神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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嫉妬と擾乱

父親失格

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 巨大な魔法陣が城から出現したと ほぼ同時に、別の場所で光の柱が出現した。
「慎二郎!! お前は、魔法陣の出た場所に急げ。七宝が代行者を抑えている間に、力を奪還するんだ。俺は光の柱を確かめに行く。」
 剣城はそう言って、柱の方へと走って行ってしまった。
 そうだ。全て終わらせよう。俺が召喚された理由は、怪異や代行者を殺すことでも、極東の言いなりになり戦争に加担することでも、いたずらに人を殺すことでもない。
 
 「世界をあるべき姿に戻すこと。」

 だが、代行者の力を得たあとはどうしようか?? 
「自害しろ。」
 黒服の男の言葉が脳裏を過ぎる。
 そうだ、召喚されたばかりの俺は、本当に自害するつもりでいた。
 でも……
 慎二……
 そうだ、俺はこの世界に触れるごとに大切なものが増えて行った。
 俺に世界を教えてくれた悪友。
 俺に名前をくれたパートナー。
 俺に姓をくれた王様。
 俺に戦い方を教えてくれた父親。
 俺に……
 俺に……
 俺が代行者になっても、剣城は変わらず友としていてくれるだろうか? 
 世界から争いは消えるだろうか?
 契約者子供たちは、何気ない日常に戻れるであろうか? 
 俺に神の代理など務まるであろうか?
 俺はなにを考えているのだ?
 死にたくない?
 なぜ? 俺が死ななければ、また同じことが繰り返されるのでは? 
 そのために俺は召喚された。
 なのに……
 俺は城の魔法陣を目指した。
 あるべき力を元の場所に還すために。
(何かが風を切る音。)
 なんだ? そうだ。俺は奇襲されたのだ。ここで倒れるわけにはいかない。
 俺も武器を取らなくては。向こうも本気で俺を殺しにくるであろう。
 ならば、俺もそうしなくてはならない。
 俺は、取り出した凛月の小太刀で奇襲者の刃を弾き返す。
「一年半ぶりだな払暁の勇者。」
 ドミニク・ブレイク。大地の剣アルテマの使い手にして、シド・ブレイクの第一王子。
「ちゃんと父親と話はしたのか? 」
 ドミニクの左ストレートが、俺の腹部を抉る。
「この一年半、潜伏していたってことは……」
「家族を一年半も放ったらかしていたってことだろうが!! そんな人間が俺に説教する道理なんて無い。」
「どいつもこいつも口先だけは、父親面しやがって。お前ら全員地獄に堕ちろ。」
---gravity・timesグラビティー・タイムズ---
 俺の感が「攻撃を受け止めろ」と言っている。
 この感覚。オヤッサンと修行をした時のあの感覚。額から嫌な汗が出るようなあの感覚だ。
 俺がチャクラムを構えると同時に、ドミニクのブーストされた突き攻撃が飛んでくる。
 重さはオヤッサンには足元にも及ばないが……速さは……おそらくオヤッサンを超えている。
 俺は五感を最大限に活かして、奴の攻撃に応戦する。
 突き攻撃で吹き飛ばされた俺は、接近戦がまずいと考え、小太刀から手を離し、チャクラムを鞭のように振るった。
「遅いぞ払暁の勇者。」
 彼は全て見えているように鎖を掻い潜ると、アルテマをこちらに突き出してくる。
 俺は彼の攻撃を紙一重で交わすと、彼の懐に飛び込んだ。
 俺の頬に赤い雫が走る。
 俺はそのまま彼を蹴飛ばした。
 そのまま宙返りし、地面に着地する。
「俺は家族を蔑ろにしているかもしれない。」
「だが、コレも俺の義務なんだ。力を持つものの義務。この任務も、家族も同じぐらい大事なんだ。」
 ドミニクが剣を掲げて、石壁を飛ばしてくる。
「アンタも親父も、何のために戦っているんだよ!! 俺はただ父さんに愛して欲しいだけなのに。父さんに認めて欲しいだけなのに。父さんに褒めて欲しいだけなのに。」
「何でどいつもこいつも、代行者やら世界の秩序やらのために、こんなくだらないことをやっているんだ!! 」
 その言葉に一瞬心が揺れた。
 俺は英雄として生きていくべきなのか。
 それとも慎二の父親として生きていくべきなのか。
 そして七宝刃のことを思い出す。
 彼は、自分が代理英雄として生きていくことよりも、自分が一人の父親として生きていくことを選んだ。
 それが極東を裏切ることになっても。
 ただ、俺は何のために戦っている? 子供が傷つかない世界? 今もあの子たちは、戦って傷ついている。美鬼とは喧嘩したまま出てきてしまっていた。
 俺は、なにも選択をしていない。それゆえになにも成し遂げられていない。
 刹那、脳内に直接声が届いた。馬田と琵琶だ。
 そのせいで反応が一瞬遅れる。
 俺の左耳が抉れる。
<慎二郎さん。作戦は失敗です。戻ってきて下さい。>
 くっ…こんな時に。
「逃げるな卑怯者!! 俺はちゃんと向かい合っている。逃げているのはお前らだろうが。このクズめ!! 殺してやる。お前だけは!! お前を殺して俺は父さんに認めてもらうんだ。」
 ドミニクの声がどんどん遠くなっていき、聞こえなくなっても、彼の声はいつまでも俺の中に残った。
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