わらない。銃鬼が有れば、まだなんとかならんでも無いが……
「よろしい。なら、慎二と直接勝負をすれば良い。魔具のみ。一対一で。」
 無益な争いは辞めたい。こんなことしても、凛月は彼女の契約者にはならない。
 だが、俺も七宝も理解していただろう。彼女を納得させるには、コレが一番手っ取り早いと。
 わざと負けるのは……
 よそう。彼女は気づく、きっと。
 いや、どっちにしろだ。
 魔具なんて、能力を発動できなければ、ただの鉄屑なのだから。
 そうこうやっているうちに、俺たちはアリーナに連れてこられた。
 俺が白線の前に立つと、鋏子はジャンプで反対側の白線の前まで飛ぶ。
 七宝がもう一度ルールを確認した。
「魔具のみの戦闘。流血沙汰は無し、先に尻をついた方が負け。分かったな。」
 俺も鋏子も、コックリ頷いた。
「試合開始は、どちらかが白線を越えたらだ。」
 この試合、先に仕掛けた方が負ける。相手に動きを読まれ、カウンターを受けるからだ。
 かと言って、いつまでも仕掛けないわけには行けない。集中力が切れた頃に不意打ちを貰いかねない。
 人の集中力。個人差はあるだろうが、七秒だったか十秒だったか気がする。
 十五秒経過、鋏子が動くことは無かった。
 奴の顔をずっと見ているのは疲れる。風景が変わるわけでもない。
 瞬きはしなければならないが、俺が目を閉じている間に、攻撃を仕掛けくる可能性だってある。
 俺は耐え切れず瞬きをしてしまう。
 が、彼女は一向に瞬きを行おうとせず、ついには目から涙が溢れ出して来ていた。
 そろそろ煽りを入れてやるべきだろう。
 ことの発端といえば、彼女だ。やる気がないなら、俺は帰るぞ。そう言おうと口を開こうとした二十びょ_____
 喉笛に冷ややかな殺意を感じて、身体を大きく反らした。
 彼女は遠慮失せずに、体重を前にかけ、俺を押し倒そうとしてくる。
"ち、ちけえよ。"
 なんてことを考えている暇は無い、とても合理的な作戦だ。
 俺が攻撃を避け体勢を崩したところに、体重をかけることで、一気に雌雄を決そうというわけだろう。
 俺は頭を切り替えると、宙返りし、無理矢理体勢を立て直した。
 彼女は、俺が地から足を離し、蹴りあげようとしていることを察知すると、後ろに大きく下がった。
 思ったより身体が軽い。どうやら度重なる身体強化呪術の影響で、身体が効率的な筋肉の使い方を覚えたようだ。
 俺は、左手にチャクラム、右手に小太刀を構えると、彼女の次の攻撃へと構える。
 すると彼女は、鎌鋏の刃を二つに分解させ、ブーメランのように投げた。
---双鎌月ツイン・クレセント---
 右? 左? 前? 俺は視界を交互に向けると、正面から鋏子が迫っていることを確認し、舌打ちをした。 
 回避不能だ。降参するか? いや、この未知術、途中で止まんの? 大丈夫? 本気で殺しに来てるよねコレ。
 上だ。上に逃げる。
「凛月。ごめん。」
 俺はそう言うと、右手から小太刀を投げ捨て、右脚で踏みつけた。
---痛ッ---
 小太刀から何か聞こえた気がするが、俺はそれを無視した。
 反動で俺の身体が中二階まで飛び上がる。
 が、それを察知した鋏子は、二本に分裂した鎌鋏を両手でキャッチすると、垂直方向に飛び上がった。
 鎌鋏の反動で、俺の前髪が切り落とされる。
 彼女は一瞬で俺と同じ高さまでたどり着くと、両手に握る獲物で、俺を切りつけんとす。
 人間離れした身体能力だ。明らかに魔具の能力では無い。彼女自身の能力。
 一体、どのような人生を送って来たらこのようになれるのか?
 が、しかし、俺がチャクラムで防御しようとすると、彼女は攻撃することを躊躇った。
"どうやら凛月は傷つけたく無いらしい。"
 俺はその隙に、アリーナに刺さった小太刀を、鎖で引き上げる。
 天井を蹴り上げると、右手に握り直した小太刀と、チャクラムで斬りかかった。
 彼女は空中で体勢を立て直すと、一撃目をかわし、二撃目を鎌鋏の刃では無い部分で弾き返した。
 どうやら彼女の魔具の力で、凛月を傷つけることが怖いらしい。
 卑怯な気もするが、こちらとは能力を完全に封じられた状態で戦ってやっているんだ。
 上から、絶えず斬撃を繰り返した。
 彼女はそれを、迅速に、正確に、丁寧に捌く。
 戦い慣れている。
 俺の身体は、重力によって徐々に落ち始めていた。
 が、彼女の身体は、まだ落下の兆しを見せない。人間の持つ体幹では無かった。
 今度は俺が彼女の下になる。
 すると彼女は待っていたとばかりに、俺の腹部を蹴り落として来た。
 そのまま地面に叩きつけるつもりだろう。
「ちょっと!! 下半身不随になったらどうすんの? ちょっとちょっと!! タンマ タンマ ストープ。」
 俺はこの後に及んで情けなく喚き散らしている。自分でも思う。周りの人間には俺がどれほど惨めに映っているか。
 が、彼女にその声は聞こえていなかった。
「凛ちゃん凛ちゃん凛ちゃん凛ちゃん凛ちゃん凛ちゃんウフフフフ。」
 彼女は勝利を確信し、俺の魔具の名前ばかりを呼んでいる。
「クソッ!! 気安く俺の魔具の名前を呼ぶんじゃねええええ。」
 身体に魔法陣が浮かび上がり、俺の身体がアリーナの床スレスレのところで静止する。
 電磁浮遊だ。
 が、発動したのは、未知術ではなく、呪術。
---ちょっと、慎二。いい加減にしてよ---
 流石に魔具もお怒りのようだ。さっきは踏みつけて、今度は回路に無理矢理虚数電子を流したのだから。
「歯を食いしばれ凛月。」
 凛月は聖に復讐するための道具でしか無い。が、しかし、鋏子に凛月の名前を呼ばれたとき、嫌な気持ちになったのだ。嫉妬? 違う。なぜ俺が魔具にそんな感情を抱かなければいけないのだ。
 聖を殺せるなら武器なんて何でも良い。それでこそ支給品のナイフでも。
---黒龍斬ホロウ・ドラゴニック---
 半ば魔具に引っ張られるような感覚で呪術が発動する。
 それほどに、この斬撃の速度は早かった。
 虚数電磁界が強大な力を生み出し、凛月を鋏子へと吹き飛ばす。
「いっけええええ。」
 凛月の刃が、魔具をクロスさせ、ガードしている鋏子へと届き、そのまま押し崩した。
 俺は、勢いを殺すためにブレーキをかけ、彼女は、耐え切れず尻餅をつく。
「やめ。」
 俺の脳がアセチルコリンを受け取るとともに、七宝が声を上げた。
「勝者、新潟鋏子。」
 なっ。
「慎二、呪術を使ったな。反則負けだ。」
 まぁ妥当な判定であろう。俺は凛月本来の力を使って戦っていなかったのだから。
---もう!! 慎二郎はこんな乱暴な使い方しなかったのに。キミは最低だよ---
 そう言って、凛月は倒れた鋏子の元へかけていってしまった。
"今、父さんの名前を?  "
 いや、気のせいだろう。
 それより……
 このまま凛月と溝を作るわけにはいかない。
 なんとか打開策を練らなくては。
 戦闘に支障が出るようでは、奴らを葬ることも出来ないだろう。
 俺は、黙ってアリーナを後にした。
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