神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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復讐鬼

虚数電子

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「調子はどうですか?#長
__・__#。」
「辞めてくれ。俺はもう隊長じゃない。」
 二者は、極東の摩天楼から書物を開いている桐生慎二を見下ろしていた。
「慎二に会いたいですか? 」
 男は首を振った。
「慎二との接触を禁じているのはお前らだろ。」
「それに、俺にアイツと会う権利なんて無いさ。」
「隊長は私が憎いですか? 」
 男は一瞬戸惑った。一呼吸置いてから答える。
「別に恨んでないんていないさ。美鬼が死んだのも、慎二があんな風になってしまったのも、全て半端者である俺の責任なんだ。俺が守るものと守らないものの線引きをしなかったのが悪い。
「結果、村が襲われ、美鬼は死んだ。」
「でも……」
「お前が極長を裏切り、俺たちと共に戦ってくれたら、もっと別の道を歩めたかもしれない。」
 七宝は自分を責めた。許してもらおうとしている自分に。反吐が出そうだ。原因はこの男では無い。自分がもう少し精神的に強ければ、このような最悪の事態を回避できたかもしれないのだ。
「一週間後は最終試験だな。息子は無事通過出来そうか? 」
「慎二の封印、解いてあげないんですか? 」
「いや、今のアイツでは自分の中の鬼影を抑えられないだろう。然るべき時がくれば、解いてやろうと思う。あのままじゃ、未知術も、ろくに使えないからな。」

        * * *

 C+の情報閲覧権を手に入れた俺は、あれから色々なことを調べた。
 一つはこの歪な形をした呪具についてである。
 この銃のような形をした呪具は「銃鬼」と言うらしい。
 使用者から虚数電子を吸い込み、任意で呪術を発動させる魔術媒体だそうだ。
 もう一つは、母さんが極東に来たことがあったと言うこと。
 母さんは何も教えてくれなかった。
 俺が母さんと父さんのことを聞くと、彼女は
「父さんはみんなの英雄なのよ。」
 とだけ答え、はぐらかすだけだった。
 その他、俺は最終試験へ向けて、虚数電子についての文献を読んだ。
 虚数電子とは、通常の電子と全く逆の性質を持つ物質であり、工夫することで通常の電子の代わりを担える他、脳に打ち込むことで、さまざまな身体強化が見込めるらしい。
 俺が無意識に使っていた身体強化呪術や、聴覚強化もその類いだ。
 俺は銃鬼を使い、視覚強化の呪術を編み出すことに専念していた。
 と言うものの、俺は魔術というものをまるで理解していなかったので「どのように」術式を編めば良いか分からなかった。
 術式はイメージだ。だが、大抵の術師は、言葉にしないと術式のイメージを組めない。
 俺は一番最初の壁に絶賛ぶち当たり中と言うわけだ。
 俺は図書館の椅子に腰掛け、鉛筆を鼻で挟み、腕を組むと一人悩んでいた。
「槍馬どうしてっかな? 」

       * * *

「一週間後の最終試験の件についてですね。」
 亀田は極長室に入ると、すぐに坂上へと質問した。
「そうだ。君は察しが良くて助かる。」
「鍵垢は七人、既に決まっている。」
「その者たちは、契約者たちに襲わせないようにしろ。」
 亀田はため息をついた。
「なぜにこのような方法を取られるのですか? 」「鍵穴を有する人間が全て決まっているなら、無駄死も時間の浪費も避けられるはずですが? 」「それにこのような出来レースに無駄な血税を割く理由がまるで分かりません。」
 坂上は答えた。
「八人目。」
 亀田は首を振った。
「流石に私も訳が分からなくなって来ました。貴方は彼を追い詰めて、何をしようとしているのですか? 彼は極東の戦士として、順調に力をつけつつあります。」
「亀田くん。奴はな、内に強大な力を封印されているんだ。そのせいで満足に慎二郎の力も使えない。」
 亀田は震えの止まらない手を必死に押さえていた。
「彼自身の内に眠る本当の鬼を目覚めさせるんですね。」
「そうだよ君は理解が早くて助かる。早速、契約者たちに命令したまえ。」
「『全員で慎二を殺しにかかれ。』と」
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