94 / 109
復讐鬼
君だけの世界
しおりを挟む
「ふーん。ダメ元で私のところに来たんだ。」
白い髪に引き込まれるように濃い赤色の瞳。
相変わらず彼女からは表情が読み取れなかった。
「嫌なら断ってくれて良い。ただ、俺には力が必要なんだ。」
「最終試験を生き残るほどの。」
「いいよ。」
考える素振りも見せない。即答だった。
「君が試験に合格しようがしまいが、誰に復讐しようが、何を壊そうが私には関係のないこと。」
「だって私には関係ないもの。」
俺は人生で初めて頭を下げた。
「恩に着る。」
「早速だが……」
俺が最後まで言い切ってしまう前に、霧島が答えた。
「呪術を教えるのは無理。」
俺は肩をガクンと下げた。
「でも、神聖語についてなら教えてあげる。」
「……俺に神聖魔術が使えると、お思いで? 」
霧島はため息をついた。
「桐生慎二、魔術はどうやって発動させるものだった? 」
そんなこと分かっている。俺はムキになって答えた。
「自己暗示だろ。それぐらい知っている。」
霧島は首を横に振る。
「全然分かってない。なぜ術式を発動させる時、使用者は言葉を利用するのか? 」
「私はあなたに言葉の意味を教えるだけ、あとは貴方が術式を編むの。」
「貴方のイメージは貴方だけのもの。他人が真似できるものではない。」
・
・
・
俺は霧島から、スペルを習った。鋭く、強く、早く、赤く、黒く、破壊、再生、時間、空間、悪魔、神、聖者、吸血鬼、僧侶、鬼………
俺は世界を「視る」術式を編もうとした、が、試験当日までその術式が完成することは無かった。
俺は未完成なままで試験に臨むこととなる。
俺たち訓練兵は吉野に連れて来られた。この時期になっても、未だに土地開発はされておらず、周りは木、木、木、木。
つまり、一般人を巻き込む危険は無く、極東が一般人を殺し責任を負われることはない。
周囲には極東一般兵が立っていて、人払いを行っていた。
つまりここら一帯にいるのは、俺たち一般兵と、契約者と、わずかな関係者のみだ。
馬田の能力は最大限にまで発揮させるし、霧島の目は、無駄な無機物が無く、よりクリアになる。
水崎や灰弩、熱海や琵琶のような周りを巻き込んでしまうような未知術も遠慮なく使えてしまう。
二日間、彼らから逃げ切ること。
それが最終試験、唯一のルールだ。
罠、共謀、賄賂、森からの逃亡、なんでもアリだ。
ただ、ルール上、容認されているからといって、物理的に可能かは、また別の話だ。
彼ら契約者がそれを許すはずがないだろう。
最終試験に向けてカウントダウンが始まる。
「残り十秒。」
どこからも無く声が聞こえる。
「玖」
俺は息を吸い込み、精神を落ち着かせる。
「捌」
息を思いっきり吐き出す。心拍数を整えると共に、より多くの酸素を取り込むためだ。
「漆」
目を瞑り、状況を再確認する。どう追われてやるかを考えていた。
「陸」
あと半分。これほど長く感じた十秒がこれまであっただろうか?
思えば、この半年は一瞬だった。
「伍」
そうだ。俺は、この半年、復讐心だけで生きてきた。ただそれだけを糧に生きてきた。
「肆」
なら、これも復讐の過程でしかないだろう。
「参」
何を恐れているのだろう?
「弍」
ここで殺されているようなら、ヤツにも勝てない。
「壱」
奴を殺せない俺に存在価値などない。
「零」
俺は猛々しい角笛と共に、地面を力強く蹴飛ばした。
白い髪に引き込まれるように濃い赤色の瞳。
相変わらず彼女からは表情が読み取れなかった。
「嫌なら断ってくれて良い。ただ、俺には力が必要なんだ。」
「最終試験を生き残るほどの。」
「いいよ。」
考える素振りも見せない。即答だった。
「君が試験に合格しようがしまいが、誰に復讐しようが、何を壊そうが私には関係のないこと。」
「だって私には関係ないもの。」
俺は人生で初めて頭を下げた。
「恩に着る。」
「早速だが……」
俺が最後まで言い切ってしまう前に、霧島が答えた。
「呪術を教えるのは無理。」
俺は肩をガクンと下げた。
「でも、神聖語についてなら教えてあげる。」
「……俺に神聖魔術が使えると、お思いで? 」
霧島はため息をついた。
「桐生慎二、魔術はどうやって発動させるものだった? 」
そんなこと分かっている。俺はムキになって答えた。
「自己暗示だろ。それぐらい知っている。」
霧島は首を横に振る。
「全然分かってない。なぜ術式を発動させる時、使用者は言葉を利用するのか? 」
「私はあなたに言葉の意味を教えるだけ、あとは貴方が術式を編むの。」
「貴方のイメージは貴方だけのもの。他人が真似できるものではない。」
・
・
・
俺は霧島から、スペルを習った。鋭く、強く、早く、赤く、黒く、破壊、再生、時間、空間、悪魔、神、聖者、吸血鬼、僧侶、鬼………
俺は世界を「視る」術式を編もうとした、が、試験当日までその術式が完成することは無かった。
俺は未完成なままで試験に臨むこととなる。
俺たち訓練兵は吉野に連れて来られた。この時期になっても、未だに土地開発はされておらず、周りは木、木、木、木。
つまり、一般人を巻き込む危険は無く、極東が一般人を殺し責任を負われることはない。
周囲には極東一般兵が立っていて、人払いを行っていた。
つまりここら一帯にいるのは、俺たち一般兵と、契約者と、わずかな関係者のみだ。
馬田の能力は最大限にまで発揮させるし、霧島の目は、無駄な無機物が無く、よりクリアになる。
水崎や灰弩、熱海や琵琶のような周りを巻き込んでしまうような未知術も遠慮なく使えてしまう。
二日間、彼らから逃げ切ること。
それが最終試験、唯一のルールだ。
罠、共謀、賄賂、森からの逃亡、なんでもアリだ。
ただ、ルール上、容認されているからといって、物理的に可能かは、また別の話だ。
彼ら契約者がそれを許すはずがないだろう。
最終試験に向けてカウントダウンが始まる。
「残り十秒。」
どこからも無く声が聞こえる。
「玖」
俺は息を吸い込み、精神を落ち着かせる。
「捌」
息を思いっきり吐き出す。心拍数を整えると共に、より多くの酸素を取り込むためだ。
「漆」
目を瞑り、状況を再確認する。どう追われてやるかを考えていた。
「陸」
あと半分。これほど長く感じた十秒がこれまであっただろうか?
思えば、この半年は一瞬だった。
「伍」
そうだ。俺は、この半年、復讐心だけで生きてきた。ただそれだけを糧に生きてきた。
「肆」
なら、これも復讐の過程でしかないだろう。
「参」
何を恐れているのだろう?
「弍」
ここで殺されているようなら、ヤツにも勝てない。
「壱」
奴を殺せない俺に存在価値などない。
「零」
俺は猛々しい角笛と共に、地面を力強く蹴飛ばした。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~
うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。
突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。
なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ!
ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。
※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。
※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

New Life
basi
SF
なろうに掲載したものをカクヨム・アルファポにて掲載しています。改稿バージョンです。
待ちに待ったVRMMO《new life》
自分の行動でステータスの変化するアビリティシステム。追求されるリアリティ。そんなゲームの中の『新しい人生』に惹かれていくユルと仲間たち。
ゲームを進め、ある条件を満たしたために行われたアップデート。しかし、それは一部の人々にゲームを終わらせ、新たな人生を歩ませた。
第二部? むしろ本編? 始まりそうです。
主人公は美少女風美青年?
あさきゆめみし
八神真哉
歴史・時代
山賊に襲われた、わけありの美貌の姫君。
それを助ける正体不明の若き男。
その法力に敵う者なしと謳われる、鬼の法師、酒呑童子。
三者が交わるとき、封印された過去と十種神宝が蘇る。
毎週金曜日更新

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる