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復讐鬼
上京
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丹楓村から極東には一日から二日かかる。
俺は、ここに来て、無計画な自分を糾弾した。
と言ったものの、焼け野原の村に食料なんて残っていないことだろう。
御者を襲うという考えが脳をよぎる。
が、不思議とこの考えは脳内から消えた。
俺は聖に復讐するために今ここにいる。
自分が聖に成り下がってどうする。
---なんじゃ? やらんのか? 面白くないのぉ---
脳内に不快な声が響く。
不快な空腹感。不快な声、全部消したかった。
不思議と俺は右手の武器の銃口を右側頭に突き当て、トリガーを引いていた。
俺の脳から不快感が消え失せ、同時に不快な声も消えた。
数十キロ歩いた頃、何かが道を塞いでいた。
山賊の「狩り」だろう。
俺には関係ない。というか空腹と渇きで、彼女を助ける気力など残っていない。
彼女?
燃える赤
女を囲う男たち
最悪の記憶が脳内をフラッシュバックする。
「オエッっっ。」
俺はほぼ胃液のそれを体内から戻した。というか吐き出した。
それに気づいた山賊たちがこちらに来る。
「オイ、見ろよこのバカ。ゲロ臭えガキだな。」
瞳孔が開いているのが分かる。何も見えなくなる。トクントクンと苦しい。自分の中から重力が消え失せるような感覚。
---なぁ慎二、憎い? 憎いよなぁ---
おい辞めろよ。
---なら殺せば良いのじゃ---
「コロセ」
一つの行動原理が脳内を支配する_ _ _ __ ___ ___________________
気がつくと俺は、山賊たちの血溜まりの中で両膝をつき、両掌を前に突き出していた。
ふと振り返ると、襲われていた少女が、この世の終わりでも見たかのような顔で、こちらを見ている。
彼女は下を漏らしながら、俺にこう言い放った。
「バケモノ!! 」
少女は木の幹に足をくじきながら、命かながらという調子で逃げていった。
* * *
しばらく行くと、極東が見え始める。
「バケモノ!! 」
数時間前に俺に向けて放たれた言葉が、まだ脳内を響いている。
彼女は間違っていない。山賊六人を一瞬にして死肉の塊にしてしまう存在などバケモノ以外の何者でもないであろう。
"山賊の肉を少し齧っておくべきだった。"
ダメだ、飢餓で禁断症状が出ている。
極東に向かう御者たちが全て食料に見えてきた。
感情とともに、自制心も失った俺は、武器に代償を持っていかれるとともに、新たな自制心を作り出す。
ここでヘマをしてはいけない。
ここで人間を襲えば、俺は極東に指名手配され、契約者たちに「駆除」されるだろう。
いや、槍馬が俺を殺しに来るかもしれない。
そんなこと、死んでもごめんだ。
と、言ったものの、空腹で視界すら歪んでいた。
条件反射的に、脳内へと銃弾を打ち込み、理性を保つ。
近づくと、極東の全貌が明らかになった。
遠くから見えた木の柱のようなものは、どうやら建物らしい。
それらの柱にはいくつもの看板が張り巡らされていて、異様な空気を醸し出していた。
『マッサージ専門店ーコリカ。』
『宿屋ーてっちゃん』
『左官屋ー座右衛門』
・
・
柱にぶら下がっていた傘のようなものは、どうやら瓦葺の屋根らしい。
木の柱は、近くで見ると、瓦葺の家が何重にも重なっているようであった。
「オイ、お前、止まれ。」
木の柱に気を取られていた俺は、どうやら極東の入り口の羅城門まで来ていたらしい。
「おい、お前、出生地は? 」
「最近いるんだよな。困るんだよこっちはただでさえ急激な人口増加で過密状態だっていうのに……」
「おーい退いてくれ!! 」
極東から大声で誰かが叫んでいる。
どうやら人を追っているらしい。
対して追われている人間は宝石や金貨の入った袋を背中に背負っていた。
「おいまたかよ。」
「最近人が増えた。あぶれた人間がああやって盗みを働くようになってな。」
「おい、お前も耳を塞いでおけよ。」
なぜかは分からなかった。
が、素直に門番に従った。
刹那、あたり一体に鼓膜が破れるような音波が響き渡る。
「うっせえぞお前!! 」
「ああ、音響の琵琶か……今日は客が入りそうにないな。」
と柱の窓から顔を出した近隣住民が苦情を呈した。
盗人は、止まることなくこちらに走ってくる。
理由は当然、ここが極東の出口だからだ。
俺は銃を構えると、彼の脳天めがけて銃弾をぶち込んだ。
---眠れ!! ---
俺の思念が弾丸となり飛び出す。
撃たれた盗人は、音もなく崩れ落ちた。
門番が慌ててこちらにやって来る。
「おいお前、今、麻酔銃を使ったな。」
「極東では麻酔銃の使用を禁止されている。使庁まで来てもらおうか?? 」
正直言ってもうどうでも良かった。空腹で死にそうだ。
「おい、ちょっと待てよ。」
盗人を追いかけていた琵琶という少年が、彼を縄で縛ると、盗人が意識を取り戻しつつあることを門番たちに伝えた。
「極東の麻酔銃に撃たれたやつは、こんなにすぐに起きない。最低でも十分は寝たきりだぜ。」
門番たちが首を振る。
「しかしよ琵琶。仕事をしないで怒られるのは、俺たち下っ端なんだから、勘弁してほしいぜ。」
「コイツは、外の人間だ。このまま尋問無しに中へ入れることは出来ない。」
琵琶は二人を手で宥めた。
「まぁまぁ。今回はコイツに助けられたし、そいつは俺が引き取るわ。」
門番二人がため息をつく。
「あー腹減った。飯だ飯だ。おいチビ。飯に行くぞ。」
ご飯!! 飢餓状態の俺は、犬のように跳ね上がった。
「ご飯ですか?? 」
「なんだ。腹が減ってるならそう言えよな。ついてこい。俺が奢ってやるよ。」
俺は琵琶という少年に連れられて、極東の中へと消えていった。
俺は、ここに来て、無計画な自分を糾弾した。
と言ったものの、焼け野原の村に食料なんて残っていないことだろう。
御者を襲うという考えが脳をよぎる。
が、不思議とこの考えは脳内から消えた。
俺は聖に復讐するために今ここにいる。
自分が聖に成り下がってどうする。
---なんじゃ? やらんのか? 面白くないのぉ---
脳内に不快な声が響く。
不快な空腹感。不快な声、全部消したかった。
不思議と俺は右手の武器の銃口を右側頭に突き当て、トリガーを引いていた。
俺の脳から不快感が消え失せ、同時に不快な声も消えた。
数十キロ歩いた頃、何かが道を塞いでいた。
山賊の「狩り」だろう。
俺には関係ない。というか空腹と渇きで、彼女を助ける気力など残っていない。
彼女?
燃える赤
女を囲う男たち
最悪の記憶が脳内をフラッシュバックする。
「オエッっっ。」
俺はほぼ胃液のそれを体内から戻した。というか吐き出した。
それに気づいた山賊たちがこちらに来る。
「オイ、見ろよこのバカ。ゲロ臭えガキだな。」
瞳孔が開いているのが分かる。何も見えなくなる。トクントクンと苦しい。自分の中から重力が消え失せるような感覚。
---なぁ慎二、憎い? 憎いよなぁ---
おい辞めろよ。
---なら殺せば良いのじゃ---
「コロセ」
一つの行動原理が脳内を支配する_ _ _ __ ___ ___________________
気がつくと俺は、山賊たちの血溜まりの中で両膝をつき、両掌を前に突き出していた。
ふと振り返ると、襲われていた少女が、この世の終わりでも見たかのような顔で、こちらを見ている。
彼女は下を漏らしながら、俺にこう言い放った。
「バケモノ!! 」
少女は木の幹に足をくじきながら、命かながらという調子で逃げていった。
* * *
しばらく行くと、極東が見え始める。
「バケモノ!! 」
数時間前に俺に向けて放たれた言葉が、まだ脳内を響いている。
彼女は間違っていない。山賊六人を一瞬にして死肉の塊にしてしまう存在などバケモノ以外の何者でもないであろう。
"山賊の肉を少し齧っておくべきだった。"
ダメだ、飢餓で禁断症状が出ている。
極東に向かう御者たちが全て食料に見えてきた。
感情とともに、自制心も失った俺は、武器に代償を持っていかれるとともに、新たな自制心を作り出す。
ここでヘマをしてはいけない。
ここで人間を襲えば、俺は極東に指名手配され、契約者たちに「駆除」されるだろう。
いや、槍馬が俺を殺しに来るかもしれない。
そんなこと、死んでもごめんだ。
と、言ったものの、空腹で視界すら歪んでいた。
条件反射的に、脳内へと銃弾を打ち込み、理性を保つ。
近づくと、極東の全貌が明らかになった。
遠くから見えた木の柱のようなものは、どうやら建物らしい。
それらの柱にはいくつもの看板が張り巡らされていて、異様な空気を醸し出していた。
『マッサージ専門店ーコリカ。』
『宿屋ーてっちゃん』
『左官屋ー座右衛門』
・
・
柱にぶら下がっていた傘のようなものは、どうやら瓦葺の屋根らしい。
木の柱は、近くで見ると、瓦葺の家が何重にも重なっているようであった。
「オイ、お前、止まれ。」
木の柱に気を取られていた俺は、どうやら極東の入り口の羅城門まで来ていたらしい。
「おい、お前、出生地は? 」
「最近いるんだよな。困るんだよこっちはただでさえ急激な人口増加で過密状態だっていうのに……」
「おーい退いてくれ!! 」
極東から大声で誰かが叫んでいる。
どうやら人を追っているらしい。
対して追われている人間は宝石や金貨の入った袋を背中に背負っていた。
「おいまたかよ。」
「最近人が増えた。あぶれた人間がああやって盗みを働くようになってな。」
「おい、お前も耳を塞いでおけよ。」
なぜかは分からなかった。
が、素直に門番に従った。
刹那、あたり一体に鼓膜が破れるような音波が響き渡る。
「うっせえぞお前!! 」
「ああ、音響の琵琶か……今日は客が入りそうにないな。」
と柱の窓から顔を出した近隣住民が苦情を呈した。
盗人は、止まることなくこちらに走ってくる。
理由は当然、ここが極東の出口だからだ。
俺は銃を構えると、彼の脳天めがけて銃弾をぶち込んだ。
---眠れ!! ---
俺の思念が弾丸となり飛び出す。
撃たれた盗人は、音もなく崩れ落ちた。
門番が慌ててこちらにやって来る。
「おいお前、今、麻酔銃を使ったな。」
「極東では麻酔銃の使用を禁止されている。使庁まで来てもらおうか?? 」
正直言ってもうどうでも良かった。空腹で死にそうだ。
「おい、ちょっと待てよ。」
盗人を追いかけていた琵琶という少年が、彼を縄で縛ると、盗人が意識を取り戻しつつあることを門番たちに伝えた。
「極東の麻酔銃に撃たれたやつは、こんなにすぐに起きない。最低でも十分は寝たきりだぜ。」
門番たちが首を振る。
「しかしよ琵琶。仕事をしないで怒られるのは、俺たち下っ端なんだから、勘弁してほしいぜ。」
「コイツは、外の人間だ。このまま尋問無しに中へ入れることは出来ない。」
琵琶は二人を手で宥めた。
「まぁまぁ。今回はコイツに助けられたし、そいつは俺が引き取るわ。」
門番二人がため息をつく。
「あー腹減った。飯だ飯だ。おいチビ。飯に行くぞ。」
ご飯!! 飢餓状態の俺は、犬のように跳ね上がった。
「ご飯ですか?? 」
「なんだ。腹が減ってるならそう言えよな。ついてこい。俺が奢ってやるよ。」
俺は琵琶という少年に連れられて、極東の中へと消えていった。
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