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英雄≠父親
慎二郎の葛藤
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昨夜、新しく契約者になったのは、羽々斬風見というらしい。
極東新病院から抜け出し、捜査のために立ち入り禁止区域に指定されていた我が家をじっと見ていたところを大番役に発見されたのだ。
「帰って…下さい。」
額に花瓶が飛んできて、視界が赤く染まる。
「貴方が力を極東に譲渡していなかったら……」
「私もお母さんも幸せに暮らせたの。」
そうだ俺のせいだ。全ての始まりは……そして、この事件が公になれば、少年兵はさらに増えるだろう。
俺はこういう時、何で言えば良いのか分からなかった。
「すまなかった。許してくれ。」
そんなことは誰でも言えるのである。ただ、俺が今、頭を下げたところで、この子の日常は変わらない。
「もう帰って!! 」
そうだ、帰ろう。
坂上は俺に気を遣ってくれたのか、ギャング殲滅作戦から、俺の名前を除外してくれた。
しばらく美鬼にも慎二にもあっていなかったから、俺は村に帰ることにする。
* * *
「へっ、『喧嘩屋』様が帰ってきたぜ。」
見張りの男が、皮肉ったらしく俺を歓迎する。
『喧嘩屋』
得美士の一件以来、俺についたあだ名だ。
「おお、帰ったか慎二郎。」
オヤッサンだ。森で孫の槍馬に稽古を付けていたらしい。
右手で刀を担ぎ、左手には萎びた愛孫を乗せている。
「ウチに来い。ご馳走してやる。」
俺はオヤッサンに極東であったことを話す。
「そうか……また契約者が増えたのか。だがお前さんが気に止むことは無い。」
俺はオヤッサンに質問した。
「俺はどうすれば良いですか? どうすれば、子供達が笑って暮らせる世界を……」
オヤッサンは首を振った。
「お前は、自分の息子を守ってやれ。それだけで良い。」
「本当にそれで良いのでしょうか? 」
俺は踏ん切りがつかなかった。
オヤッサンは悩む俺を見て、急に笑い出した。
「そういう割り切れないところも、お前さんの良いところだ。」
オヤッサンは俺の肩をポンポンと叩く。
「なーに。なら抗って見れば良いじゃ無いか。お前には二本の腕がある。その腕で掴めるもんを掴めるだけ掴めば良い。」
「俺は…俺はまた村人たちを巻き込むかも知れない。」
「ならまた救えば良い。お前なら出来るだろ? なぁ。」
「払暁の勇者さんよ。」
そうだ、俺は英雄。全て守ってみせる。極東を、子供達を……
坂田の屋敷を後にして、家に戻ってきた俺を最初に迎えたのは美鬼だった。
「慎二郎!! 」
「苦しいよ美鬼。」
「バカ!! 一か月も家を空けて。文の一つぐらいよこしてくれても良いだろう。」
「お父さん!! 」
六歳になった我が子が、俺の足に抱きついてきた。
「ねえ父さん父さん。僕にも槍馬と同じように稽古を付けてよ。」
稽古……
「そうだ……久しぶりだし、お父さんと山菜狩りに行こうか。」
そこで美鬼が横槍を入れた。
「そんなんだから慎二は虐められるんだぞ。」
「この子が、ごく普通の子供だったとしてもか? 」
「慎二郎ッ!! 」
俺の眼球が美鬼が手を振りかざしてから、左頬を叩いてから、視界が五十度回転するところまでを捉えた。
「……慎二と散歩に出掛けてくる。」
「ねぇお父さん。なんでお母さんは泣いているの? 」
「きっと玉ねぎのせいだよ。散歩に出かけよう。帰ってきたら……きっと、いつものお母さんに戻っているから。」
「うん、分かった。行こう!! お父さん。」
久しぶりに俺は、家の裏の雑木林に入った。
慎二とは、春に筍取り、夏は虫取り、秋はキノコ、冬は木の芽を探しに出掛けた事がある。
我が子は、俺の前に仁王立ちすると、高らかにこう宣言した。
「僕はね!! 大きくなったら。父さんにみたいに強くなって。みんなを守るんだ。」
「……」
「とても素敵な夢だな。」
俺が気難しい顔をしていると、我が子はムスッと膨れた。
「信じて無いでしょ。」
俺は慌てて手を振る。
「そんなこと無いよ。慎二ならきっとなれる。」
「えへへ。ありがとう。お父さん大好き。」
俺たちは美鬼のために木の実を積んで帰った。
極東新病院から抜け出し、捜査のために立ち入り禁止区域に指定されていた我が家をじっと見ていたところを大番役に発見されたのだ。
「帰って…下さい。」
額に花瓶が飛んできて、視界が赤く染まる。
「貴方が力を極東に譲渡していなかったら……」
「私もお母さんも幸せに暮らせたの。」
そうだ俺のせいだ。全ての始まりは……そして、この事件が公になれば、少年兵はさらに増えるだろう。
俺はこういう時、何で言えば良いのか分からなかった。
「すまなかった。許してくれ。」
そんなことは誰でも言えるのである。ただ、俺が今、頭を下げたところで、この子の日常は変わらない。
「もう帰って!! 」
そうだ、帰ろう。
坂上は俺に気を遣ってくれたのか、ギャング殲滅作戦から、俺の名前を除外してくれた。
しばらく美鬼にも慎二にもあっていなかったから、俺は村に帰ることにする。
* * *
「へっ、『喧嘩屋』様が帰ってきたぜ。」
見張りの男が、皮肉ったらしく俺を歓迎する。
『喧嘩屋』
得美士の一件以来、俺についたあだ名だ。
「おお、帰ったか慎二郎。」
オヤッサンだ。森で孫の槍馬に稽古を付けていたらしい。
右手で刀を担ぎ、左手には萎びた愛孫を乗せている。
「ウチに来い。ご馳走してやる。」
俺はオヤッサンに極東であったことを話す。
「そうか……また契約者が増えたのか。だがお前さんが気に止むことは無い。」
俺はオヤッサンに質問した。
「俺はどうすれば良いですか? どうすれば、子供達が笑って暮らせる世界を……」
オヤッサンは首を振った。
「お前は、自分の息子を守ってやれ。それだけで良い。」
「本当にそれで良いのでしょうか? 」
俺は踏ん切りがつかなかった。
オヤッサンは悩む俺を見て、急に笑い出した。
「そういう割り切れないところも、お前さんの良いところだ。」
オヤッサンは俺の肩をポンポンと叩く。
「なーに。なら抗って見れば良いじゃ無いか。お前には二本の腕がある。その腕で掴めるもんを掴めるだけ掴めば良い。」
「俺は…俺はまた村人たちを巻き込むかも知れない。」
「ならまた救えば良い。お前なら出来るだろ? なぁ。」
「払暁の勇者さんよ。」
そうだ、俺は英雄。全て守ってみせる。極東を、子供達を……
坂田の屋敷を後にして、家に戻ってきた俺を最初に迎えたのは美鬼だった。
「慎二郎!! 」
「苦しいよ美鬼。」
「バカ!! 一か月も家を空けて。文の一つぐらいよこしてくれても良いだろう。」
「お父さん!! 」
六歳になった我が子が、俺の足に抱きついてきた。
「ねえ父さん父さん。僕にも槍馬と同じように稽古を付けてよ。」
稽古……
「そうだ……久しぶりだし、お父さんと山菜狩りに行こうか。」
そこで美鬼が横槍を入れた。
「そんなんだから慎二は虐められるんだぞ。」
「この子が、ごく普通の子供だったとしてもか? 」
「慎二郎ッ!! 」
俺の眼球が美鬼が手を振りかざしてから、左頬を叩いてから、視界が五十度回転するところまでを捉えた。
「……慎二と散歩に出掛けてくる。」
「ねぇお父さん。なんでお母さんは泣いているの? 」
「きっと玉ねぎのせいだよ。散歩に出かけよう。帰ってきたら……きっと、いつものお母さんに戻っているから。」
「うん、分かった。行こう!! お父さん。」
久しぶりに俺は、家の裏の雑木林に入った。
慎二とは、春に筍取り、夏は虫取り、秋はキノコ、冬は木の芽を探しに出掛けた事がある。
我が子は、俺の前に仁王立ちすると、高らかにこう宣言した。
「僕はね!! 大きくなったら。父さんにみたいに強くなって。みんなを守るんだ。」
「……」
「とても素敵な夢だな。」
俺が気難しい顔をしていると、我が子はムスッと膨れた。
「信じて無いでしょ。」
俺は慌てて手を振る。
「そんなこと無いよ。慎二ならきっとなれる。」
「えへへ。ありがとう。お父さん大好き。」
俺たちは美鬼のために木の実を積んで帰った。
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