神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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地獄の始まり

権力闘争

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 アイシャが、神族の子供を地下空間に幽閉して以来、私の代償による老化は止まった。そればかりではなく「地脈」という魔力の線が我がグランディル帝国の地下を張り巡らされるようになった。
 地脈の通っている場所は、草木が生茂り、作物は急激な速度で穂をつけ、畜産に適さない地域でも牛を飼うことが出来るようになった。
 問題は全て解決したように思える。
 が、そうはいかなかった。
 代行者の代償が無力化されたということは、五人の子供たち全員が、この力を継承する権利があるということである。
 そのことで、城内の派閥がピリピリし始めた。
 その変化が一番、顕著なのは、我が長男ドミニク派で、いつにも増して、ドミニクの王位継承権を主張するようになった。
 他の派閥たちも、はっきりとは言わないが、そういう雰囲気を醸し出している。
 その上で、五男のカーミラを立てる派閥は、変わらず彼の王位継承権を主張し、ドミニク派と対立している。
 これは、ゆゆしき事態だ。
 暴動、さらには内紛に発展しかねない。その上で、そのいざこざに乗じて私を暗殺する者が現れるかもしれない。
「なら、逃げたレン・ボイドを捕らえた御息女様を次の継承第一位にするというのは? 」
 臣下の一人が意見した。
 そこでドミニク派の人間が声を上げる。
「なら、継承権を持つ皇子に不幸があった時はどうなるのだ? 」
 そこで各派閥から避難の声が上がった。
「おい、シド様の御前であるぞ。」
「シド様、むほんです。コイツには謀反の疑いがあります。」
「いくらドミニク様の臣下であるとは言え……恐ろしい。」
 突如、その声を遮るように誰かが答えた。
「それで良いよ。そんなもんで俺に継承権が移るならな。」
 私の息子、ドミニクだった。
「その、神族を捕まえてくるっていう仕事、俺がやるよ。大方、宛は付いている。父さん、俺にやらせてくれ。」
 まだ十五歳の子供を敵国に駆り出すというのは、まだ抵抗があった。
「ドミニク、下がりなさい。お前には関係ない。」
「関係ないことあるか!! シド・ブレイクの第一皇子は俺だ!! カーミラはそうじゃない。俺にはこの国を継ぐ正当な権利がある。」
「ドミニク!! 下がりなさい。」
「文句があるなら。」
「俺が認めさせてやる。そこのクソ親父も、他の派閥の奴らもな。」
 勇ましき我が息子は、向き変えると、そのまま玉間を出て行ってしまった。



「待ってろよ払暁の勇者……」
「お前を必ず……」

      「殺してやる。」

       * * *

 城では、王位継承権について、各派閥が議論を始めていたが、私にはどうでも良いことであった。
 そう…私の目的は不死の存在であるカーミラと、永遠の瞬間を過ごすこと。
 五十年で不老不死の禁術を手に入れ、七百年で、おおよその魔術は極めたが、どうやっても彼ら神族の持つ魔法という存在だけは手に入れることは出来なかった。
 それから三百年、ただ、産み落とされて、醜く衰えていく生物を見るだけの人生は地獄だった……
 結局千年間生きても、自分が満たされることは無かった。この世界には何も無かった。
『魔術を極める。』
 それだけが、私の目的で私の生きる意味だ・っ・た・。
 だが、今は新しい目的生きる意味がある。
 彼は今、自分をたぶらかした女が消えたことに、少し落ち込んでいるようだ。
"あんな女なんか忘れた方が良いわ。"
 そんな言葉が頭をよぎったが、心がまだあのドロボーネコにあるうちは…よそう。
 そうそう、時間をかけてゆっくりと。私の一番得意なこと。
 時が経てばどうせ忘れるんだから。
「大丈夫? カーミラ? 」
「セイ、セイ、セイ……セイがいない世界なんて……」
 ダメだ、この後に及んで、まだこの子は、あの女に執着している。
 私は、彼が立ち上がる手助けをすることにした。
「魔術にはね。人を生き返らせることのできるものもあるのよ。」
 そんなものは無い。この世界には、時間を巻き戻すことに対する制約がある。
 死んだ人間を生き返らせるというのも、その制約を利用し、過去の自分を現在の自分に、すり替えるのが限界だ。
 だが、人間、時には嘘も必要なのだ。
「セイは人間じゃ無い。神族だ。」
「大丈夫。この世界には魔法があるのよ。その魔法はね。時間を巻き戻すことが出来るの。」
 私は、カーミラを抱きしめて頭をそっと撫でた。
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