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復讐鬼
魔術本質
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俺は十日間「啓蒙」みっちり受けた後、釈放された。
訓練はだいぶ進んでいるようで、今日から本格的に座学の授業が始まるらしい。
俺の席は……すぐわかった。
なぜなら俺の机には花瓶が置いてあるからだ。
俺は置かれた花瓶を押しのけると、椅子を入念にチェックする。
椅子には予想通りトラップが仕掛けられていた。
俺は椅子仕掛けられていた針を払い除けると、腰掛ける。
「よお。鬼の子。」
俺より二歳ほど年上の訓練兵が俺に話しかけてきた。
「上官ぶっ飛ばしたってな。てっきり除隊になったと思ったぜ。」
反論したいのは山々だが、これ以上問題を起こせば流石に自分の立場も危うい。
俺は彼を無視した。
「オイ!! 無視すんなよバケモノ。」
なんとも癪に触る奴だ。俺は沸点が低い。それが自分の欠点だということも知っていた。
だが、癪に触るのは紛れもない事実だ。
こういう時に平常心を保っていられる人間を俺は尊敬している。
呪具が俺の感情を吸っているはずなのに、こういう負の感情だけは吸われずに残る。
そればかりか逆に増幅されているような気がする。
俺は胸ぐらを掴まれた。
「オイ、殺せるもんなら殺してみろよ。親殺し。」
「もうやめなよ!! 」
一人の少女が俺と奴の間に入った。
名前は確か……黒澄っていったけな。
「なんだテメェは、この屑に気でもあんのか? 」
他の野次馬たちが集まってくる。
「えー千代ちゃんは、鬼が好きなの? 人間なのに? 」
「ガラッ。」
襖が音を立てて開く。
堅縁から可憐な少女が顔を出す。
極東人にしては珍しい白い髪に白い肌……
俺は彼女を一目で契約者だと解釈した。
俺だけでは無い。おそらく、この部屋にいる訓練兵が全員俺と同じことを考えたであろう。
彼女の瞳は赤黒い血のように光っているのだ。
彼女は席につくと自己紹介を始める。
「ここの座学担当、霧島伊那目。みんなは伊那ってよんでいる。」
声に抑揚が無い。だが、彼女の目は怒っていた。
「喧嘩はダメ。私の評価が下がるから辞めて。」
「みんなも私と同じように評価されている。」
「優秀な兵士となり得るか? 魚雷の弾としてありがたく使ってもらうか、それとも。」
「契約者としての素質があるか。」
「今の私の行動で、私の評価は大きく下がった。」
「私は、訓練兵たちにこの事を話してはいけないと釘を刺されているから。」
「私は苦渋の選択をした。私が座学を受け持つクラスで、イザコザが起きるか、上の命令を守るか? 」
そこで彼女は背を向け、筆記ボードに文字を書き込む。
「『対神聖魔術講座』の8ページを開いて。」
訓練兵たちが、無言でページを送る。
「今日は魔術本質について説明する。理解できるように説明するから一回で覚えて。」
「それで覚えられないのなら時間の無駄。兵士になるのは諦めた方が良い。」
極東には、聖の魔術である神聖魔術を使える契約者が二人いる。
俺は、なぜ彼女が敵のものである神聖魔術を扱えるのかを今、理解した。
彼女は、筆記ボードに神聖魔術の魔法陣を、完璧に模写したからである。
彼女は、魔法陣を支持棒で押さえながら、俺たちにレクチャーした。
「人間を含むすべての生物は『属性』と呼ばれる本質を持っている。絶滅したとされる神族は勿論、聖や私たち契約者、そしてあなた達も。」
「それは、火、水、風という、ありふれた単純なものから、宇宙、太陽、影、という複雑なモノも。」
「すべての『属性』はこの世の理を超えることはできない。一部の存在を除いて。」
「たとえば、火属性の聖は水属性の神聖魔術を使用できない。」
ここで、一人の訓練兵が挙手した。
「霧島先生!! 宇宙にも水はあります。太陽や稲妻の力を使えば火を起こせます。」
「良い質問。」
先生は心持ちか、口角を上げると、さっきの1.2倍ぐらいの速さで話し出した。
「そう。複雑な属性を持つ魔術使には、多種多様の属性を類似的に使いこなすことの出来る者も存在する。」
「ただ、複雑な属性本質には、それ相応のデメリットがある。」
「発動条件が、それだけ厳しくなるということ。」
「太陽属性の魔術は、太陽光を浴びないと施工できない。影属性の魔術は、影の無いところでは使えない。」
そこで、彼女の話す速さは元に戻った。
「だいたい、分かっていると思うけど……」
「聖と私たちの戦力差は歴然。」
「だから、敵の魔術本質を見極めることは、対聖戦闘で必要不可欠。」
「私は最初に、コレを覚えられないのなら、極東軍になるなと言った。」
「戦場では、弱い人間から死んでいく。」
「みんなには…死んでほしくないから。」
「みんなが死んだら、座学を担当した私に責任が課せられる。分かった? 」
皆が、皆、集中して霧島先生の講義を聞いていた。
彼女は、俺たちにもそれぞれ『本質』が存在すると言った。
だとすると、俺の『本質』は一体なんなのであろうか?
俺は、そう言って自分の呪具に手を当て、コレは母親の呪具であった事を思い出す。
なら、本来、俺が持っていた力はどのようなモノであったのか?
_________俺の体の奥深くで何かが蠢いた。
俺は「はっ」と我にかえり、座学が終わった事を認識すると、次の予定を確認した。
訓練はだいぶ進んでいるようで、今日から本格的に座学の授業が始まるらしい。
俺の席は……すぐわかった。
なぜなら俺の机には花瓶が置いてあるからだ。
俺は置かれた花瓶を押しのけると、椅子を入念にチェックする。
椅子には予想通りトラップが仕掛けられていた。
俺は椅子仕掛けられていた針を払い除けると、腰掛ける。
「よお。鬼の子。」
俺より二歳ほど年上の訓練兵が俺に話しかけてきた。
「上官ぶっ飛ばしたってな。てっきり除隊になったと思ったぜ。」
反論したいのは山々だが、これ以上問題を起こせば流石に自分の立場も危うい。
俺は彼を無視した。
「オイ!! 無視すんなよバケモノ。」
なんとも癪に触る奴だ。俺は沸点が低い。それが自分の欠点だということも知っていた。
だが、癪に触るのは紛れもない事実だ。
こういう時に平常心を保っていられる人間を俺は尊敬している。
呪具が俺の感情を吸っているはずなのに、こういう負の感情だけは吸われずに残る。
そればかりか逆に増幅されているような気がする。
俺は胸ぐらを掴まれた。
「オイ、殺せるもんなら殺してみろよ。親殺し。」
「もうやめなよ!! 」
一人の少女が俺と奴の間に入った。
名前は確か……黒澄っていったけな。
「なんだテメェは、この屑に気でもあんのか? 」
他の野次馬たちが集まってくる。
「えー千代ちゃんは、鬼が好きなの? 人間なのに? 」
「ガラッ。」
襖が音を立てて開く。
堅縁から可憐な少女が顔を出す。
極東人にしては珍しい白い髪に白い肌……
俺は彼女を一目で契約者だと解釈した。
俺だけでは無い。おそらく、この部屋にいる訓練兵が全員俺と同じことを考えたであろう。
彼女の瞳は赤黒い血のように光っているのだ。
彼女は席につくと自己紹介を始める。
「ここの座学担当、霧島伊那目。みんなは伊那ってよんでいる。」
声に抑揚が無い。だが、彼女の目は怒っていた。
「喧嘩はダメ。私の評価が下がるから辞めて。」
「みんなも私と同じように評価されている。」
「優秀な兵士となり得るか? 魚雷の弾としてありがたく使ってもらうか、それとも。」
「契約者としての素質があるか。」
「今の私の行動で、私の評価は大きく下がった。」
「私は、訓練兵たちにこの事を話してはいけないと釘を刺されているから。」
「私は苦渋の選択をした。私が座学を受け持つクラスで、イザコザが起きるか、上の命令を守るか? 」
そこで彼女は背を向け、筆記ボードに文字を書き込む。
「『対神聖魔術講座』の8ページを開いて。」
訓練兵たちが、無言でページを送る。
「今日は魔術本質について説明する。理解できるように説明するから一回で覚えて。」
「それで覚えられないのなら時間の無駄。兵士になるのは諦めた方が良い。」
極東には、聖の魔術である神聖魔術を使える契約者が二人いる。
俺は、なぜ彼女が敵のものである神聖魔術を扱えるのかを今、理解した。
彼女は、筆記ボードに神聖魔術の魔法陣を、完璧に模写したからである。
彼女は、魔法陣を支持棒で押さえながら、俺たちにレクチャーした。
「人間を含むすべての生物は『属性』と呼ばれる本質を持っている。絶滅したとされる神族は勿論、聖や私たち契約者、そしてあなた達も。」
「それは、火、水、風という、ありふれた単純なものから、宇宙、太陽、影、という複雑なモノも。」
「すべての『属性』はこの世の理を超えることはできない。一部の存在を除いて。」
「たとえば、火属性の聖は水属性の神聖魔術を使用できない。」
ここで、一人の訓練兵が挙手した。
「霧島先生!! 宇宙にも水はあります。太陽や稲妻の力を使えば火を起こせます。」
「良い質問。」
先生は心持ちか、口角を上げると、さっきの1.2倍ぐらいの速さで話し出した。
「そう。複雑な属性を持つ魔術使には、多種多様の属性を類似的に使いこなすことの出来る者も存在する。」
「ただ、複雑な属性本質には、それ相応のデメリットがある。」
「発動条件が、それだけ厳しくなるということ。」
「太陽属性の魔術は、太陽光を浴びないと施工できない。影属性の魔術は、影の無いところでは使えない。」
そこで、彼女の話す速さは元に戻った。
「だいたい、分かっていると思うけど……」
「聖と私たちの戦力差は歴然。」
「だから、敵の魔術本質を見極めることは、対聖戦闘で必要不可欠。」
「私は最初に、コレを覚えられないのなら、極東軍になるなと言った。」
「戦場では、弱い人間から死んでいく。」
「みんなには…死んでほしくないから。」
「みんなが死んだら、座学を担当した私に責任が課せられる。分かった? 」
皆が、皆、集中して霧島先生の講義を聞いていた。
彼女は、俺たちにもそれぞれ『本質』が存在すると言った。
だとすると、俺の『本質』は一体なんなのであろうか?
俺は、そう言って自分の呪具に手を当て、コレは母親の呪具であった事を思い出す。
なら、本来、俺が持っていた力はどのようなモノであったのか?
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