神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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嫉妬と擾乱

代償:繋がり

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 どうしてだレン? なぜ? もしかして

 僕のことを覚えていないのか?

 そうだ、レンが僕のことを忘れるはずがない。きっとあの侍のせいだ。
 レンを助けなきゃ。
 そしてセイも。
 でも僕に何が出来る? 
 兄たちと違って、僕にはまだ神器が与えられていない。神聖魔術も使えない。
 どうやって……
 すべこべ考えるな!!
 僕は、背中の短剣を引き抜くと、侍へと斬りかかった。
「うぉぉぉぉぉ!! 」
(シュッ)
 気がつくと僕は吹き飛ばされている。近くの幹に叩きつけられた。
「あいにく、子供を斬る趣味なんぞない。コイツはお前の連れか? なら返してやるよ。」
「いやッ。」
 レンは依然として僕を拒絶している。
 僕は、頭から垂れて来た血を拭おうと、右手を挙げた。
 右手に灰色の線が引いていることに気づく。
「峰打ちのつもりだったが……お前、怪異だな。」
 侍の目が赤く光る。
「悪いな小僧。気が変わった。俺は…俺たち一族は、怪異を斬ることを生業とした一族。それが子供であろうと容赦はしないぞ。」
 怖い。逃げたい。
 だけど……
 ここで逃げたら、二度と彼女たちに会えないような気がするから。
 僕は、短剣を左手に持ち帰ると、逆手に持った。
 多分、侍は一撃で仕留めるために、僕の首を狙ってくる。
 よくわからないが、そうだと確信を持てるのだ。
 そう、第五王子の勘ってやつ。
 僕は、元々奴より体型が小さいことを利用し、スライディングすると、侍の懐に潜り込もうとする。
 彼の刀が、もたれかかっていた大木を斬り倒す。
 そして、見上げる僕と、見下げる侍の目があった。
"この人には全部見えているんだ。"
「侍にも、懐刀はあるんだよ。」
 彼は左手から刀を離すと、脇差を引き抜き、僕の攻撃を弾き返そうとする。
"避けなきゃ。"
 背筋が凍るような感覚。
 僕は振り出した短剣を手元に収め、侍の脇差を避ける。
 僕の左側頭を刃が掠った。
 血は出るが、灰になることは無かった。
 侍はバックステップすると、右手の刀をこちらに向ける。
「お前、見えているな? 」
 僕は、何も見ていない。
 だが、おそらく何かを見ているのだろう。
 僕は無言でニマリと笑うと、再び地面を蹴る。
 ここまで来ると、正確な刀の動きを予想することが出来た。
 だが、
 侍が、刀の持ち方を変えるとともに、再び不快な感覚に体を支配される。
 未来とは常に変わり続けるものだ。蝶の起こした風が、竜巻に変わる可能性だってある。
 僕は右に大きく外れ、木の幹を足で蹴りながら、侍へと蹴りをお見合いする。
 僕の蹴りは侍の首に直撃するが、彼はピクリとも怯まない。
「本気で俺を殺したけりゃ、その粗末なもんで俺の首を引き裂くことだな。」
「そうしないと、お前、死ぬぞ。」
 脚を掴まれる。
 視界が揺れた。
 後頭部を再び強打する。
 僕の喉笛に刃が飛んでくる。
 短剣を強引に割り込ませる。
 この侍は、本気だった。
 本気で僕を殺しに来ている。
 だって……
 胃袋のものが全部出てしまいそうな嘔吐感に襲われながらも、なんとか体勢を立て直す。
 ふと、先程掠った右肩が白く灰化していることに気付く。
 右手の反応が進んでおり、ほぼ動かすことは出来なかった。
 僕は左に持っている短剣を口に加えると、地面から一握の砂を持ち上げ、それを侍向けて振り撒く。
 そして、180度回り込むと、今度は彼のくるぶし向けて足払いを放つ。
 今度は手応えがあった、が。
「大人を舐めるなよ。」
 砂煙が止むと、彼は左腕一本で体を支えているではないか?
「貰ったぞ。」
 そのまま身体を回転させながら、刃を360度回転させた。
 彼の禍々しき刃が、僕の身体をキッチリ捉える。
 そのまま二、三回身体を地面に叩きつけ、地上と空をぐるぐるしながら再び木の幹に倒れ込む。
 右腕がポロリと落ち、腹をさすった僕は、血が出ていないことに安心する。
 そう。身体は灰燼と化し、上半身と下半身は真っ二つに裂けた。
 侍が、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
 レンが少し離れた木の幹の影で怯えているのを見る。
「終わりだ。人思いに殺してやる。」
 いやだ。僕は、まだ諦めない。
---ほう、往生際の悪い小僧だ---
 どこからか声が聞こえてくる。これが神様だろうか? 神様はいた。
 い・た・? 僕の父に力をくれたのは神だ。神はいるんだ。
---お前の愛する娘たちは、もしかしたら、ソナタに助けられることを望んでいないのかもしれん。だって現にあの小娘は、お前を拒絶しているではないか---
「そんなこと分かっているよ。でも……」
---でも? なんだ小僧? ---
「僕がセイたちを助けたい気持ちは変わらない。嫌われても、拒絶されても良い。これは僕の気持ち。僕のエゴだ。」
「たとえ、彼女たちとの『つながり』が切れても良い。彼女たちを救えるなら。それでも…良い。」
---小僧…男に二言は無いな。後悔するなよ---
 止まった時間が動き出す。
---よろしい。契約成立だ。汝がお前と小娘たちの関係を断ち切り、因果を断ち切り、世界さえも断ち切ってやろう---
 口から短剣が落ちる。禍々しいエネルギーが、その短剣がみるみる吸い込んでいく。
 両刃だったものは形状を変え、まるで牙のように、変化する。
 同時に自分の体にも変化が見られた。
 バラバラだった身体は、時間が巻き戻ったようにくっつき、灰となった部分も回復する。
---断ち切れ---
 その言葉が脳裏をよぎった瞬間。
 僕は三メートル先の木の幹にワープしていた。
 侍は振り返り、刀を担ぐ。
「覚醒しちまったか。こんなんだったら、手加減するんじゃ無かったな。」
「だがな。」
「お前が背後に来ることは知っている。」
 彼の背後にワープした僕は、侍の見返り姿を見ることになる。
 振り被り。
 ワープし、左に回り込む。
 太刀筋が途中で変化する。
 斬り下ろしが水平斬りへと変わった。
 ジャンプし、それを避ける。
 刀に飛び乗ると、彼の喉笛に向けてナイフを突き立てる。
 右手の脇差がそれを制する。
 僕は、バックステップとともに短剣を投げる。
 短剣はワープし、自分とは反対側から出現する。
 彼は、脇差でそれを払う。
 着地すると、今度は樹木を飛ばした。
 彼はそれを刀で真っ二つにした。
 僕は走りながらも、武器になりそうなものはなんでも飛ばした。
 石ころ、大樹、岩石、礫、短剣。
 そして戻ってきた短剣を右手で受け止めると、彼の頭上にワープする。
 僕は彼の頸へと刃を向けた。
 このオールレンジの攻撃を避けられるはずがない。
---去刀サルタチ---
 石ころ、岩石、大樹、礫が一瞬にして塵になる。
 僕の身体にも無数の線が走っている。彼は、一瞬にしてこれだけの斬撃を繰り出したのか? 
いや、この斬撃たち、どこかで見覚えがあった。
 そうか、過去の斬撃。
 あの刀は、斬撃をしばらくの間残しておけるのだ。
 ああ…セイ、レン、ごめん。こんなことなら、城でちゃんと勉強しておくんだった。たくさん勉強して、僕にもう少し力が有れば、彼女たちを助けられたかもしれない。
 僕の意識はそこで途切れた。
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