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復讐鬼
気前の良い先輩
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俺は琵琶に連れられて、立ち食い蕎麦屋?? という店に来た。
琵琶が歩阿洲斗ー風堂と書かれた暖簾を上げて中に入っていったので、俺も彼の真似をして中に入る。
そして、彼はカウンターの前でこう叫んだ。
「おっさん。鴨蕎麦二つで。」
「あいよ~」
すると彼はこちらに向き直る。
「急に胃袋に脂っこいもんを入れると、身体壊すからよ。『今度』はちゃんと牛丼奢ってやるから。」
牛丼?
俺にはどんなものなのか想像も付かなかった。
だが、彼が牛丼と言った後に、口から涎が出ていることを考えると、とても美味しいものなのだろう。
「まぁ、俺が蕎麦を食いたくなっただけなんだけどな。」
すると、カウンターの内側のおっさんは、目にも止まらぬ手さばきで鴨蕎麦二食分を、完成し、こちらに差し出して来る。
琵琶がそれを受け取ると、汁が多く入った方を俺に渡してきた。
お汁の中に紐状の物体が浮いている。
こればどうやって食べるのだろうか?
「ありがとう……ございます。」
そう言って俺は、気前の良い男から鴨蕎麦をもらう。
すると琵琶は、筆立てのような入れ物から木の棒を二つ抜き取り、一つをこちらに投げてきた。
俺が首を傾げていると
「チッチッチ。」
彼は指を振る。
それから木の棒を二つに折り、箸のように使った。
そしてお椀の汁にそれを突っ込むと、紐のようなものをつかみ出し、口に運ぶと一気に啜った。
俺も真似をする。
木の棒をよく見ると、少し力を入れれば割れるように切り込みが入っていた。
「パキッ。」
俺にも出来た。
この箸のようなもので、紐を掴んで食べる。
彼がしたように、左手でお椀を押さえて、右手の箸で恐る恐る紐を掴む。
二、三回失敗し、やっとの思いで口に運んだ。
「美味い⭐︎」
「だろ? だろ? ここの蕎麦は極東一、いや、世界一、いや宇宙一なんだぜ。」
そこで、カウンター内のおっさんが照れた。
「おい、辞めろよ琵琶。」
琵琶はおっさんと談笑し、それが終わった頃には、俺も鴨蕎麦を汁まで飲み干していた。
「なぁお前、契約者になるために、ここへ来たんだろ? 」
何も驚くことはない。
だって彼も契約者なのだから。
「そうだ。俺はそのために極東へ来た。」
「だよな。お前がさっき使ったアレ、呪術だよな。俺の耳にはそう『聞こえ』た。」
呪術?
聞いたことがなかった。いや聞かされたことがなかった。
「これは母さんの形見だ。」
形見……その言葉で琵琶は全てを察したようである。
「そうか、お前の村も聖にやられたんだな。」
「ああ、そうだ。俺は契約者になって、聖を一匹残らず殺し尽くす。」
俺の顔に金属製の何かが飛んできた。
「今日の宿代だ。」
そう言って彼は、店を後にする。
そして、暖簾をめぐるまぎわに、こちらに振り返ると、
「俺と同じ場所に立ったら……そん時は、同じ窯の飯を食おうぜ。」
「十三部隊でな。」
と言葉を残して、そのまま人混みの中に姿を消してしまった。
* * *
「琵琶がいて良かった。」
「アレだけがヤツの取り柄です。今回は良い方に傾いて助かった。」
七宝は肩を撫で下ろした。
「そんなに心配することない。」
坂上は、心配性の七宝を鼻で笑った。
「彼は、慎二郎と美鬼の子供だ。そう人間と同じようにはくたばらないさ。」
「ホントにヤバくなったら、私が君を彼の元に送る。」
(坂上は急に立ち上がる)
「『おっと手が滑った。』とわざとらしい演技をしながら、彼に銭を巻いてやれば良い。」
(しばしの沈黙。そして何事もなかったかのように座る。)
「さて七宝君。明日『彼ら』がここに来るわけだが……」
「分かっていますよ。あなたの邪魔はしません。」
坂上は必死に笑いを堪えている。
「うんうん、聞き分けが良くて助かるよ。」
「ホンじゃあ明日はよろしくね。」
「十三小隊、隊長君。」
琵琶が歩阿洲斗ー風堂と書かれた暖簾を上げて中に入っていったので、俺も彼の真似をして中に入る。
そして、彼はカウンターの前でこう叫んだ。
「おっさん。鴨蕎麦二つで。」
「あいよ~」
すると彼はこちらに向き直る。
「急に胃袋に脂っこいもんを入れると、身体壊すからよ。『今度』はちゃんと牛丼奢ってやるから。」
牛丼?
俺にはどんなものなのか想像も付かなかった。
だが、彼が牛丼と言った後に、口から涎が出ていることを考えると、とても美味しいものなのだろう。
「まぁ、俺が蕎麦を食いたくなっただけなんだけどな。」
すると、カウンターの内側のおっさんは、目にも止まらぬ手さばきで鴨蕎麦二食分を、完成し、こちらに差し出して来る。
琵琶がそれを受け取ると、汁が多く入った方を俺に渡してきた。
お汁の中に紐状の物体が浮いている。
こればどうやって食べるのだろうか?
「ありがとう……ございます。」
そう言って俺は、気前の良い男から鴨蕎麦をもらう。
すると琵琶は、筆立てのような入れ物から木の棒を二つ抜き取り、一つをこちらに投げてきた。
俺が首を傾げていると
「チッチッチ。」
彼は指を振る。
それから木の棒を二つに折り、箸のように使った。
そしてお椀の汁にそれを突っ込むと、紐のようなものをつかみ出し、口に運ぶと一気に啜った。
俺も真似をする。
木の棒をよく見ると、少し力を入れれば割れるように切り込みが入っていた。
「パキッ。」
俺にも出来た。
この箸のようなもので、紐を掴んで食べる。
彼がしたように、左手でお椀を押さえて、右手の箸で恐る恐る紐を掴む。
二、三回失敗し、やっとの思いで口に運んだ。
「美味い⭐︎」
「だろ? だろ? ここの蕎麦は極東一、いや、世界一、いや宇宙一なんだぜ。」
そこで、カウンター内のおっさんが照れた。
「おい、辞めろよ琵琶。」
琵琶はおっさんと談笑し、それが終わった頃には、俺も鴨蕎麦を汁まで飲み干していた。
「なぁお前、契約者になるために、ここへ来たんだろ? 」
何も驚くことはない。
だって彼も契約者なのだから。
「そうだ。俺はそのために極東へ来た。」
「だよな。お前がさっき使ったアレ、呪術だよな。俺の耳にはそう『聞こえ』た。」
呪術?
聞いたことがなかった。いや聞かされたことがなかった。
「これは母さんの形見だ。」
形見……その言葉で琵琶は全てを察したようである。
「そうか、お前の村も聖にやられたんだな。」
「ああ、そうだ。俺は契約者になって、聖を一匹残らず殺し尽くす。」
俺の顔に金属製の何かが飛んできた。
「今日の宿代だ。」
そう言って彼は、店を後にする。
そして、暖簾をめぐるまぎわに、こちらに振り返ると、
「俺と同じ場所に立ったら……そん時は、同じ窯の飯を食おうぜ。」
「十三部隊でな。」
と言葉を残して、そのまま人混みの中に姿を消してしまった。
* * *
「琵琶がいて良かった。」
「アレだけがヤツの取り柄です。今回は良い方に傾いて助かった。」
七宝は肩を撫で下ろした。
「そんなに心配することない。」
坂上は、心配性の七宝を鼻で笑った。
「彼は、慎二郎と美鬼の子供だ。そう人間と同じようにはくたばらないさ。」
「ホントにヤバくなったら、私が君を彼の元に送る。」
(坂上は急に立ち上がる)
「『おっと手が滑った。』とわざとらしい演技をしながら、彼に銭を巻いてやれば良い。」
(しばしの沈黙。そして何事もなかったかのように座る。)
「さて七宝君。明日『彼ら』がここに来るわけだが……」
「分かっていますよ。あなたの邪魔はしません。」
坂上は必死に笑いを堪えている。
「うんうん、聞き分けが良くて助かるよ。」
「ホンじゃあ明日はよろしくね。」
「十三小隊、隊長君。」
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