神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

文字の大きさ
上 下
61 / 109
英雄≠父親

歴史は賢者のみぞ知る 真実は神のみぞ知る

しおりを挟む
 翌日、任務から帰ってきた剣城が、俺の家に飛び込んできた。
「大変だ慎二郎!! 今すぐ極東に来てくれ。」
 息を切らせている彼に俺は問う。
「何があった? 」
「ここじゃまずい。事は宮内で話す。」
 俺は家から一歩踏み出した。
「お父さん。また行っちゃうの? 」
 振り返ると、枕を片手に目を擦る我が子の姿がある。
 俺は彼に寄り、しゃがむと、優しく頭を撫でた。
「大丈夫。すぐ帰ってくるから。」
 美鬼は……まだ寝ている。のか分からない。ここから彼女の顔を見ることは出来なかった。
「美鬼。言ってくる。帰ってきたらちゃんと話をしよう。」
 そう言って俺は村を後にした。

     * * *

 俺たちが最後のようだ。
 伴光が俺たちを睨んだ。
「英雄との。坂田剣城。遅刻だ。」
 まだ一人来ていない。
「上様はどうした? 」
 俺は肝心な天がどこにもいないことを疑問に思い、首を左右に回した。
「……」
 最初に答えたのは、坂上だった。
「迂闊だったよ。契約者も、七宝も出払っていた。」
「くそぉ、護衛に一人つけとくべきだったが。」
 伴光がそれを制した。
「ならぬぞ、あのような化け物を宮内に招き入れるなど。」
 それから伴は俺を指さし、憎しみのこもった顔で言葉を吐き捨てる。
「お前のような、ならず者を招き入れているのも、お前が上様のお気に入りだったからだ。」
 大藤が言葉を遮る。
「伴殿!! 慎まれよ。」
 昨夜は、契約者がギャング討伐で出払っており、坂上と七宝は……新しい契約者の回収に行っていたらしい。
 俺はやり切れない思いで、伴を問いただす。
「なら…なぜ私を護衛においてくださらなかったのですか? 」
「慎めよ屑が。」
 屑は俺にそう吐き捨てた。
 坂上が話を切り返す。
「世継ぎは天子様のみだ。彼が元服するまで、後見人が必要だろう? 」
 伴は急に真顔になると、坂上に言葉を返した。
「それなら……遺書が見つかっている。」

    側近たちへ

 私の身に何かあったら、息子のことを頼む。
 特に伴。君には、息子が元服するまで摂政を頼みたい。

                  私より
 
 伴は高らかに宣言した。
「上様の命令は絶対だ。今日より、私が太政大臣の位につく。」
「ふざけるな伴!! 」
 剣城は叫んだ。
「いくらなんでも横暴すぎる。」
 と大藤。
「上様の名に逆らうつもりかな? 反逆者は流罪。それが側近ともいえどもな。」
「発言をいいかな? 」
 この険悪なムードの中、ただ冷静さを保ち右手を上げたのは、坂上だった。
「その遺書は本物か? その遺書が本物である証拠は? それになら真犯人は? 」
 その通りだ。遺書に信憑性が無い。その遺書を伴が持っているのもだからさらに胡散臭い。
「証拠なら…ある。」
 そういうと、伴は手紙を三つ折りにすると、泥封がわりに押された血判を見せる。
「なるほどなぁ。」
 坂上は一人そう呟いた。
「『上様の御正体を調べろ。』そう言いたいのだろ? 」
 俺はこの言葉で意味を理解した。
 血判には指紋の中心に亀裂がある。おそらく天本人が、血判を押す際に出来た切り傷だ。
 天の右親指に傷がないと言うことは、彼が事前に残した遺言ということになる。
 伴は得意になって坂上を挑発する。
「君が最近研究している『DAN鑑定』とやらを試して見てはいかがかな? 」
「DNA鑑定だ。」
 と坂上。
 今度は剣城が伴に問いかけた。
「なら上様を殺したのは誰だ? 」
 そこからの会話は、よく覚えていない。
 俺は彼との記憶を顧みることも、彼の死に悲しむことも、殺されたことに対する憎しみも湧かなかった。
 悲しみとは後からやってくるモノなのである。今はただ、彼を守れなかったことの後悔と彼を失ったことの虚無感に苛まれるのみだった。
「違う俺はやってねぇ!! 」
 木の棒に腕を括り付けられた極東ギャングの長は、必死に身体を動かし、自分の無罪を訴えている。
 その悲鳴を聞きつけた野次馬たちが、ざわざわと輪を作り始めたようだ。
「今すぐ罪を告白し、上様に謝罪しなさい。されば、あなたの魂は救われるでしょう。」
 伴の顔にギャングの唾が飛んだ。
 それを見た子供が、伴を指差しゲラゲラと笑うので、伴の顔が一瞬引きついている。
「……良いでしょう。やれ!! 」
 刀を持った近衛が、今にも彼の首を切り落とさんと構えた。
「地獄に堕ちろ。腰巾着の道化めがぁ! 」
 次の瞬間、ギャングの首が飛び、切断された頸動脈から大量の血が吹き出し、周囲に悲鳴と歓喜の声が上がる。
 その憎しみにこもった生首は、いつまでも彼を睨んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~

うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。 突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。 なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ! ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。 ※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。 ※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

New Life

basi
SF
なろうに掲載したものをカクヨム・アルファポにて掲載しています。改稿バージョンです。  待ちに待ったVRMMO《new life》  自分の行動でステータスの変化するアビリティシステム。追求されるリアリティ。そんなゲームの中の『新しい人生』に惹かれていくユルと仲間たち。  ゲームを進め、ある条件を満たしたために行われたアップデート。しかし、それは一部の人々にゲームを終わらせ、新たな人生を歩ませた。  第二部? むしろ本編? 始まりそうです。  主人公は美少女風美青年?

あさきゆめみし

八神真哉
歴史・時代
山賊に襲われた、わけありの美貌の姫君。 それを助ける正体不明の若き男。 その法力に敵う者なしと謳われる、鬼の法師、酒呑童子。 三者が交わるとき、封印された過去と十種神宝が蘇る。 毎週金曜日更新

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

処理中です...