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英雄≠父親
歴史は賢者のみぞ知る 真実は神のみぞ知る
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翌日、任務から帰ってきた剣城が、俺の家に飛び込んできた。
「大変だ慎二郎!! 今すぐ極東に来てくれ。」
息を切らせている彼に俺は問う。
「何があった? 」
「ここじゃまずい。事は宮内で話す。」
俺は家から一歩踏み出した。
「お父さん。また行っちゃうの? 」
振り返ると、枕を片手に目を擦る我が子の姿がある。
俺は彼に寄り、しゃがむと、優しく頭を撫でた。
「大丈夫。すぐ帰ってくるから。」
美鬼は……まだ寝ている。のか分からない。ここから彼女の顔を見ることは出来なかった。
「美鬼。言ってくる。帰ってきたらちゃんと話をしよう。」
そう言って俺は村を後にした。
* * *
俺たちが最後のようだ。
伴光が俺たちを睨んだ。
「英雄との。坂田剣城。遅刻だ。」
まだ一人来ていない。
「上様はどうした? 」
俺は肝心な天がどこにもいないことを疑問に思い、首を左右に回した。
「……」
最初に答えたのは、坂上だった。
「迂闊だったよ。契約者も、七宝も出払っていた。」
「くそぉ、護衛に一人つけとくべきだったが。」
伴光がそれを制した。
「ならぬぞ、あのような化け物を宮内に招き入れるなど。」
それから伴は俺を指さし、憎しみのこもった顔で言葉を吐き捨てる。
「お前のような、ならず者を招き入れているのも、お前が上様のお気に入りだったからだ。」
大藤が言葉を遮る。
「伴殿!! 慎まれよ。」
昨夜は、契約者がギャング討伐で出払っており、坂上と七宝は……新しい契約者の回収に行っていたらしい。
俺はやり切れない思いで、伴を問いただす。
「なら…なぜ私を護衛においてくださらなかったのですか? 」
「慎めよ屑が。」
屑は俺にそう吐き捨てた。
坂上が話を切り返す。
「世継ぎは天子様のみだ。彼が元服するまで、後見人が必要だろう? 」
伴は急に真顔になると、坂上に言葉を返した。
「それなら……遺書が見つかっている。」
側近たちへ
私の身に何かあったら、息子のことを頼む。
特に伴。君には、息子が元服するまで摂政を頼みたい。
私より
伴は高らかに宣言した。
「上様の命令は絶対だ。今日より、私が太政大臣の位につく。」
「ふざけるな伴!! 」
剣城は叫んだ。
「いくらなんでも横暴すぎる。」
と大藤。
「上様の名に逆らうつもりかな? 反逆者は流罪。それが側近ともいえどもな。」
「発言をいいかな? 」
この険悪なムードの中、ただ冷静さを保ち右手を上げたのは、坂上だった。
「その遺書は本物か? その遺書が本物である証拠は? それになら真犯人は? 」
その通りだ。遺書に信憑性が無い。その遺書を伴が持っているのもだからさらに胡散臭い。
「証拠なら…ある。」
そういうと、伴は手紙を三つ折りにすると、泥封がわりに押された血判を見せる。
「なるほどなぁ。」
坂上は一人そう呟いた。
「『上様の御正体を調べろ。』そう言いたいのだろ? 」
俺はこの言葉で意味を理解した。
血判には指紋の中心に亀裂がある。おそらく天本人が、血判を押す際に出来た切り傷だ。
天の右親指に傷がないと言うことは、彼が事前に残した遺言ということになる。
伴は得意になって坂上を挑発する。
「君が最近研究している『DAN鑑定』とやらを試して見てはいかがかな? 」
「DNA鑑定だ。」
と坂上。
今度は剣城が伴に問いかけた。
「なら上様を殺したのは誰だ? 」
そこからの会話は、よく覚えていない。
俺は彼との記憶を顧みることも、彼の死に悲しむことも、殺されたことに対する憎しみも湧かなかった。
悲しみとは後からやってくるモノなのである。今はただ、彼を守れなかったことの後悔と彼を失ったことの虚無感に苛まれるのみだった。
「違う俺はやってねぇ!! 」
木の棒に腕を括り付けられた極東ギャングの長は、必死に身体を動かし、自分の無罪を訴えている。
その悲鳴を聞きつけた野次馬たちが、ざわざわと輪を作り始めたようだ。
「今すぐ罪を告白し、上様に謝罪しなさい。されば、あなたの魂は救われるでしょう。」
伴の顔にギャングの唾が飛んだ。
それを見た子供が、伴を指差しゲラゲラと笑うので、伴の顔が一瞬引きついている。
「……良いでしょう。やれ!! 」
刀を持った近衛が、今にも彼の首を切り落とさんと構えた。
「地獄に堕ちろ。腰巾着の道化めがぁ! 」
次の瞬間、ギャングの首が飛び、切断された頸動脈から大量の血が吹き出し、周囲に悲鳴と歓喜の声が上がる。
その憎しみにこもった生首は、いつまでも彼を睨んでいた。
「大変だ慎二郎!! 今すぐ極東に来てくれ。」
息を切らせている彼に俺は問う。
「何があった? 」
「ここじゃまずい。事は宮内で話す。」
俺は家から一歩踏み出した。
「お父さん。また行っちゃうの? 」
振り返ると、枕を片手に目を擦る我が子の姿がある。
俺は彼に寄り、しゃがむと、優しく頭を撫でた。
「大丈夫。すぐ帰ってくるから。」
美鬼は……まだ寝ている。のか分からない。ここから彼女の顔を見ることは出来なかった。
「美鬼。言ってくる。帰ってきたらちゃんと話をしよう。」
そう言って俺は村を後にした。
* * *
俺たちが最後のようだ。
伴光が俺たちを睨んだ。
「英雄との。坂田剣城。遅刻だ。」
まだ一人来ていない。
「上様はどうした? 」
俺は肝心な天がどこにもいないことを疑問に思い、首を左右に回した。
「……」
最初に答えたのは、坂上だった。
「迂闊だったよ。契約者も、七宝も出払っていた。」
「くそぉ、護衛に一人つけとくべきだったが。」
伴光がそれを制した。
「ならぬぞ、あのような化け物を宮内に招き入れるなど。」
それから伴は俺を指さし、憎しみのこもった顔で言葉を吐き捨てる。
「お前のような、ならず者を招き入れているのも、お前が上様のお気に入りだったからだ。」
大藤が言葉を遮る。
「伴殿!! 慎まれよ。」
昨夜は、契約者がギャング討伐で出払っており、坂上と七宝は……新しい契約者の回収に行っていたらしい。
俺はやり切れない思いで、伴を問いただす。
「なら…なぜ私を護衛においてくださらなかったのですか? 」
「慎めよ屑が。」
屑は俺にそう吐き捨てた。
坂上が話を切り返す。
「世継ぎは天子様のみだ。彼が元服するまで、後見人が必要だろう? 」
伴は急に真顔になると、坂上に言葉を返した。
「それなら……遺書が見つかっている。」
側近たちへ
私の身に何かあったら、息子のことを頼む。
特に伴。君には、息子が元服するまで摂政を頼みたい。
私より
伴は高らかに宣言した。
「上様の命令は絶対だ。今日より、私が太政大臣の位につく。」
「ふざけるな伴!! 」
剣城は叫んだ。
「いくらなんでも横暴すぎる。」
と大藤。
「上様の名に逆らうつもりかな? 反逆者は流罪。それが側近ともいえどもな。」
「発言をいいかな? 」
この険悪なムードの中、ただ冷静さを保ち右手を上げたのは、坂上だった。
「その遺書は本物か? その遺書が本物である証拠は? それになら真犯人は? 」
その通りだ。遺書に信憑性が無い。その遺書を伴が持っているのもだからさらに胡散臭い。
「証拠なら…ある。」
そういうと、伴は手紙を三つ折りにすると、泥封がわりに押された血判を見せる。
「なるほどなぁ。」
坂上は一人そう呟いた。
「『上様の御正体を調べろ。』そう言いたいのだろ? 」
俺はこの言葉で意味を理解した。
血判には指紋の中心に亀裂がある。おそらく天本人が、血判を押す際に出来た切り傷だ。
天の右親指に傷がないと言うことは、彼が事前に残した遺言ということになる。
伴は得意になって坂上を挑発する。
「君が最近研究している『DAN鑑定』とやらを試して見てはいかがかな? 」
「DNA鑑定だ。」
と坂上。
今度は剣城が伴に問いかけた。
「なら上様を殺したのは誰だ? 」
そこからの会話は、よく覚えていない。
俺は彼との記憶を顧みることも、彼の死に悲しむことも、殺されたことに対する憎しみも湧かなかった。
悲しみとは後からやってくるモノなのである。今はただ、彼を守れなかったことの後悔と彼を失ったことの虚無感に苛まれるのみだった。
「違う俺はやってねぇ!! 」
木の棒に腕を括り付けられた極東ギャングの長は、必死に身体を動かし、自分の無罪を訴えている。
その悲鳴を聞きつけた野次馬たちが、ざわざわと輪を作り始めたようだ。
「今すぐ罪を告白し、上様に謝罪しなさい。されば、あなたの魂は救われるでしょう。」
伴の顔にギャングの唾が飛んだ。
それを見た子供が、伴を指差しゲラゲラと笑うので、伴の顔が一瞬引きついている。
「……良いでしょう。やれ!! 」
刀を持った近衛が、今にも彼の首を切り落とさんと構えた。
「地獄に堕ちろ。腰巾着の道化めがぁ! 」
次の瞬間、ギャングの首が飛び、切断された頸動脈から大量の血が吹き出し、周囲に悲鳴と歓喜の声が上がる。
その憎しみにこもった生首は、いつまでも彼を睨んでいた。
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