神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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嫉妬と擾乱

痛み分け

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 グランディル城の地下深くから出現した巨大な魔法陣が、アグス全域を覆った。ただならぬ雰囲気に感覚されていた契約者たちは一斉に動き出した。
 城の一番近い場所に潜伏していた七宝剣は、七英雄の剣の記憶を辿り、いち早く地下空間にたどり着いた。

 
「遅かったわねセブンスソード。」
 坂田剣城が事前に組んだ作戦によれば、魔法陣が浮かび上がれば、七英雄の記憶を保持する私が、シャルル・アイシャの魔術発動を阻止することになっていた。
 このような大禁呪を発動させるのには、膨大な魔力はもちろんのこと、かなりの時間が必要になると考えていたからだ。
 だが、彼女の存在は、私たちが想像するよりもずっと強大なものであった。
 魔法陣が発源した頃には、もう術が発動し終わっていたのだろう。
 地下空間には既に、巨大な水晶の柱が聳え立っており、中には……
 まだ十歳にもならないであろう少女が格納されていた。
「殺生、偸盗とうちゅう、黒縄地獄ってところか。」
 彼女はその言葉に鼻で笑って返す。
「ごめんなさいね。東の宗教には興味が無いの。私たちの国の宗教ではね。どんな罪を犯しても、神様に祈りを捧げて『反省していまーす。』って一言呟けば、どんな行いでも許してもらえるの。」
「ごめんなさーい。神様。反省していまーす。」
 私は、私の周りを回っている柄の一振りを掴み取ると、無言で彼女に向けた。
 彼女は続ける。
「全く、これだからホムンクルスは……今のはギャグよ。ギャグ。神なんているわけなじゃない。」
「その言葉を聞いて安心した。貴様を叩き潰しても、何の罪悪感も感じなくて済むからな。」
 私は握った剣を振り下ろす。
 剣から放たれた、楕円状に広がる闇の影にアイシャが飲み込まれる。
 が、彼女は、足をウサギのように深く曲げると、飛び上がり、水晶の柱を走り始めた。
---hydraウォーター・ドラゴン---
 彼女の右手から放り出された海蛇の顎門が、私に襲いかかる。
(蛇の頭に、風の剣を叩きつける。)
"文献によれば、シャルル・アイシャの能力は"
(頭をかち割り、一刀両断。)
"星詠み。だが、ここは地下空間だ。星は見えない。"
(そのまま、刃を引き抜く。)
---二枚おろしツインズ---
"なら、魔力供給源が他にあるはず。"
 二つに裂けた水竜の向こうで、アイシャが左手を掲げていた。
---herculis英雄憑依---
 彼女の身体に、柔らかな光が降り注ぐ。
 私が瞬きした次の瞬間には、私は、彼女にはたき落とされていた。
「強化魔術か。」
(全身で受け身を取る。)
 追撃が来る。私は、バックステップで攻撃を避けると、自分の周りを回っている剣の先を彼女へと向ける。
「だが、お前は魔術師だ。いくら、武人の真似事をしようとも、」
(六つの剣を彼女に飛ばした。)
「武人にはなれない。」
 彼女は声を荒げた。
「黙れ人形。」
 他の六つの剣で攻撃し、太刀筋を見る。
 彼女の「技能」のクセを捉えることにした。
"右より、左のへの動きが若干遅い。"
"攻撃は大振り。絶対に外さない自負があったか? "
"自分から攻撃に踏み込むことに対して消極的。"
 彼女は六つの剣に追い詰められ、再び水晶に手をつける。
---cancerツイン・ハンダー---
「魔力源。視えたぞ。」
 私は、風の剣を強く握り、飛び上がる。
 そして、彼女の元まで突進する。
 能力で私に反応した彼女は流されるままに、剣を構える。
 私は、風の剣でフェイントを入れつつ、背中に回り込ませていた火の剣で、背中を切り裂こうと試みる。
 彼女は俺の攻撃に気付いている。
 が、大振りの攻撃は止まらない。
---release解除---
 彼女は、紙一重、攻撃をかわす。
 火の剣は、彼女の首を掠ると、私の方へと戻ってきた。
 私は飛んできた火の剣が、自分の左耳を抜けたことを確認すると、彼女を出来るだけ柱から遠ざけるべく、五つの剣を彼女に向けて飛ばす。
"間違いない。魔力源は、この水晶の柱だ。"
  私は、畳みかけるべく、彼女を剣で追い詰める。
 一方彼女の方は、地下空間をウサギのように飛び回り、剣を必死に避けていた。
 水の剣が、彼女の頬を掠る。
 光の剣が、彼女の右腕を持って行った。
 闇の剣が、彼女の左眼を抉る。
 地の剣が、彼女の右太ももを抉る。
 時の剣が、彼女の左足を削ぎ落とした。
 私の頭に、頭痛が走る。
<七宝君。聞こえるか。活動限界だ。直ちに帰還したまえ。>
 坂上だ。
<任務は既に失敗している。代行者システム奪還計画は中止だ。帰還したまえ。>
"この計画のためにどれだけの時間を費やしたと思っている? 一年半だぞ。"
 脊髄に挿入されているナノチップが作動し、強制終了モードに移行する。
 空を舞っていた剣たちが、鞘に戻る。
 軍服のジェットパックが作動し、上昇を開始した。
 満身創痍のアイシャが、こちらを見上げている。
「痛み分けってところね。」
"痛み分けっ。痛み分けなことがあるか? 一年半だぞ。それだけの年月を費やして得られた結果がこれか? 何も、何も変わってい_________"

「痛み分け? いや、七宝君。私の予想以上の働きだよ。」
 制御室にいた坂上は、両肘をついたまま、モニターの68%という文字を凝視しながら、一人呟いた。
「七宝剣の活動時間、七英雄とのドッキング率。共に記録を更新しています。」
「七宝剣、代行者システムとの接触により、シンクロ率がさらに上昇。」
 そうだ、彼は、いずれ払暁の勇者すら超える存在。
 極東最強の兵器となりゆる存在だ。
「坂上様!! 七宝刃の調査結果です。」
「うむ……あの裏切り者桐生慎二郎は、もう少し泳がせておけ。」
「セブンスソードが覚醒するまでな。」
「はっ!! 」
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