神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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復讐鬼

乱闘

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「ん…んん。」
 今は暁七つってところか。
 俺は起き上がると布団を畳んで、訓練服に着替える。
 食堂には……
 行く気になれなかった。
 俺は携帯用レーションをかじると、亀田教官に指示された道場へと足を踏み入れる。
 道場にはすでに五人の訓練兵が揃っていた。
 俺は床のヒノキや柱をマジマジと見渡し、額縁に飾られた写し絵の中に弓館おじいちゃんがいることに気づく。
 良く見ると剣城おじさんの絵もある。
 坂田家がいかに極東と繋がりが強い一族なのかということが分かった。
 そうしていると、一人、また一人と人が集まってき、時間五分前には俺を含めて九人の訓練兵が揃った。
 そうしているうちに亀田教官が道場に入ってくる。
「一人足りんようだが……」
 そうして教官が腕を組んでいると、一人の訓練兵が息を切らせてこちらに走ってくる。
「すみません、トイレに行っていました。腹痛くて。」
「なら、ここで漏らせ。」
「そんな……」
 パシン。
 遅れてきた訓練兵は頬を殴られる。
「私が分隊長なら、お前がいないことが、分かると、即座に拉致されたと判断し、敵軍に攻撃を仕掛けているところだ。」
「お前らも心得ておけ。軍とは個々の存在では無い。集団として一つに大成された形だ。」
(再び訓練兵に向き変える。)
「さて、軍規違反にはそれ相応の罰が必要だ。言ったな。私の意思に叛いたものは笞刑だと。」
 亀田教官は、腰についていた鞭を取り出した。
 すると彼は手にした鞭を俺の目の前に投げ捨てる。
「仲間の責任はお前が取れ。」
 なぜ俺が彼を罰しなければならない?
 確かに彼は致命的なミスをした。
 だからと言って、俺にどんな権限があるというのだ。
 俺は何様だ。
 そうしていると、教官の平手打ちが飛んでくる。
「考えるな。お前ら雑兵どもは、上官の指示をこなしていれば良い。それが迅速で有ればあるほど評価される。」
 本当にそうか?
「おい、なんだその目は……」
 違う……コイツは…コイツは俺たちを痛ぶって楽しんでいるだけだ。
「貴様ッ。」
 そうだ。コイツも聖と同じだ。
 俺は亀田教官に組み伏せられる前にポケットから呪具を抜き取り、自分の脳天を撃ち抜いた。
『魔術とは自己暗示である。つまりイメージ力だ。イメージ力が強力なパルスを生み、外界に影響をもたらす。』
---疾風ハヤテ---
 筋肉痛気味だった脚が紙のように軽くなる。それとは相対的に、上半身は鉛のように重くなった。
 俺は亀田教官が飛ばした小手を両腕でガッチリ掴むと、そのまま投げ飛ばした。
 が、彼は勢いを利用し、二、三回回転すると、そのまま自然体に戻った。
 足で地面を蹴り、発勁はっけいを飛ばしてくる。
 俺はそれを左に避けると、アッパーを飛ばした。
 彼はその攻撃をまともに受け止めたが……
「効かんな。」
 次の瞬間、視界が大きく揺れた。
 恐ろしく早い手刀だ。
 俺は、横回転しながら、道場の壁に飛ばされる。
 壁を足で蹴り返すと、さっきとは逆の方向へと回転し、急降下しながら回し蹴りを繰り出した。
「甘すぎる。」
 脚をガッチリ掴まれた。
 腕力で筋肉が軋む。
 そのまま後頭部を何度も何度も叩きつけられる。
 俺はその場にばったり倒れ込んだ。
「おっと、貴重な資本を殺しちまったら元も子もないな。」
 彼は俺が生きているかを確認するために、瞼をこじ開け、ライトを当てる。
 この時を待っていた。
 俺は彼のおめでたい顔に唾を吐きかけると、思いっきり頭突きを繰り出した。
 今度は手応えがあった。
 彼は一瞬ぐらついたように見える。
 俺はその瞬間を見逃さなかった。
 これ見よがしに馬乗りになり、何度も何度も殴り付ける。
 黒澄? の「やめて。」という声が聞こえたが、俺は止まらない。
 だって俺の母さんと、父さんは「何もしなかった。」から殺されたのだから。
 騒ぎを聞きつけた他の小隊長たちが俺たちを止めに入る。
 後日……俺の班全員が笞刑になったそうだ。
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