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嫉妬と擾乱
火薬庫と導火線
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私がカーミラの教育係。だというなら、彼を城に連れ戻す権利がある。
私は神族の隠れ家に立ち寄ると、ドアを勢いよく開けた。
一番最初に飛び込んできたのは、カーミラのビックリした顔、額に汗が滲んでいた。
"大丈夫。シド様には告げ口しないから。"
いち早く異変に気づき、構えたのは父親らしき人物。
相当な手練れだろう。多分この人物がベリック・ボイドだ。人間の女と交わったことで、グラン帝国に囚われた神族。
「私たちに何か用かな? 」
私は愛嬌たっぷりの顔で答える。
「私、本日からカーミラ・ブレイク様の教育係を務めさせていただきます。シャルル・アイシャと申します。以後お見知り置きを。」
カーミラが不安そうな顔でこちらを見ている。
「アイシャ……何で? どうして? いやだ!! 帰りたく無い。」
「大丈夫。城のみんなには内緒にしますから、さぁ帰りましょう。あなたは、グランディル帝国の次期皇帝として、魔術を極める義務があります。」
「それでは皆様、ごきげんよう。」
私が手を引いているカーミラを、誰かが引っ張った。
「今、カーミラは私の王様なんだけど、後にしてくれない? 」
ベリックんとこの、おてんばが私の邪魔をしやがった。
「おままごとは、安息日にしましょうね。」
「離せッ! 」
カーミラが私の手を払った。
「お前も僕に嘘を吹き込むつもりだろう? 」
「違っ」
「いい、そんなもの!! 魔術も学術も全部ベリックさんが教えてくれるから。もう帰ってくれ!! 」
それから私はどうしていたか分からない。
気がついたら畑道を歩いていた。
「どうにかして、カーミラを助けてあげないと、あんな売女に唆されて。」
私の天才的な頭脳のシナプスが繋がる。
「そうだ。そうだわ。コレなら……」
私は、シド様の元へと跳ねるように帰っていった。
* * *
潜入任務から一年と半年。グランディルへの潜入自体は五ヶ月ほどで済んだ。
しかし……
「なぁ慎二郎よ。情報によれば、もうすぐ継承の儀が行われるって、太政大臣様は言ってたよなぁ。」
工作任務を行なうにしても、相手から動きが無ければ、実行する事が出来ない。
「子供たちはどうしている? 」
「ああ、グランディルの学校に行かせて、神聖語と神聖魔術を学ばせている。」
「そうか……」
「あー暇だな。お鶴や槍馬はどうしているかな? 」
「心配か? ならお前は帰っていいんだぜ。代行者の力は俺がいれば奪還出来るわけだし。」
「お前を、今のお前をこのまま置いておけるわけないだろう。」
どうやら、剣城のことは、どうやっても騙せないらしい。
「いやだな。もう大丈夫だよ。」
「帰ったら、ちゃんと美鬼さんと、慎二と話をしろよ。」
「……」
「なぁ剣城? 」
「なんだ? 慎二郎。」
俺は思い切って聞いてみることにした。
「なぜお前は、槍馬に稽古をつけるんだ? 」
彼は少し考えたような顔をしてから答えた。
「坂田一族だからってのもあるけど、やっぱり俺もオヤジもいつか死ぬわけだし……」
「いつまでも、親が守ってやれる訳じゃ無いんだよ。」
自分が死んだら? 考えた事が無かった。そうだ、俺はいつまで息子を守るつもりなんだろう? 彼もいずれ大人になって……
「ダメだ。アイツの能力は人を傷つける。だからこそ、俺は慎重にならなければならない。」
剣城は真面目な顔になって答えた。
「グランディル軍が攻めてきてもか? 」
そうだ、自分に他人を傷つける意思が無くても、相手にその意思がないわけでは無い。だからこそ、時に自分を守るためには他人を傷つけなければならない。
「もう少し、もう少し大きくなったら。」
「アイツの封印を解いてやろうと思う。力の使い方は自分で考えれば良い。」
剣城は少し悪びれた。
「なら、今回の任務は、必ず生きて帰らないとな。」
「おい、やめろよ。任務中だぞ。」
俺は腐れ縁の横腹を小突いた。
私は神族の隠れ家に立ち寄ると、ドアを勢いよく開けた。
一番最初に飛び込んできたのは、カーミラのビックリした顔、額に汗が滲んでいた。
"大丈夫。シド様には告げ口しないから。"
いち早く異変に気づき、構えたのは父親らしき人物。
相当な手練れだろう。多分この人物がベリック・ボイドだ。人間の女と交わったことで、グラン帝国に囚われた神族。
「私たちに何か用かな? 」
私は愛嬌たっぷりの顔で答える。
「私、本日からカーミラ・ブレイク様の教育係を務めさせていただきます。シャルル・アイシャと申します。以後お見知り置きを。」
カーミラが不安そうな顔でこちらを見ている。
「アイシャ……何で? どうして? いやだ!! 帰りたく無い。」
「大丈夫。城のみんなには内緒にしますから、さぁ帰りましょう。あなたは、グランディル帝国の次期皇帝として、魔術を極める義務があります。」
「それでは皆様、ごきげんよう。」
私が手を引いているカーミラを、誰かが引っ張った。
「今、カーミラは私の王様なんだけど、後にしてくれない? 」
ベリックんとこの、おてんばが私の邪魔をしやがった。
「おままごとは、安息日にしましょうね。」
「離せッ! 」
カーミラが私の手を払った。
「お前も僕に嘘を吹き込むつもりだろう? 」
「違っ」
「いい、そんなもの!! 魔術も学術も全部ベリックさんが教えてくれるから。もう帰ってくれ!! 」
それから私はどうしていたか分からない。
気がついたら畑道を歩いていた。
「どうにかして、カーミラを助けてあげないと、あんな売女に唆されて。」
私の天才的な頭脳のシナプスが繋がる。
「そうだ。そうだわ。コレなら……」
私は、シド様の元へと跳ねるように帰っていった。
* * *
潜入任務から一年と半年。グランディルへの潜入自体は五ヶ月ほどで済んだ。
しかし……
「なぁ慎二郎よ。情報によれば、もうすぐ継承の儀が行われるって、太政大臣様は言ってたよなぁ。」
工作任務を行なうにしても、相手から動きが無ければ、実行する事が出来ない。
「子供たちはどうしている? 」
「ああ、グランディルの学校に行かせて、神聖語と神聖魔術を学ばせている。」
「そうか……」
「あー暇だな。お鶴や槍馬はどうしているかな? 」
「心配か? ならお前は帰っていいんだぜ。代行者の力は俺がいれば奪還出来るわけだし。」
「お前を、今のお前をこのまま置いておけるわけないだろう。」
どうやら、剣城のことは、どうやっても騙せないらしい。
「いやだな。もう大丈夫だよ。」
「帰ったら、ちゃんと美鬼さんと、慎二と話をしろよ。」
「……」
「なぁ剣城? 」
「なんだ? 慎二郎。」
俺は思い切って聞いてみることにした。
「なぜお前は、槍馬に稽古をつけるんだ? 」
彼は少し考えたような顔をしてから答えた。
「坂田一族だからってのもあるけど、やっぱり俺もオヤジもいつか死ぬわけだし……」
「いつまでも、親が守ってやれる訳じゃ無いんだよ。」
自分が死んだら? 考えた事が無かった。そうだ、俺はいつまで息子を守るつもりなんだろう? 彼もいずれ大人になって……
「ダメだ。アイツの能力は人を傷つける。だからこそ、俺は慎重にならなければならない。」
剣城は真面目な顔になって答えた。
「グランディル軍が攻めてきてもか? 」
そうだ、自分に他人を傷つける意思が無くても、相手にその意思がないわけでは無い。だからこそ、時に自分を守るためには他人を傷つけなければならない。
「もう少し、もう少し大きくなったら。」
「アイツの封印を解いてやろうと思う。力の使い方は自分で考えれば良い。」
剣城は少し悪びれた。
「なら、今回の任務は、必ず生きて帰らないとな。」
「おい、やめろよ。任務中だぞ。」
俺は腐れ縁の横腹を小突いた。
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