神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

文字の大きさ
上 下
83 / 109
復讐鬼

上京

しおりを挟む
 丹楓村から極東には一日から二日かかる。
 俺は、ここに来て、無計画な自分を糾弾した。
 と言ったものの、焼け野原の村に食料なんて残っていないことだろう。
 御者を襲うという考えが脳をよぎる。
 が、不思議とこの考えは脳内から消えた。
 俺は聖に復讐するために今ここにいる。
 自分が聖に成り下がってどうする。
---なんじゃ? やらんのか? 面白くないのぉ---
 脳内に不快な声が響く。
 不快な空腹感。不快な声、全部消したかった。
 不思議と俺は右手の武器の銃口を右側頭に突き当て、トリガーを引いていた。
 俺の脳から不快感が消え失せ、同時に不快な声も消えた。

 数十キロ歩いた頃、何かが道を塞いでいた。
 山賊の「狩り」だろう。
 俺には関係ない。というか空腹と渇きで、彼女を助ける気力など残っていない。
 彼女?
 燃える赤
 女を囲う男たち
 最悪の記憶が脳内をフラッシュバックする。
「オエッっっ。」
 俺はほぼ胃液のそれを体内から戻した。というか吐き出した。
 それに気づいた山賊たちがこちらに来る。
「オイ、見ろよこのバカ。ゲロ臭えガキだな。」
 瞳孔が開いているのが分かる。何も見えなくなる。トクントクンと苦しい。自分の中から重力が消え失せるような感覚。
---なぁ慎二、憎い? 憎いよなぁ---
 おい辞めろよ。
---なら殺せば良いのじゃ---
「コロセ」
 一つの行動原理が脳内を支配する_ _ _ __ ___ ___________________


 気がつくと俺は、山賊たちの血溜まりの中で両膝をつき、両掌を前に突き出していた。
 ふと振り返ると、襲われていた少女が、この世の終わりでも見たかのような顔で、こちらを見ている。
 彼女は下を漏らしながら、俺にこう言い放った。
「バケモノ!! 」
 少女は木の幹に足をくじきながら、命かながらという調子で逃げていった。

        * * *

 しばらく行くと、極東が見え始める。
「バケモノ!! 」
 数時間前に俺に向けて放たれた言葉が、まだ脳内を響いている。
 彼女は間違っていない。山賊六人を一瞬にして死肉の塊にしてしまう存在などバケモノ以外の何者でもないであろう。
"山賊の肉を少し齧っておくべきだった。"
 ダメだ、飢餓で禁断症状が出ている。
 極東に向かう御者たちが全て食料に見えてきた。
 感情とともに、自制心も失った俺は、武器に代償を持っていかれるとともに、新たな自制心を作り出す。
 ここでヘマをしてはいけない。
 ここで人間を襲えば、俺は極東に指名手配され、契約者たちに「駆除」されるだろう。
 いや、槍馬が俺を殺しに来るかもしれない。
 そんなこと、死んでもごめんだ。
 と、言ったものの、空腹で視界すら歪んでいた。
 条件反射的に、脳内へと銃弾を打ち込み、理性を保つ。
 近づくと、極東の全貌が明らかになった。
 遠くから見えた木の柱のようなものは、どうやら建物らしい。
 それらの柱にはいくつもの看板が張り巡らされていて、異様な空気を醸し出していた。
『マッサージ専門店ーコリカ。』
『宿屋ーてっちゃん』
『左官屋ー座右衛門』
    ・
    ・
 柱にぶら下がっていた傘のようなものは、どうやら瓦葺の屋根らしい。
 木の柱は、近くで見ると、瓦葺の家が何重にも重なっているようであった。
「オイ、お前、止まれ。」
 木の柱に気を取られていた俺は、どうやら極東の入り口の羅城門まで来ていたらしい。
「おい、お前、出生地は? 」
「最近いるんだよな。困るんだよこっちはただでさえ急激な人口増加で過密状態だっていうのに……」

「おーい退いてくれ!! 」
 極東から大声で誰かが叫んでいる。
 どうやら人を追っているらしい。
 対して追われている人間は宝石や金貨の入った袋を背中に背負っていた。
「おいまたかよ。」
「最近人が増えた。あぶれた人間がああやって盗みを働くようになってな。」
「おい、お前も耳を塞いでおけよ。」
 なぜかは分からなかった。
 が、素直に門番に従った。
 刹那、あたり一体に鼓膜が破れるような音波が響き渡る。
「うっせえぞお前!! 」
「ああ、音響の琵琶か……今日は客が入りそうにないな。」
 と柱の窓から顔を出した近隣住民が苦情を呈した。
 盗人は、止まることなくこちらに走ってくる。
 理由は当然、ここが極東の出口だからだ。
 俺は銃を構えると、彼の脳天めがけて銃弾をぶち込んだ。
---眠れ!! ---
 俺の思念が弾丸となり飛び出す。
 撃たれた盗人は、音もなく崩れ落ちた。
 門番が慌ててこちらにやって来る。
「おいお前、今、麻酔銃を使ったな。」
「極東では麻酔銃の使用を禁止されている。使庁まで来てもらおうか?? 」
 正直言ってもうどうでも良かった。空腹で死にそうだ。
「おい、ちょっと待てよ。」
 盗人を追いかけていた琵琶という少年が、彼を縄で縛ると、盗人が意識を取り戻しつつあることを門番たちに伝えた。
「極東の麻酔銃に撃たれたやつは、こんなにすぐに起きない。最低でも十分は寝たきりだぜ。」
 門番たちが首を振る。
「しかしよ琵琶。仕事をしないで怒られるのは、俺たち下っ端なんだから、勘弁してほしいぜ。」
「コイツは、外の人間だ。このまま尋問無しに中へ入れることは出来ない。」
 琵琶は二人を手で宥めた。
「まぁまぁ。今回はコイツに助けられたし、そいつは俺が引き取るわ。」
 門番二人がため息をつく。
「あー腹減った。飯だ飯だ。おいチビ。飯に行くぞ。」
 ご飯!! 飢餓状態の俺は、犬のように跳ね上がった。
「ご飯ですか?? 」
「なんだ。腹が減ってるならそう言えよな。ついてこい。俺が奢ってやるよ。」
 俺は琵琶という少年に連れられて、極東の中へと消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

追放騎手の霊馬召喚〜トウカイテイオーを召喚できずに勘当された俺は、伝説の負け馬と共に霊馬競馬界で成り上がる!

仁徳
SF
この物語は、カクヨムの方でも投稿してあります。カクヨムでは高評価、レビューも多くいただいているので、それなりに面白い作品になっているかと。 知識0でも安心して読める競馬物語になっています。 S F要素があるので、ジャンルはS Fにしていますが、物語の雰囲気は現代ファンタジーの学園物が近いかと。 とりあえずは1話だけでも試し読みして頂けると助かります。 面白いかどうかは取り敢えず1話を読んで、その目で確かめてください。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

処理中です...