神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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英雄≠父親

帰還

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 エネルギー衝突による爆発から数秒たち、目のピンが戻りつつある。
「まいった…なぁ。途中…で…代償に…底がつく…なんて…」
 俺は倒れている七宝刃の元に駆け寄った。
「お前の勝ちだ。刃。」
「ハハハ…どうだ…だって…俺は…代理英雄…だから…な。」
「妻た…ちは…ここから…少し南に行った…ところの港…で船に…乗ろうと…して…いる。」
「なぜそれを、俺に? 」
「妻と…子供を…殺さない…と…お前の…家族…が…危ない。」
「……」
「でも…」
「でも…もし…こんな…事を…お前に…頼むのは…………………………………」
 そこで刃は何も言わなくなった。
 瞳孔の開いた彼の目を右手で覆う。

     * * *

 碧は双薔を連れて、ウボク行きの密輸船に乗るため、小舟と船頭を手配していた。
「夫人!! 準備出来ましたよ。お乗りくださいませ。」
 双薔が私の着物の裾を引っ張る。
「ママ? パパがまだ来ていない。パパはどこ? 」
「大丈夫。先にあの船に乗っているわ。私たちも行きましょう。極東の追手が来る前に。」
 船頭が額に汗を浮かべさせる。
「早くして下さいよ。あっしも…本当はこんな事したくないんです。」
 彼はこんな事を言いながらも、延棒を見せれば、ホイホイ依頼を受け入れたのだ。
 報酬を増やすと言ってやれば、彼は必ず待ってくれる。
「ママッ!! パパが来たよ。」
 私は勢いよく振り返った。
 だが、そこにいたのは刃では無い。
「ほーら言わんこっちゃ無い。」
 だが、船頭が舟を出すよりも早く、男は私の目の前に現れた。
 右手には叢雲が握られている。
 私は双薔を覆い被さるように守り、命乞いをした。
「私は殺していただいても構いません!! どうか娘だけは……」
 彼にはどんなに惨めな私が映ったであろうか……
 男は叢雲を振り上げると

 小舟へとそれを投げる。
「これで、碧野碧も碧野双薔も死んだ。」
 彼は振り返ると何も言わずに真っ直ぐ森の方へと帰っていった。

       * * *
 
 極東に帰った俺は、負傷したボロ雑巾のような身体を引きずりながら、宮内に入り、側近専用の個室へと入った。
 最初に俺を迎えたのは、伴だ。
「やぁ慎二郎クンお帰り。その様子じゃ任務は成功したと言って良いのかな? 」
「ああ、七宝刃は殺した。妻、娘も・ろ・と・も・。」
「だが、叢雲は無かった。刃は俺が来る前に、契約を解除して、どこかに捨てたんだろう。
探知機の反応もなかった。」
 坂上が横槍を入れる。
「叢雲は元々君のものだろう? 」
「権限をロックされて以来、サッパリだ。意識さえ感じ取ることが出来ない。」
 このことに対して嘘はついていない。
「刃を殺す前に、叢雲の位置を聞いておくべきだった。」
 伴はため息をつく。
「もういい、下がれ。捜索は我々でやる。」
 
      * * *

 坂上は局長室に戻ると、七宝剣を呼び出した。
「なんでしょうか? 極長。」
「碧野碧たちの死体を確認しにいけ。」
「承知いたしました。」
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