神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

文字の大きさ
上 下
90 / 109
復讐鬼

Look for!!

しおりを挟む
 次は実技演習だ。
 俺が襖を開けると、中で待っていたのは、ブレイン・ウェイバーの馬田海だった。
 彼こそ、極東で神聖魔術を使える二人目の人物。
 鍵穴は「脳」
「みんな揃ったな。始めるぞ。」
「スパイ講座担当の馬田海。契約者だ。」
 訓練兵全員が息を呑んだ。
「おいおい、そんなに固くなるなよ。」
 おかしい、
 彼の未知術は、どうやら常時発動するモノでもないらしい。
 だって、俺は今、心の中で、ここでは言えないような言葉を彼へと投げつけているからである。
 だが彼は一向にこちらを見ようとはしなかった。
 もし、未知術で俺たちのミソの中を覗き見ているなら、拳の一つぐらい飛んできてもおかしくないからだ。
「そうだな……まずこの講座の趣旨を伝えなければならない。」
「極東とグランディルの戦力差は歴然だ。コレは、霧島も言っていたと思う。」
「そこで、君たちには度々、情報活動に協力してもらうことになる。」
「むしろドンバチやるより、こっちの仕事の方が多くなると考えてもらっても良い。」
「もうこれ以上言わなくても分かるな。」
「今からお前たちがやるのは、人探しだ。」
「今日の暁九つの鐘が鳴るまで、俺は極東内を逃げ回る。」
「お前たちで俺を捕まえてみろ。」
「あっ、そうそう。門限の件は寮長に話をつけてある。」
「チーム分けだ。」
 そう言って、馬田は、壁に大きな紙を貼り付けた。
 俺とペアになるのは……
「源克二」とそこには書かれていた。
「チッ、親殺しと一緒かよ。」
 さっき喧嘩をふっかけて来たクソ野郎だ。
 偶然だとしても流石に酷すぎる。コイツとは上手くやっていけそうな気がしない。
 俺は馬田に話しかけようとした。
 が、すんでのところで釘を刺される。
「おっと、変更は受け付けないぜ。コレは遊びじゃない、訓練だ。」
 思考を読まれている……というかずっと読まれていたのではないかと、俺は疑った。
 俺はさっきまで、あのクソ野郎のことを忘れていたので、馬田は俺と源の関係を知らないはずなのである。
 なぜ俺なんだ? 
 いや、考えすぎだろう。俺はさっき彼を試した。
 彼は眉をピクリとも動かさなかった。
 ただの偶然だ。
「さぁ始めるぞ。」

     * * *

 極東の高層ジャングルの上で、彼は訓練兵たちを見下ろした。
「面白い奴だ。」
 馬田はそう思った。
 教官を殴り、謹慎処分にされた訓練兵がいると聞いて、それからずっと彼のことを「監視」していたが、俺にあそこまで汚い言葉を投げつけて来たのは、アイツが初めてだ。
 彼は、極東の一番高い場所から、人々の思念渦巻く地上へと飛び降りた。
  
     * * *

 俺たちは朱雀大路に出たは良いものの、この広い極東をどのように探そうかと足踏みしていた。
「こっちが怪しい。行くぞ。」
 源は六条、左京の方を指さした。
「いや、こっちの方が怪しい。」
 俺は、五条の右京を指さす。
「流石だな、絶望的にセンスがないぜ。お・ま・え。」
「センスがないのはお前だろ。」
 彼は考えを曲げない。だから俺も考えを曲げる訳には行かなかった。
「てかおかしいだろ。絶対に見つかる訳ねえよ。相手は人の思考が読めるんだぜ。心理学者とかいうペテン師を相手するのとは訳が違う。」
「いや、そうでもないと思うぞ。」
 ここは、極東。人口十五万人の大都市だ。
 ここには十五万人分の思考が渦巻いている。
 その中から、三十人の思考だけをコシ出して、俺たちの動向を探ることは出来ないはずだ。
「ここは『思念の森』だ。その中から俺たちの『考え』をどうやって見つけるんだ? 」
 源は首を振った。
「やめようぜ、なんか俺たちが逆に奴から逃げているみたいじゃないか? 」
 そうだ。俺たちは逃げる方ではなくて、追う方。なら彼をどう追うかを考えなくてはならない?
 どう追う? 他の極東人たちとの違い? 違い? 俺たちは、他の極東人と何が違う? 
「なぁ源、もしお前が馬田なら、どうやって極東人と俺たちを区別する? 」
「おい、もうやめろよ。行くぞ。」
 俺は、彼の脳天に、呪具を突きつけた。
「脅しは効かねえぞ。」
「ピーン」
 乾いた音とともに、彼の脳天へと魔弾を撃ち込む。
---聞こえるか? 源? ---
 源は驚いた。
---なんだ、コレ、お前の能力か? ---
 俺は呪具の力で意識を繋いだ。
---ああ、軽く電波ジャミングをしている---
---馬田はおそらく、馬田自身を探している人間のみの思考をピックアップして俺たちを探知しているんだ---
---今から、奴のコードネームは鴨蕎麦。「馬田」という言葉は一切使うな---
---なぜに鴨蕎麦? ---
 俺は奴との接続を切った。
「でもよ桐生、俺たちが奴に見つからなくなったとして、どうやって鴨蕎麦を見つけるんだ? 」
「奴と同じことをすれば良い。」
「まぁ俺は人の思考を読むことなんて出来ないから。」
 俺は側頭に呪具の銃口を押さえつける。
「パンッ」
 脳に衝撃が走る。
 次に、俺の脳に、そこら一体の聴覚情報が流れ込んできた。
 歌う女郎。
 酔っ払う男たち。
 裏路地での喧騒。
 そして、一つ……二つ。
 全部で十七の声を拾うことが出来た。
「桐生? 」
 馬田みたいには行かなかったが、絞り込むには十分だ。
「八条、東洞院大路。」
 俺たちは彼の尻尾を掴んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

追放騎手の霊馬召喚〜トウカイテイオーを召喚できずに勘当された俺は、伝説の負け馬と共に霊馬競馬界で成り上がる!

仁徳
SF
この物語は、カクヨムの方でも投稿してあります。カクヨムでは高評価、レビューも多くいただいているので、それなりに面白い作品になっているかと。 知識0でも安心して読める競馬物語になっています。 S F要素があるので、ジャンルはS Fにしていますが、物語の雰囲気は現代ファンタジーの学園物が近いかと。 とりあえずは1話だけでも試し読みして頂けると助かります。 面白いかどうかは取り敢えず1話を読んで、その目で確かめてください。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

ark

たける
SF
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ 【あらすじ】 友人のタルト艦長から、珍しく連絡を貰ったフラム。だがその内容は、彼女の夫、リチャードと離婚しろと言うものだった…… 歪み抑圧されていた想いが、多くの無関係な命を巻き込み、最悪の事態へと転がって行くが…… 士官候補生のジョシュ・デビット達が辿り着いた結末は……? 宇宙大作戦が大好きで、勢いで書きました。模倣作品のようですが、寛容な気持ちでご覧いただけたら幸いです。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

処理中です...