神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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復讐鬼

君だけの世界

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「ふーん。ダメ元で私のところに来たんだ。」
 白い髪に引き込まれるように濃い赤色の瞳。
 相変わらず彼女からは表情が読み取れなかった。
「嫌なら断ってくれて良い。ただ、俺には力が必要なんだ。」
「最終試験を生き残るほどの。」
「いいよ。」
 考える素振りも見せない。即答だった。
「君が試験に合格しようがしまいが、誰に復讐しようが、何を壊そうが私には関係のないこと。」
「だって私には関係ないもの。」
 俺は人生で初めて頭を下げた。
「恩に着る。」
「早速だが……」
 俺が最後まで言い切ってしまう前に、霧島が答えた。
「呪術を教えるのは無理。」
 俺は肩をガクンと下げた。
「でも、神聖語についてなら教えてあげる。」
「……俺に神聖魔術が使えると、お思いで? 」
 霧島はため息をついた。
「桐生慎二、魔術はどうやって発動させるものだった? 」
 そんなこと分かっている。俺はムキになって答えた。
「自己暗示だろ。それぐらい知っている。」
 霧島は首を横に振る。
「全然分かってない。なぜ術式を発動させる時、使用者は言葉を利用するのか? 」
「私はあなたに言葉の意味を教えるだけ、あとは貴方が術式を編むの。」
「貴方のイメージは貴方だけのもの。他人が真似できるものではない。」
        ・
        ・
        ・
 俺は霧島から、スペルを習った。鋭く、強く、早く、赤く、黒く、破壊、再生、時間、空間、悪魔、神、聖者、吸血鬼、僧侶、鬼………
 俺は世界を「視る」術式を編もうとした、が、試験当日までその術式が完成することは無かった。
 俺は未完成なままで試験に臨むこととなる。
 俺たち訓練兵は吉野に連れて来られた。この時期になっても、未だに土地開発はされておらず、周りは木、木、木、木。
 つまり、一般人を巻き込む危険は無く、極東が一般人を殺し責任を負われることはない。
 周囲には極東一般兵が立っていて、人払いを行っていた。
 つまりここら一帯にいるのは、俺たち一般兵と、契約者と、わずかな関係者のみだ。
 馬田の能力は最大限にまで発揮させるし、霧島の目は、無駄な無機物が無く、よりクリアになる。
 水崎や灰弩、熱海や琵琶のような周りを巻き込んでしまうような未知術も遠慮なく使えてしまう。
 二日間、彼らから逃げ切ること。
 それが最終試験、唯一のルールだ。
 罠、共謀、賄賂、森からの逃亡、なんでもアリだ。
 ただ、ルール上、容認されているからといって、物理的に可能かは、また別の話だ。
 彼ら契約者がそれを許すはずがないだろう。
 最終試験に向けてカウントダウンが始まる。
「残り十秒。」
 どこからも無く声が聞こえる。
「玖」
 俺は息を吸い込み、精神を落ち着かせる。
「捌」
 息を思いっきり吐き出す。心拍数を整えると共に、より多くの酸素を取り込むためだ。
「漆」
 目を瞑り、状況を再確認する。どう追われてやるかを考えていた。
「陸」
 あと半分。これほど長く感じた十秒がこれまであっただろうか?
 思えば、この半年は一瞬だった。
「伍」
 そうだ。俺は、この半年、復讐心だけで生きてきた。ただそれだけを糧に生きてきた。
「肆」
 なら、これも復讐の過程でしかないだろう。
「参」
 何を恐れているのだろう? 
「弍」
 ここで殺されているようなら、ヤツドミニク・ブレイクにも勝てない。
「壱」
 奴を殺せない俺に存在価値などない。
「零」
 俺は猛々しい角笛と共に、地面を力強く蹴飛ばした。
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