神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

文字の大きさ
上 下
64 / 109
英雄≠父親

帰還

しおりを挟む
 エネルギー衝突による爆発から数秒たち、目のピンが戻りつつある。
「まいった…なぁ。途中…で…代償に…底がつく…なんて…」
 俺は倒れている七宝刃の元に駆け寄った。
「お前の勝ちだ。刃。」
「ハハハ…どうだ…だって…俺は…代理英雄…だから…な。」
「妻た…ちは…ここから…少し南に行った…ところの港…で船に…乗ろうと…して…いる。」
「なぜそれを、俺に? 」
「妻と…子供を…殺さない…と…お前の…家族…が…危ない。」
「……」
「でも…」
「でも…もし…こんな…事を…お前に…頼むのは…………………………………」
 そこで刃は何も言わなくなった。
 瞳孔の開いた彼の目を右手で覆う。

     * * *

 碧は双薔を連れて、ウボク行きの密輸船に乗るため、小舟と船頭を手配していた。
「夫人!! 準備出来ましたよ。お乗りくださいませ。」
 双薔が私の着物の裾を引っ張る。
「ママ? パパがまだ来ていない。パパはどこ? 」
「大丈夫。先にあの船に乗っているわ。私たちも行きましょう。極東の追手が来る前に。」
 船頭が額に汗を浮かべさせる。
「早くして下さいよ。あっしも…本当はこんな事したくないんです。」
 彼はこんな事を言いながらも、延棒を見せれば、ホイホイ依頼を受け入れたのだ。
 報酬を増やすと言ってやれば、彼は必ず待ってくれる。
「ママッ!! パパが来たよ。」
 私は勢いよく振り返った。
 だが、そこにいたのは刃では無い。
「ほーら言わんこっちゃ無い。」
 だが、船頭が舟を出すよりも早く、男は私の目の前に現れた。
 右手には叢雲が握られている。
 私は双薔を覆い被さるように守り、命乞いをした。
「私は殺していただいても構いません!! どうか娘だけは……」
 彼にはどんなに惨めな私が映ったであろうか……
 男は叢雲を振り上げると

 小舟へとそれを投げる。
「これで、碧野碧も碧野双薔も死んだ。」
 彼は振り返ると何も言わずに真っ直ぐ森の方へと帰っていった。

       * * *
 
 極東に帰った俺は、負傷したボロ雑巾のような身体を引きずりながら、宮内に入り、側近専用の個室へと入った。
 最初に俺を迎えたのは、伴だ。
「やぁ慎二郎クンお帰り。その様子じゃ任務は成功したと言って良いのかな? 」
「ああ、七宝刃は殺した。妻、娘も・ろ・と・も・。」
「だが、叢雲は無かった。刃は俺が来る前に、契約を解除して、どこかに捨てたんだろう。
探知機の反応もなかった。」
 坂上が横槍を入れる。
「叢雲は元々君のものだろう? 」
「権限をロックされて以来、サッパリだ。意識さえ感じ取ることが出来ない。」
 このことに対して嘘はついていない。
「刃を殺す前に、叢雲の位置を聞いておくべきだった。」
 伴はため息をつく。
「もういい、下がれ。捜索は我々でやる。」
 
      * * *

 坂上は局長室に戻ると、七宝剣を呼び出した。
「なんでしょうか? 極長。」
「碧野碧たちの死体を確認しにいけ。」
「承知いたしました。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~

阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。 転生した先は俺がやっていたゲームの世界。 前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。 だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……! そんなとき、街が魔獣に襲撃される。 迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。 だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。 平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。 だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。 隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。

3024年宇宙のスズキ

神谷モロ
SF
 俺の名はイチロー・スズキ。  もちろんベースボールとは無関係な一般人だ。  21世紀に生きていた普通の日本人。  ひょんな事故から冷凍睡眠されていたが1000年後の未来に蘇った現代の浦島太郎である。  今は福祉事業団体フリーボートの社員で、福祉船アマテラスの船長だ。 ※この作品はカクヨムでも掲載しています。

原初の星/多重世界の旅人シリーズIV

りゅう
SF
 多重世界に無限回廊という特殊な空間を発見したリュウは、無限回廊を実現している白球システムの危機を救った。これで、無限回廊は安定し多重世界で自由に活動できるようになる。そう思っていた。  だが、実際には多重世界の深淵に少し触れた程度のものでしかなかった。 表紙イラスト:AIアニメジェネレーターにて生成。 https://perchance.org/ai-anime-generator

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

ゆとりある生活を異世界で

コロ
ファンタジー
とある世界の皇国 公爵家の長男坊は 少しばかりの異能を持っていて、それを不思議に思いながらも健やかに成長していた… それなりに頑張って生きていた俺は48歳 なかなか楽しい人生だと満喫していたら 交通事故でアッサリ逝ってもた…orz そんな俺を何気に興味を持って見ていた神様の一柱が 『楽しませてくれた礼をあげるよ』 とボーナスとして異世界でもう一つの人生を歩ませてくれる事に… それもチートまでくれて♪ ありがたやありがたや チート?強力なのがあります→使うとは言ってない   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 身体の状態(主に目)と相談しながら書くので遅筆になると思います 宜しくお付き合い下さい

落ちこぼれの魔術師と魔神

モモ
ファンタジー
平凡以下の成績しかなかったはずの坂本・翔護の元に桜魔魔術学院から推薦入学の話が来た事により、彼の運命は大きく変わった。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

蒼海のシグルーン

田柄満
SF
深海に眠っていた謎のカプセル。その中から現れたのは、機械の体を持つ銀髪の少女。彼女は、一万年前に滅びた文明の遺産『ルミノイド』だった――。古代海洋遺跡調査団とルミノイドのカーラが巡る、海と過去を繋ぐ壮大な冒険が、今始まる。 毎週金曜日に更新予定です。

処理中です...