69 / 109
嫉妬と擾乱
等活地獄
しおりを挟む
アイシャは帰ったというものの……
「おじさん、僕も今日は帰るよ。」
この今の空気の中で、平然としていられるほど、僕は図太くは無かった。
セイが、僕を引き留める。
「ダメよカーミラ!! コレは女王命令。」
僕は無言で首を横に振った。
「…なんで? 」
「アイシャさんが来たってことは、父さんも相当怒っているんだと思う。また明日来るよ。そしたらまた、遊ぼうね。」
「当然よ。カーミラは私の…そう私の家来なんだから。」
僕はベリックさんの方に向き返った。
「おじさん。」
「なんだ? 」
「明日は呪術について教えてね。」
「ああ、いつでも来るといい。今日はもう帰りなさい。」
僕は城までトボトボ帰った。城に着くと、疲れがどっと来て急に眠くなる。
食事は取らず、風呂に入ると、そのまま床に就いてしまった。
___
______
__________外が騒がしい。
何時間ほど寝ていたであろうか、僕が無意識にカーテンを開けると、グランディル城は、火の海に包まれていた。
「契約者だ!! 」
でもどこから? 極東が軍を進めたという話も聞かなかったし、警鐘も鳴っていない。
* * *
数時間前、玉間にて。
「お前も知っていたのだな。ベリックの存在を。」
「その様子では、あの神族たちは、あなたに恩赦された名誉人種ということになりますね。」
「慎めよアイシャ。彼は被害者だ。神族の身でありながら、人間の妻を愛し、その贖罪として妻を殺され地下牢に幽閉された悲しき存在だ。」
私は本題に入る。
「彼の娘、セイ・ボイドを核にすれば、あなたは代行者を続けられます。」
シド様は、震えた声で答えた。
「ならぬ、ならぬぞ!! 代行者システムの核に、神族を使うなど。倫理的にも、国民の心情的にもだ。神族を憎み、殺してきた我らがその力を利用するなど。」
私は畳をかける。
---divine replacement---
私がこの世のあらゆる魔法術を駆使し、五分で編み上げた最高傑作。
死神を殺す術式を、一晩で編み上げた伝説の執事などもろともしない。
そうだって私は天才なのだから。
「代行者システムの術式をお前に託したのは間違いだった。」
「あら、身体は正直ですねシド様。封書なんて書いちゃって。息子のカーミラにはどう説明するのかしら? 」
「…私だって、出来ればそうしたく無い。」
「じゃ~あ、さっさとカーミラに代行者を譲ってあげれば良いじゃないで__」
「ならぬ!!絶対にならぬぞ。カーミラに代行者を譲れば、内紛が起こるのは火を見るよりも明らかだ。王位継承順位第一位は長男のドミニクだ。」
私は彼の哀れな方便に思わず声を抑えきれなくなった。
「自分がタダの汚いオッサンになりたく無いだけじゃ無いですか。」
醜い老ぼれは、否定しなかった。
「持っていけ。ベリック宛の封書だ。このことは他言無用。私とお前だけの秘密だ。」
「フフフ、妻にも家族にも言わないなんて……あなたも悪い男ですね。」
* * *
彼は、まるでこの事態を予測していたかのように、家の前で仁王立ちをしていた。
私が昼間尋ねた時とは違う、全身を魔法具で纏ったフル装備だ。
「シド様からの封書です。」
「シドを唆したな。黒魔術師。」
「いいえ、あの中折れ野郎に色仕掛けは効きませんから。」
「ちょっと見直した。てっきり骨抜きにされているのかと思ったからな。」
ベリックは腰から抜いた魔法具の短剣をこちらに向けてくる。
「娘は渡さん。理由は言わずとも分かるだろう? 妻は救えなかったが、私には二本の腕がある。」
「一本はセイのため。もう一本はレンのためだ。」
楽しくなりそうだ。本気を出すのは久しぶり。この日の為に計画を立てて沢山準備してきたのだから。
「まずは、その右手から切り落として差し上げます。」
「おじさん、僕も今日は帰るよ。」
この今の空気の中で、平然としていられるほど、僕は図太くは無かった。
セイが、僕を引き留める。
「ダメよカーミラ!! コレは女王命令。」
僕は無言で首を横に振った。
「…なんで? 」
「アイシャさんが来たってことは、父さんも相当怒っているんだと思う。また明日来るよ。そしたらまた、遊ぼうね。」
「当然よ。カーミラは私の…そう私の家来なんだから。」
僕はベリックさんの方に向き返った。
「おじさん。」
「なんだ? 」
「明日は呪術について教えてね。」
「ああ、いつでも来るといい。今日はもう帰りなさい。」
僕は城までトボトボ帰った。城に着くと、疲れがどっと来て急に眠くなる。
食事は取らず、風呂に入ると、そのまま床に就いてしまった。
___
______
__________外が騒がしい。
何時間ほど寝ていたであろうか、僕が無意識にカーテンを開けると、グランディル城は、火の海に包まれていた。
「契約者だ!! 」
でもどこから? 極東が軍を進めたという話も聞かなかったし、警鐘も鳴っていない。
* * *
数時間前、玉間にて。
「お前も知っていたのだな。ベリックの存在を。」
「その様子では、あの神族たちは、あなたに恩赦された名誉人種ということになりますね。」
「慎めよアイシャ。彼は被害者だ。神族の身でありながら、人間の妻を愛し、その贖罪として妻を殺され地下牢に幽閉された悲しき存在だ。」
私は本題に入る。
「彼の娘、セイ・ボイドを核にすれば、あなたは代行者を続けられます。」
シド様は、震えた声で答えた。
「ならぬ、ならぬぞ!! 代行者システムの核に、神族を使うなど。倫理的にも、国民の心情的にもだ。神族を憎み、殺してきた我らがその力を利用するなど。」
私は畳をかける。
---divine replacement---
私がこの世のあらゆる魔法術を駆使し、五分で編み上げた最高傑作。
死神を殺す術式を、一晩で編み上げた伝説の執事などもろともしない。
そうだって私は天才なのだから。
「代行者システムの術式をお前に託したのは間違いだった。」
「あら、身体は正直ですねシド様。封書なんて書いちゃって。息子のカーミラにはどう説明するのかしら? 」
「…私だって、出来ればそうしたく無い。」
「じゃ~あ、さっさとカーミラに代行者を譲ってあげれば良いじゃないで__」
「ならぬ!!絶対にならぬぞ。カーミラに代行者を譲れば、内紛が起こるのは火を見るよりも明らかだ。王位継承順位第一位は長男のドミニクだ。」
私は彼の哀れな方便に思わず声を抑えきれなくなった。
「自分がタダの汚いオッサンになりたく無いだけじゃ無いですか。」
醜い老ぼれは、否定しなかった。
「持っていけ。ベリック宛の封書だ。このことは他言無用。私とお前だけの秘密だ。」
「フフフ、妻にも家族にも言わないなんて……あなたも悪い男ですね。」
* * *
彼は、まるでこの事態を予測していたかのように、家の前で仁王立ちをしていた。
私が昼間尋ねた時とは違う、全身を魔法具で纏ったフル装備だ。
「シド様からの封書です。」
「シドを唆したな。黒魔術師。」
「いいえ、あの中折れ野郎に色仕掛けは効きませんから。」
「ちょっと見直した。てっきり骨抜きにされているのかと思ったからな。」
ベリックは腰から抜いた魔法具の短剣をこちらに向けてくる。
「娘は渡さん。理由は言わずとも分かるだろう? 妻は救えなかったが、私には二本の腕がある。」
「一本はセイのため。もう一本はレンのためだ。」
楽しくなりそうだ。本気を出すのは久しぶり。この日の為に計画を立てて沢山準備してきたのだから。
「まずは、その右手から切り落として差し上げます。」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。
なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。
しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。
探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。
だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。
――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。
Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。
Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。
それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。
失意の内に意識を失った一馬の脳裏に
――チュートリアルが完了しました。
と、いうシステムメッセージが流れる。
それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!
Reboot ~AIに管理を任せたVRMMOが反旗を翻したので運営と力を合わせて攻略します~
霧氷こあ
SF
フルダイブMMORPGのクローズドβテストに参加した三人が、システム統括のAI『アイリス』によって閉じ込められた。
それを助けるためログインしたクロノスだったが、アイリスの妨害によりレベル1に……!?
見兼ねたシステム設計者で運営である『イヴ』がハイエルフの姿を借りて仮想空間に入り込む。だがそこはすでに、AIが統治する恐ろしくも残酷な世界だった。
「ここは現実であって、現実ではないの」
自我を持ち始めた混沌とした世界、乖離していく紅の世界。相反する二つを結ぶ少年と少女を描いたSFファンタジー。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
ゲームで第二の人生を!~最強?チート?ユニークスキル無双で【最強の相棒】と一緒にのんびりまったりハチャメチャライフ!?~
俊郎
SF
『カスタムパートナーオンライン』。それは、唯一無二の相棒を自分好みにカスタマイズしていく、発表時点で大いに期待が寄せられた最新VRMMOだった。
が、リリース直前に運営会社は倒産。ゲームは秘密裏に、とある研究機関へ譲渡された。
現実世界に嫌気がさした松永雅夫はこのゲームを利用した実験へ誘われ、第二の人生を歩むべく参加を決めた。
しかし、雅夫の相棒は予期しないものになった。
相棒になった謎の物体にタマと名付け、第二の人生を開始した雅夫を待っていたのは、怒涛のようなユニークスキル無双。
チートとしか言えないような相乗効果を生み出すユニークスキルのお陰でステータスは異常な数値を突破して、スキルの倍率もおかしなことに。
強くなれば将来は安泰だと、困惑しながらも楽しくまったり暮らしていくお話。
この作品は小説家になろう様、ツギクル様、ノベルアップ様でも公開しています。
大体1話2000~3000字くらいでぼちぼち更新していきます。
初めてのVRMMOものなので応援よろしくお願いします。
基本コメディです。
あまり難しく考えずお読みください。
Twitterです。
更新情報等呟くと思います。良ければフォロー等宜しくお願いします。
https://twitter.com/shiroutotoshiro?s=09
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~
うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。
突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。
なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ!
ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。
※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。
※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。
歴史改変戦記 「信長、中国を攻めるってよ」
高木一優
SF
タイムマシンによる時間航行が実現した近未来、大国の首脳陣は自国に都合の良い歴史を作り出すことに熱中し始めた。歴史学者である私の書いた論文は韓国や中国で叩かれ、反日デモが起る。豊臣秀吉が大陸に侵攻し中華帝国を制圧するという内容だ。学会を追われた私に中国の女性エージェントが接触し、中国政府が私の論文を題材として歴史介入を行うことを告げた。中国共産党は織田信長に中国の侵略を命じた。信長は朝鮮半島を蹂躙し中国本土に攻め入る。それは中華文明を西洋文明に対抗させるための戦略であった。
もうひとつの歴史を作り出すという思考実験を通じて、日本とは、中国とは、アジアとは何かを考えるポリティカルSF歴史コメディー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる