神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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嫉妬と擾乱

等活地獄

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 アイシャは帰ったというものの……
「おじさん、僕も今日は帰るよ。」
 この今の空気の中で、平然としていられるほど、僕は図太くは無かった。
 セイが、僕を引き留める。
「ダメよカーミラ!! コレは女王命令。」
 僕は無言で首を横に振った。
「…なんで? 」
「アイシャさんが来たってことは、父さんも相当怒っているんだと思う。また明日来るよ。そしたらまた、遊ぼうね。」
「当然よ。カーミラは私の…そう私の家来なんだから。」
 僕はベリックさんの方に向き返った。
「おじさん。」
「なんだ? 」
「明日は呪術について教えてね。」
「ああ、いつでも来るといい。今日はもう帰りなさい。」
 僕は城までトボトボ帰った。城に着くと、疲れがどっと来て急に眠くなる。
 食事は取らず、風呂に入ると、そのまま床に就いてしまった。
___
______
__________外が騒がしい。

 何時間ほど寝ていたであろうか、僕が無意識にカーテンを開けると、グランディル城は、火の海に包まれていた。
「契約者だ!! 」
 でもどこから? 極東が軍を進めたという話も聞かなかったし、警鐘も鳴っていない。

       * * *

 数時間前、玉間にて。
「お前も知っていたのだな。ベリックの存在を。」
「その様子では、あの神族たちは、あなたに恩赦された名誉人種ということになりますね。」
「慎めよアイシャ。彼は被害者だ。神族の身でありながら、人間の妻を愛し、その贖罪として妻を殺され地下牢に幽閉された悲しき存在だ。」
 私は本題に入る。
「彼の娘、セイ・ボイドを核にすれば、あなたは代行者を続けられます。」
 シド様は、震えた声で答えた。
「ならぬ、ならぬぞ!! 代行者システムの核に、神族を使うなど。倫理的にも、国民の心情的にもだ。神族を憎み、殺してきた我らがその力を利用するなど。」
 私は畳をかける。
---divine replacement ディバイン・リプレースメント---
 私がこの世のあらゆる魔法術を駆使し、五分で編み上げた最高傑作。
 死神を殺す術式を、一晩で編み上げた伝説の執事などもろともしない。
 そうだって私は天才なのだから。
「代行者システムの術式をお前に託したのは間違いだった。」
「あら、身体は正直ですねシド様。封書なんて書いちゃって。息子のカーミラにはどう説明するのかしら? 」
「…私だって、出来ればそうしたく無い。」
「じゃ~あ、さっさとカーミラに代行者を譲ってあげれば良いじゃないで__」
「ならぬ!!絶対にならぬぞ。カーミラに代行者を譲れば、内紛が起こるのは火を見るよりも明らかだ。王位継承順位第一位は長男のドミニクだ。」
 私は彼の哀れな方便に思わず声を抑えきれなくなった。
「自分がタダの汚いオッサンになりたく無いだけじゃ無いですか。」
 醜い老ぼれは、否定しなかった。
「持っていけ。ベリック宛の封書だ。このことは他言無用。私とお前だけの秘密だ。」
「フフフ、妻にも家族にも言わないなんて……あなたも悪い男ですね。」

       * * *

 彼は、まるでこの事態を予測していたかのように、家の前で仁王立ちをしていた。
 私が昼間尋ねた時とは違う、全身を魔法具で纏ったフル装備だ。
「シド様からの封書です。」
「シドを唆したな。黒魔術師。」
「いいえ、あの中折れ野郎に色仕掛けは効きませんから。」
「ちょっと見直した。てっきり骨抜きにされているのかと思ったからな。」
 ベリックは腰から抜いた魔法具の短剣をこちらに向けてくる。
「娘は渡さん。理由は言わずとも分かるだろう? 妻は救えなかったが、私には二本の腕がある。」
「一本はセイのため。もう一本はレンのためだ。」
 楽しくなりそうだ。本気を出すのは久しぶり。この日の為に計画を立てて沢山準備してきたのだから。
「まずは、その右手から切り落として差し上げます。」
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