神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

文字の大きさ
上 下
72 / 109
嫉妬と擾乱

父親失格

しおりを挟む
 巨大な魔法陣が城から出現したと ほぼ同時に、別の場所で光の柱が出現した。
「慎二郎!! お前は、魔法陣の出た場所に急げ。七宝が代行者を抑えている間に、力を奪還するんだ。俺は光の柱を確かめに行く。」
 剣城はそう言って、柱の方へと走って行ってしまった。
 そうだ。全て終わらせよう。俺が召喚された理由は、怪異や代行者を殺すことでも、極東の言いなりになり戦争に加担することでも、いたずらに人を殺すことでもない。
 
 「世界をあるべき姿に戻すこと。」

 だが、代行者の力を得たあとはどうしようか?? 
「自害しろ。」
 黒服の男の言葉が脳裏を過ぎる。
 そうだ、召喚されたばかりの俺は、本当に自害するつもりでいた。
 でも……
 慎二……
 そうだ、俺はこの世界に触れるごとに大切なものが増えて行った。
 俺に世界を教えてくれた悪友。
 俺に名前をくれたパートナー。
 俺に姓をくれた王様。
 俺に戦い方を教えてくれた父親。
 俺に……
 俺に……
 俺が代行者になっても、剣城は変わらず友としていてくれるだろうか? 
 世界から争いは消えるだろうか?
 契約者子供たちは、何気ない日常に戻れるであろうか? 
 俺に神の代理など務まるであろうか?
 俺はなにを考えているのだ?
 死にたくない?
 なぜ? 俺が死ななければ、また同じことが繰り返されるのでは? 
 そのために俺は召喚された。
 なのに……
 俺は城の魔法陣を目指した。
 あるべき力を元の場所に還すために。
(何かが風を切る音。)
 なんだ? そうだ。俺は奇襲されたのだ。ここで倒れるわけにはいかない。
 俺も武器を取らなくては。向こうも本気で俺を殺しにくるであろう。
 ならば、俺もそうしなくてはならない。
 俺は、取り出した凛月の小太刀で奇襲者の刃を弾き返す。
「一年半ぶりだな払暁の勇者。」
 ドミニク・ブレイク。大地の剣アルテマの使い手にして、シド・ブレイクの第一王子。
「ちゃんと父親と話はしたのか? 」
 ドミニクの左ストレートが、俺の腹部を抉る。
「この一年半、潜伏していたってことは……」
「家族を一年半も放ったらかしていたってことだろうが!! そんな人間が俺に説教する道理なんて無い。」
「どいつもこいつも口先だけは、父親面しやがって。お前ら全員地獄に堕ちろ。」
---gravity・timesグラビティー・タイムズ---
 俺の感が「攻撃を受け止めろ」と言っている。
 この感覚。オヤッサンと修行をした時のあの感覚。額から嫌な汗が出るようなあの感覚だ。
 俺がチャクラムを構えると同時に、ドミニクのブーストされた突き攻撃が飛んでくる。
 重さはオヤッサンには足元にも及ばないが……速さは……おそらくオヤッサンを超えている。
 俺は五感を最大限に活かして、奴の攻撃に応戦する。
 突き攻撃で吹き飛ばされた俺は、接近戦がまずいと考え、小太刀から手を離し、チャクラムを鞭のように振るった。
「遅いぞ払暁の勇者。」
 彼は全て見えているように鎖を掻い潜ると、アルテマをこちらに突き出してくる。
 俺は彼の攻撃を紙一重で交わすと、彼の懐に飛び込んだ。
 俺の頬に赤い雫が走る。
 俺はそのまま彼を蹴飛ばした。
 そのまま宙返りし、地面に着地する。
「俺は家族を蔑ろにしているかもしれない。」
「だが、コレも俺の義務なんだ。力を持つものの義務。この任務も、家族も同じぐらい大事なんだ。」
 ドミニクが剣を掲げて、石壁を飛ばしてくる。
「アンタも親父も、何のために戦っているんだよ!! 俺はただ父さんに愛して欲しいだけなのに。父さんに認めて欲しいだけなのに。父さんに褒めて欲しいだけなのに。」
「何でどいつもこいつも、代行者やら世界の秩序やらのために、こんなくだらないことをやっているんだ!! 」
 その言葉に一瞬心が揺れた。
 俺は英雄として生きていくべきなのか。
 それとも慎二の父親として生きていくべきなのか。
 そして七宝刃のことを思い出す。
 彼は、自分が代理英雄として生きていくことよりも、自分が一人の父親として生きていくことを選んだ。
 それが極東を裏切ることになっても。
 ただ、俺は何のために戦っている? 子供が傷つかない世界? 今もあの子たちは、戦って傷ついている。美鬼とは喧嘩したまま出てきてしまっていた。
 俺は、なにも選択をしていない。それゆえになにも成し遂げられていない。
 刹那、脳内に直接声が届いた。馬田と琵琶だ。
 そのせいで反応が一瞬遅れる。
 俺の左耳が抉れる。
<慎二郎さん。作戦は失敗です。戻ってきて下さい。>
 くっ…こんな時に。
「逃げるな卑怯者!! 俺はちゃんと向かい合っている。逃げているのはお前らだろうが。このクズめ!! 殺してやる。お前だけは!! お前を殺して俺は父さんに認めてもらうんだ。」
 ドミニクの声がどんどん遠くなっていき、聞こえなくなっても、彼の声はいつまでも俺の中に残った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

ラビリンス・シード

天界
SF
双子と一緒にVRMMOうさー

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

裏銀河のレティシア

SHINJIRO_G
SF
銀河系の地球と反対側。田舎の惑星に暮らす美少女(自称)は徘徊、グルメ、学校、仕事に忙しく生活しています。

3024年宇宙のスズキ

神谷モロ
SF
 俺の名はイチロー・スズキ。  もちろんベースボールとは無関係な一般人だ。  21世紀に生きていた普通の日本人。  ひょんな事故から冷凍睡眠されていたが1000年後の未来に蘇った現代の浦島太郎である。  今は福祉事業団体フリーボートの社員で、福祉船アマテラスの船長だ。 ※この作品はカクヨムでも掲載しています。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

落ちこぼれの魔術師と魔神

モモ
ファンタジー
平凡以下の成績しかなかったはずの坂本・翔護の元に桜魔魔術学院から推薦入学の話が来た事により、彼の運命は大きく変わった。

処理中です...