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地獄の始まり
撤退
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「で? お前はどこから来たんだ? 」
少女は首を振った。
「分からない。」
「コイツのことは何か分かるか? 」
少女は首を振った。
「でも、何か、とても大切なことを忘れている気がする。」
城の方から複数の兵士の声がした。
「神族はいたか? 」
「こっちには居ないぞ。」
「アイシャ様の命令だ。なんとしてでもレン・ボイドを捕まえろ。」
「グランディルの秩序を守るのが俺たちの仕事だ。」
レン。この少年が少女のことをそう呼んでいた。
「おじさん!! 」
こういうのはあまり柄じゃないんだが……
「ああ、分かった。ついてこい。どっちにしろ、ここにいれば奴らに捕まる。」
* * *
「お前のことなんて呼んだら良いんだ? 」
「おじさんはなんて言うの? 」
だいぶ警戒されているようだ。というか、極東に連れ帰って大丈夫なのだろうか? グランディルの人間も、極東の人間も、同じ穴の狢だ。
報告すれば、坂上の研究対象にされるに決まっている。
なら。
「俺は、剣城。坂田剣城。」
「お前は、アイツにレンって呼ばれていたけど。」
少女は首を振る。
「私はレンじゃない。」
「分からない。分からないの自分が何者か…私、きっと、このまま何も無くなって、海の泡になって消えちゃうんだわ。」
俺は彼女を宥めた。
「落ち着け。なら俺が決めてやる。」
腹減ってきたな。すき焼き。スノサキ?
「そ、そうだ。洲崎っていつのはどうだ?」
少女は首を傾げる。
「スゥザック? 」
「違う。スザキだ。洲崎美奈。コレがお前の名前。今からお前は極東人。良いな。」
「うん、分かったよ剣城。宜しく。」
逃げている途中で、腐れ縁と合流する。
「剣城ッ無事みたいだな。」
「代わりに厄介なもん拾っちまったけどよ。」
慎二郎は美奈の方を見る。そして、再びこちらに向き返った。
「こんな小さい子拾ってきて、お鶴さんにどう説明するんだよ犯罪者。」
最後の犯罪者は余計だ。
「仕方ないだろ。この子は記憶をなくしているし、グランディル兵に追われているようだった。」
「だから……」
腐れ縁は無言で頷いた。
「このことは他言無用 だな。」
「ああ、頼む。」
* * *
意識が覚醒した。次に自分の状況を思い出す。そして、指名を思い出すと同時に跳ね起きた。
「おはよう七宝君。」
坂上だ。
「極長!! 任務は? 一年半かかった代行者奪還作戦はどうなりましたか? 」
「任務は……失敗だ。契約者は皆、極東への撤退を開始している。」
「クソッ」
相手は、千年分の魔術を溜め込むバケモノ。このような事態にも目を向けておくべきだった。
「さぁーて七宝君。悪い話と良い話、どちらから聞きたいかね? あー、ホウレンソウとかいうのは無しね。僕は君の上司だし、別に悪い話を後に回す権利があるんだよ。」
「…悪い話からお願いします。」
坂上は、眉をハの字に曲げる。
「面白くないなぁ。モテないよそんなんじゃぁ。もっとなんか無いの? 『悪い話は聞きたく無いっ』とか、『上手に騙してね。』とかさぁ。」
その眼からは、一切の感情も読み取れなかった。
「あなたは元から嘘だらけでしょ。もう聞き飽きたんですよ、あなたの嘘は。はぐらかさないで、包み隠さず、事実のみ伝えてください。」
「お? 疑われている? まいったなこりゃ~嘘を重ね続けるってのも辛いことなんだよ? 」
この男はこの後に及んでまでッ
「坂上頼次ッ。」
「おっ、怖い怖い。上司にそんな口を聞くんじゃ無いよ。」
坂上は、真面目な顔になってゆっくり話し始めた。
「君の部下が集めた証拠、拝見させてもらったよ。」
「十三小隊の隊長、桐生慎二郎はクロだ。彼は極東を裏切った。」
心の中で安心してしまった自分を責めた。
そうだ、隊長に兄や碧さんを殺すことなど出来まい。
そして、私はポロリと心の奥底にある感情を吐露してしまった。
「彼の無差別な善意と、私たちの目的がぶつかった時、私はどうすれば良いのでしょうか? 」
坂上の顔が歪む。
「おっと七宝君。言動には気を付けたまえ。君の言葉は一語一句、一音録音されていることを忘れずに。だが安心したまえ。君は優秀だ。そう簡単にデリートさせたりしないさ。僕の命に変えてね。代わりに音声データをデリートしておこう。偶然シュレッダーにかかっちゃった!! 」
音声データにシュレッダーも何も無いでしょう!!
「そうそう。良いニュース良いニュース。君と七英雄のドッキング率。さらに上昇したよ。おめでとう。」
そうだ。私には力が必要だ。何かを成し遂げるための。
私はベットから起き上がり、七振りの剣へと手を伸ばした。
少女は首を振った。
「分からない。」
「コイツのことは何か分かるか? 」
少女は首を振った。
「でも、何か、とても大切なことを忘れている気がする。」
城の方から複数の兵士の声がした。
「神族はいたか? 」
「こっちには居ないぞ。」
「アイシャ様の命令だ。なんとしてでもレン・ボイドを捕まえろ。」
「グランディルの秩序を守るのが俺たちの仕事だ。」
レン。この少年が少女のことをそう呼んでいた。
「おじさん!! 」
こういうのはあまり柄じゃないんだが……
「ああ、分かった。ついてこい。どっちにしろ、ここにいれば奴らに捕まる。」
* * *
「お前のことなんて呼んだら良いんだ? 」
「おじさんはなんて言うの? 」
だいぶ警戒されているようだ。というか、極東に連れ帰って大丈夫なのだろうか? グランディルの人間も、極東の人間も、同じ穴の狢だ。
報告すれば、坂上の研究対象にされるに決まっている。
なら。
「俺は、剣城。坂田剣城。」
「お前は、アイツにレンって呼ばれていたけど。」
少女は首を振る。
「私はレンじゃない。」
「分からない。分からないの自分が何者か…私、きっと、このまま何も無くなって、海の泡になって消えちゃうんだわ。」
俺は彼女を宥めた。
「落ち着け。なら俺が決めてやる。」
腹減ってきたな。すき焼き。スノサキ?
「そ、そうだ。洲崎っていつのはどうだ?」
少女は首を傾げる。
「スゥザック? 」
「違う。スザキだ。洲崎美奈。コレがお前の名前。今からお前は極東人。良いな。」
「うん、分かったよ剣城。宜しく。」
逃げている途中で、腐れ縁と合流する。
「剣城ッ無事みたいだな。」
「代わりに厄介なもん拾っちまったけどよ。」
慎二郎は美奈の方を見る。そして、再びこちらに向き返った。
「こんな小さい子拾ってきて、お鶴さんにどう説明するんだよ犯罪者。」
最後の犯罪者は余計だ。
「仕方ないだろ。この子は記憶をなくしているし、グランディル兵に追われているようだった。」
「だから……」
腐れ縁は無言で頷いた。
「このことは他言無用 だな。」
「ああ、頼む。」
* * *
意識が覚醒した。次に自分の状況を思い出す。そして、指名を思い出すと同時に跳ね起きた。
「おはよう七宝君。」
坂上だ。
「極長!! 任務は? 一年半かかった代行者奪還作戦はどうなりましたか? 」
「任務は……失敗だ。契約者は皆、極東への撤退を開始している。」
「クソッ」
相手は、千年分の魔術を溜め込むバケモノ。このような事態にも目を向けておくべきだった。
「さぁーて七宝君。悪い話と良い話、どちらから聞きたいかね? あー、ホウレンソウとかいうのは無しね。僕は君の上司だし、別に悪い話を後に回す権利があるんだよ。」
「…悪い話からお願いします。」
坂上は、眉をハの字に曲げる。
「面白くないなぁ。モテないよそんなんじゃぁ。もっとなんか無いの? 『悪い話は聞きたく無いっ』とか、『上手に騙してね。』とかさぁ。」
その眼からは、一切の感情も読み取れなかった。
「あなたは元から嘘だらけでしょ。もう聞き飽きたんですよ、あなたの嘘は。はぐらかさないで、包み隠さず、事実のみ伝えてください。」
「お? 疑われている? まいったなこりゃ~嘘を重ね続けるってのも辛いことなんだよ? 」
この男はこの後に及んでまでッ
「坂上頼次ッ。」
「おっ、怖い怖い。上司にそんな口を聞くんじゃ無いよ。」
坂上は、真面目な顔になってゆっくり話し始めた。
「君の部下が集めた証拠、拝見させてもらったよ。」
「十三小隊の隊長、桐生慎二郎はクロだ。彼は極東を裏切った。」
心の中で安心してしまった自分を責めた。
そうだ、隊長に兄や碧さんを殺すことなど出来まい。
そして、私はポロリと心の奥底にある感情を吐露してしまった。
「彼の無差別な善意と、私たちの目的がぶつかった時、私はどうすれば良いのでしょうか? 」
坂上の顔が歪む。
「おっと七宝君。言動には気を付けたまえ。君の言葉は一語一句、一音録音されていることを忘れずに。だが安心したまえ。君は優秀だ。そう簡単にデリートさせたりしないさ。僕の命に変えてね。代わりに音声データをデリートしておこう。偶然シュレッダーにかかっちゃった!! 」
音声データにシュレッダーも何も無いでしょう!!
「そうそう。良いニュース良いニュース。君と七英雄のドッキング率。さらに上昇したよ。おめでとう。」
そうだ。私には力が必要だ。何かを成し遂げるための。
私はベットから起き上がり、七振りの剣へと手を伸ばした。
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