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地獄の始まり
vacances
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「え? 休職届け? 」
坂上はわざとらしく驚いている。
任務に失敗した俺は、一生懸命考えた。
子供たちの未来を追い続けるあまり、自分の子供を蔑ろにしているのではないか? と考えたからだ。
いや、実際そうだろう。俺は、美鬼や慎二のことを何一つ考えていなかった。
もし仮に、争いの無い世界が到来するとして、自分の子供は何になるのだろうか?
御者か? 百姓か? それとも坑夫か?
抽象的な未来を追うばかりで、建設的な未来が蔑ろになり、それが慎二にネグレクトを行う口実になっていた。
しばらくグランディル軍に動きはないだろう。
極東の大番役をやるぐらいなら、もっと美鬼と将来について話し合うべきだろう。
「しばらく争いは起こらないでしょう。私がいなくても、どうせあなたは、あの、いたいけな子供たちに極東の治安を守らせるのですから。」
「困るよ慎二郎くん。グランディル帝国内が混乱しているからといって、この国が安泰とは限らないんだ。」
「セル帝国の動きは、よくわからないし、また、この国でも内乱が起こる可能性もある。」
「その時は早急に参りますんで。」
坂上は少し考えているようであった。
「決意は堅いようだな。そこまで言うなら止めはしない。これは私の問題でもある。家庭を持つ部下の気持ちを理解できていなかった私にね。」
そこで坂上は話を切り返した。
「ところで、坂田君はどこかな? 」
「坂田剣城は、潜入任務中に怪異と遭遇したようでして、その報告書を軍部に提出中です。」
「うむ。仕方ない。それが極東と坂田家との約束だからな。任務中に遭遇した怪異は問答無用で斬り殺して良い。その代わりに報告書を書けと。」
「では私はコレで。」
(坂上に頭を下げる。)
「あっ慎二郎君。」
(顔を上げた。)
「良い休暇を。」
「アレはもう使い物にならないな。」
「隊長をどうするおつもりですか? 」
私の護衛は、慎二郎がドアから出ると共に立ち上がった。
「なーに私が欲しかったのはアイツの能力で、アイツ自身では無い。そもそもアイツはグランディルとの戦争に消極的だ。」
「なんというかね? 戦争には強力な復讐心が必要なのだよ。子供だとなお良い。思想を入れ込むのも楽で良いしね。」
七宝がものすごい剣幕でこちらを睨んでいた。
「そうだ。替え玉はすでに決まっている。彼はもう用済みなのだよ。」
七宝は声を荒げた。
「もし、私が貴方を裏切ればどうなりますか? 」
私は堪えきれず吹き出してしまった。
「どうした急に? そんなことは君も分かっているだろう? 君は殺されて、新しい君が生まれる。七宝家 三男の誕生か? 次は、なんて名前にしようかね。」
私は両掌を上に向け、下斜め前に突き出した。
「さぁ、君の答えを聞こうか? 君はこの任務を受けてくれるかね? 」
* * *
俺は都を後にすると、木の茂みに隠れている相棒向けて屋台で買った飯を放り投げる。
「あ、ありがてえ。」
相棒はすぐさま「連れ」にも飯を分け与える。
俺は、甲斐性なく飯を貪る彼の隣でポカンとしている彼女に対して、ウボク饅の食べ方を教える。
「それはウボク饅だ。食える。両手で持ち上げてかぶりつくんだ。」
少女は、言われるがままに饅頭を口に持っていき、パクリと口をつけた。
「…美味しい。」
俺は、ふとあることに気がつき、隣の乞食へと話しかけた。
「コイツの名前は? 」
「美奈。洲崎美奈。怪しまれないように極東風の名前にした。グランディルの人間が極東にいるって知られたら、大変なことになるからな。」
「…そうか。」
さぁ村に帰ろう。
「悪いな。俺、もう飛べなくなっちゃったからよ。村まで歩かなきゃいけないな。」
「なーに。お前がいなかった頃は、都に行く時には毎回徒歩だったからよ。御者を頼んでも良かったんだけど、なんせ予算が降りなかったもんで……」
俺たちは村目指して歩き始めた。
坂上はわざとらしく驚いている。
任務に失敗した俺は、一生懸命考えた。
子供たちの未来を追い続けるあまり、自分の子供を蔑ろにしているのではないか? と考えたからだ。
いや、実際そうだろう。俺は、美鬼や慎二のことを何一つ考えていなかった。
もし仮に、争いの無い世界が到来するとして、自分の子供は何になるのだろうか?
御者か? 百姓か? それとも坑夫か?
抽象的な未来を追うばかりで、建設的な未来が蔑ろになり、それが慎二にネグレクトを行う口実になっていた。
しばらくグランディル軍に動きはないだろう。
極東の大番役をやるぐらいなら、もっと美鬼と将来について話し合うべきだろう。
「しばらく争いは起こらないでしょう。私がいなくても、どうせあなたは、あの、いたいけな子供たちに極東の治安を守らせるのですから。」
「困るよ慎二郎くん。グランディル帝国内が混乱しているからといって、この国が安泰とは限らないんだ。」
「セル帝国の動きは、よくわからないし、また、この国でも内乱が起こる可能性もある。」
「その時は早急に参りますんで。」
坂上は少し考えているようであった。
「決意は堅いようだな。そこまで言うなら止めはしない。これは私の問題でもある。家庭を持つ部下の気持ちを理解できていなかった私にね。」
そこで坂上は話を切り返した。
「ところで、坂田君はどこかな? 」
「坂田剣城は、潜入任務中に怪異と遭遇したようでして、その報告書を軍部に提出中です。」
「うむ。仕方ない。それが極東と坂田家との約束だからな。任務中に遭遇した怪異は問答無用で斬り殺して良い。その代わりに報告書を書けと。」
「では私はコレで。」
(坂上に頭を下げる。)
「あっ慎二郎君。」
(顔を上げた。)
「良い休暇を。」
「アレはもう使い物にならないな。」
「隊長をどうするおつもりですか? 」
私の護衛は、慎二郎がドアから出ると共に立ち上がった。
「なーに私が欲しかったのはアイツの能力で、アイツ自身では無い。そもそもアイツはグランディルとの戦争に消極的だ。」
「なんというかね? 戦争には強力な復讐心が必要なのだよ。子供だとなお良い。思想を入れ込むのも楽で良いしね。」
七宝がものすごい剣幕でこちらを睨んでいた。
「そうだ。替え玉はすでに決まっている。彼はもう用済みなのだよ。」
七宝は声を荒げた。
「もし、私が貴方を裏切ればどうなりますか? 」
私は堪えきれず吹き出してしまった。
「どうした急に? そんなことは君も分かっているだろう? 君は殺されて、新しい君が生まれる。七宝家 三男の誕生か? 次は、なんて名前にしようかね。」
私は両掌を上に向け、下斜め前に突き出した。
「さぁ、君の答えを聞こうか? 君はこの任務を受けてくれるかね? 」
* * *
俺は都を後にすると、木の茂みに隠れている相棒向けて屋台で買った飯を放り投げる。
「あ、ありがてえ。」
相棒はすぐさま「連れ」にも飯を分け与える。
俺は、甲斐性なく飯を貪る彼の隣でポカンとしている彼女に対して、ウボク饅の食べ方を教える。
「それはウボク饅だ。食える。両手で持ち上げてかぶりつくんだ。」
少女は、言われるがままに饅頭を口に持っていき、パクリと口をつけた。
「…美味しい。」
俺は、ふとあることに気がつき、隣の乞食へと話しかけた。
「コイツの名前は? 」
「美奈。洲崎美奈。怪しまれないように極東風の名前にした。グランディルの人間が極東にいるって知られたら、大変なことになるからな。」
「…そうか。」
さぁ村に帰ろう。
「悪いな。俺、もう飛べなくなっちゃったからよ。村まで歩かなきゃいけないな。」
「なーに。お前がいなかった頃は、都に行く時には毎回徒歩だったからよ。御者を頼んでも良かったんだけど、なんせ予算が降りなかったもんで……」
俺たちは村目指して歩き始めた。
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