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嫉妬と擾乱
代償:記憶
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皆が寝静まった夜。私は今日起きた事件が頭の片隅に残り、まだ眠れないでいた。
昼間あんなことがあったのにスースーの息で眠れている姉は、図太いというか鈍感だというか……
"カーミラ兄さんが、もう来なくなっちゃったらどうしよう。"
そうだ、彼がいなくなれば、前の牛を見る退屈な生活に逆戻り。
もう、おままごとも、お姫様ごっこも出来ない。
「姉さんは、なにも考えてないんだわ。」
このことを姉のセイ・ボイドに吐露したところ、「アンタは心配性なのよ。大丈夫アイツは明日も来るわ。」と言って寝てしまった。
そうだ。カーミラ兄さんのために花冠を用意しましょう。
また姉さんが嫉妬してしまうかも知れないけど。
そう言って私は裏手の花畑へと駆け出した。
そういえば、父は居なかった。トイレかな??
* * *
「できた。」
三つ分。昼間カーミラ兄さんたちと遊んでいる時は、こんなに多くの花冠を作ることは出来なかった。
普段は姉さんが邪魔をしてきたり、途中で追いかけっこが始まったりするからだ。
不意に家の方で、ものすごい音が聞こえ、私は本能的に家の裏へと戻った。
女性の高笑い。
恐る恐る私は家の影から、それを覗いた。
昼間いた女の人。確かシャルル・アイシャという名の。
腕には姉さんを抱えている。
"姉さんを助けなきゃ。"
しかし脚は動かない。私の本能が「今は出るな。」と言っている。
彼女は、身体を縮ませ跳躍すると、宇宙そらに身を投げ出した。
それと同時に、家の表の方から鉄くさい液体が流れ出していることに気づき、家の影から出た。
暗くて、その液体が何かは分からない。
だが私には、何が起きたかが分かった。
「お父さん!! 」
そこには背中を貫かれ、「無」を抱いている父親の姿があった。
「何で……こんな……私たちが何をしたって言うのよ。」
---妹だけが生き残ったか---
どこからか声がする。
---まぁ宿主としては姉の方が優秀な気がするんだけど、連れ去られちゃったなら仕方ないね---
私はあたりを見渡す。
---双子で生まれてきたのが不幸中の幸いだったね。こうした緊急事態にも大丈夫出来るから---
---家督闘争が起きようとしているシド・ブレイクのやったことも、理に叶っているのかも知れないね。「ところ構わず腰を振り回っている神のふりをした猿」という認識は、修正しなくちゃいけないねぇ---
「あなた妖精さんね。お願い妖精さん。助けて!! パパが生き返れば、姉さんを連れ戻すこともできるの。」
私は絵本で見た妖精を思い出す。妖精は、少女想いの優しい存在で、少女の願いを何度も叶えて……最後には……
「う…うっ。」
---オイオイ、急に泣き出すなよな、お嬢ちゃん---
---でも、悪いね---
妖精は力なく笑った。
---僕は、人を生き返らせるなんてことは出来ないもんでね。そんな大層な存在じゃないんよ---
「いや、なんとかしてよ。何で!! 私なにも悪いことしてないのに。助けて!! パパを助けて!! 」
妖精は、縮こまったように、黙り込むと
---オイオイ。人に頼み込むだけじゃなくて、自分でなんとかしようとは、思わないのかい? まぁ僕は人じゃないけど---
と答えた。
「私じゃどうとでも出来ない。どうしろっていうの? 子供の私に。」
「こんな…こんなに苦しくなるなら、カーミラ兄さんや姉さんと、お花摘みをしたのも、一緒に魔術を勉強したのも『最初から全て無かった方が幸せだった。』」
その言葉に妖精が反応する。
---お嬢ちゃんその言葉。後悔するなよ。---
---分かった。僕はレディーファーストで優男の紳士様だからね。全て忘れさせてあげよう---
「妖精さん? 」
彼が私の中へと入っていく。父から放出される光の柱が、私の中へと入っていく。
父のこと、姉のこと、よく覚えていない母のこと……そしてカーミラ。
私から「記憶」がどんどん抜けていく。それと同時に、私の身体に不思議な力が宿っていくのが感じ取れた。
「…きろ。」
「起きろ。」
目を覚ますと、刀を下げた二十代後半のらしき男が、私の肩を譲っていた。
「キャッ。」
私は、あまりの出来事に飛び上がり、後ずさってしまう。」
男は眉をハの字に曲げた。
「悪かった。生きているなら良かった。早くここから逃げろ。」
"逃げるってどこへ? 私、何を? まず、私は誰なのだろう? "
どれだけ思考を凝らしても、気絶していた前のことが思い出せない。そこにあるはずものが無いようで………
そこへ、一人の男の子がやって来た。歳は…八歳ぐらいであろうか?
彼はそこで叫んだ。
「セイとレンを返せ!! 」
セイ? レン? 一体誰のことであろうか? 分からない。だが私の心には不快な気持ちだけが残った。
私は慌てて目の前の男の影に隠れる。
「レン? 僕だよ。カーミラだよ。助けに来た。」
レン? 助けに来た? レンって誰のこと? 私?
昼間あんなことがあったのにスースーの息で眠れている姉は、図太いというか鈍感だというか……
"カーミラ兄さんが、もう来なくなっちゃったらどうしよう。"
そうだ、彼がいなくなれば、前の牛を見る退屈な生活に逆戻り。
もう、おままごとも、お姫様ごっこも出来ない。
「姉さんは、なにも考えてないんだわ。」
このことを姉のセイ・ボイドに吐露したところ、「アンタは心配性なのよ。大丈夫アイツは明日も来るわ。」と言って寝てしまった。
そうだ。カーミラ兄さんのために花冠を用意しましょう。
また姉さんが嫉妬してしまうかも知れないけど。
そう言って私は裏手の花畑へと駆け出した。
そういえば、父は居なかった。トイレかな??
* * *
「できた。」
三つ分。昼間カーミラ兄さんたちと遊んでいる時は、こんなに多くの花冠を作ることは出来なかった。
普段は姉さんが邪魔をしてきたり、途中で追いかけっこが始まったりするからだ。
不意に家の方で、ものすごい音が聞こえ、私は本能的に家の裏へと戻った。
女性の高笑い。
恐る恐る私は家の影から、それを覗いた。
昼間いた女の人。確かシャルル・アイシャという名の。
腕には姉さんを抱えている。
"姉さんを助けなきゃ。"
しかし脚は動かない。私の本能が「今は出るな。」と言っている。
彼女は、身体を縮ませ跳躍すると、宇宙そらに身を投げ出した。
それと同時に、家の表の方から鉄くさい液体が流れ出していることに気づき、家の影から出た。
暗くて、その液体が何かは分からない。
だが私には、何が起きたかが分かった。
「お父さん!! 」
そこには背中を貫かれ、「無」を抱いている父親の姿があった。
「何で……こんな……私たちが何をしたって言うのよ。」
---妹だけが生き残ったか---
どこからか声がする。
---まぁ宿主としては姉の方が優秀な気がするんだけど、連れ去られちゃったなら仕方ないね---
私はあたりを見渡す。
---双子で生まれてきたのが不幸中の幸いだったね。こうした緊急事態にも大丈夫出来るから---
---家督闘争が起きようとしているシド・ブレイクのやったことも、理に叶っているのかも知れないね。「ところ構わず腰を振り回っている神のふりをした猿」という認識は、修正しなくちゃいけないねぇ---
「あなた妖精さんね。お願い妖精さん。助けて!! パパが生き返れば、姉さんを連れ戻すこともできるの。」
私は絵本で見た妖精を思い出す。妖精は、少女想いの優しい存在で、少女の願いを何度も叶えて……最後には……
「う…うっ。」
---オイオイ、急に泣き出すなよな、お嬢ちゃん---
---でも、悪いね---
妖精は力なく笑った。
---僕は、人を生き返らせるなんてことは出来ないもんでね。そんな大層な存在じゃないんよ---
「いや、なんとかしてよ。何で!! 私なにも悪いことしてないのに。助けて!! パパを助けて!! 」
妖精は、縮こまったように、黙り込むと
---オイオイ。人に頼み込むだけじゃなくて、自分でなんとかしようとは、思わないのかい? まぁ僕は人じゃないけど---
と答えた。
「私じゃどうとでも出来ない。どうしろっていうの? 子供の私に。」
「こんな…こんなに苦しくなるなら、カーミラ兄さんや姉さんと、お花摘みをしたのも、一緒に魔術を勉強したのも『最初から全て無かった方が幸せだった。』」
その言葉に妖精が反応する。
---お嬢ちゃんその言葉。後悔するなよ。---
---分かった。僕はレディーファーストで優男の紳士様だからね。全て忘れさせてあげよう---
「妖精さん? 」
彼が私の中へと入っていく。父から放出される光の柱が、私の中へと入っていく。
父のこと、姉のこと、よく覚えていない母のこと……そしてカーミラ。
私から「記憶」がどんどん抜けていく。それと同時に、私の身体に不思議な力が宿っていくのが感じ取れた。
「…きろ。」
「起きろ。」
目を覚ますと、刀を下げた二十代後半のらしき男が、私の肩を譲っていた。
「キャッ。」
私は、あまりの出来事に飛び上がり、後ずさってしまう。」
男は眉をハの字に曲げた。
「悪かった。生きているなら良かった。早くここから逃げろ。」
"逃げるってどこへ? 私、何を? まず、私は誰なのだろう? "
どれだけ思考を凝らしても、気絶していた前のことが思い出せない。そこにあるはずものが無いようで………
そこへ、一人の男の子がやって来た。歳は…八歳ぐらいであろうか?
彼はそこで叫んだ。
「セイとレンを返せ!! 」
セイ? レン? 一体誰のことであろうか? 分からない。だが私の心には不快な気持ちだけが残った。
私は慌てて目の前の男の影に隠れる。
「レン? 僕だよ。カーミラだよ。助けに来た。」
レン? 助けに来た? レンって誰のこと? 私?
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