神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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英雄≠父親

子供たち

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「さて、帰るか。」
 誰に言ったわけでも無い。
---うん、帰ろう慎二郎---
 凛月だ。
「帰りの船は来ているか? 」
---勿論だよ。南南東、一万五千キロほど---
「遠いな。」
---掴まって!! ---
「オイ、まざかお前!! 」
 コイルが軋む音、凛月のチャクラムに電気が充填され始める。
---三・二・壱---
---ゴー ---
 視野が一気に狭くなる。耳を轟音が支配する。風に叩きつけられて、息をするのも難しい。目を開けていられない。
---慎二郎!! 目を瞑っちゃダメ。五秒後に港に着くよ。着地の準備をして---
「オイ、着地の準備って? 」
 俺は磁界の向きを変えて、最大まで負荷をかけると、後は自分の鍛えた両足で思いっきり踏ん張った。
 地面に亀裂が入る。
 その衝撃で輸送艦が揺れ、中から悲鳴が聞こえた。
 慌てて一人の極東軍が出て来る。
「コレはコレは慎二郎様。帰りの準備は出来ております。さぁさぁ中へ。」
「すまない。驚かせるつもりは無かったんだ。ただ、人を待たせるわけには行かなかったし。」
 俺は船内の兵たちにペコペコしながら個室へと入った。
「オイ、凛月!! 」
---なーに? 慎二郎? ---
「ああいうのは緊急事態以外禁止だ。全く、俺が恥をかいたじゃないか。隊長の俺がぁ。」
---でーも、楽しかったでしょ? ---
「いや全然。」
 そんな感じで輸送艦は極東についた。
 俺が最初に向かったのは悲田院だ。
「亀田。子供たちの調子はどうだ? 」
 悲田院は俺が買い取った。
 俺は研究者たちを全て解雇すると、彼等に生きる術を教えるべく、学校へと立て替えたのだ。
 というのも、ことの始まりは、灰弩の言葉だった。
      * * *
「慎二郎、お腹空すいた。」
 彼女はそうやって俺の袖を引っ張ってくるのだ。
 彼女たちに任務の報酬が支払われていないわけではない。
 ただ、その報酬の使い方が分からないのだ。
「あそこの肉饅頭はお前の銅貨五つで買える。そこの串肉は銀貨一枚で。」
 灰弩は銅貨を覗くようにじっと見た。
「コレを店員さんに渡せば良いのね。」
 と、隣で琵琶が腕を回していた。
「んなもんいらねえよ。俺が能力で……」
「コラッ。」
 俺は琵琶の奥襟を掴んだ。
「おい慎二郎!! 離せよ。」
 馬田と霧島がそこにやってくる。
「俺が、食いもんの貰い方を教えてやるよ。」
「私と一緒に買い物しよう。奏助。」
「ったく。なんだよ買い物ってよ。」
"この子たちが社会で暮らしていくためにも、一般教養だけは身に付けさせないといけない。"
        ・
        ・
        ・
「みんな元気ですよ。どうですか? 隊長も彼等に顔を見せてあげては。」
「俺にそんな権利なんてないよ。お前は……ここに来た子供たちを良くしてやってくれ。」
「隊長……」
「俺はもう行くぞ。次の任務があるからな。」




「やーい鬼の子!! 」
 二、三の童が、角の生えた子供へと石を投げる。
「わーん。」
 角の生えた子供は、口を大きく開けて大声で泣き始めた。
「ヤバい、祟りが来るぞ。みんな逃げろ。」
「コラァー」
 そこに同年代ぐらいの帯刀した子供が拳を振り上げ、走って来た。
「大丈夫か? 慎二? 」
「ッへん。槍馬ぁ。」
 
 遠くからそれを眺めていたお鶴はそれを見てため息をついた。
「アンタんとこの子。大丈夫? アレでやっていけるかしら? 」
 美鬼は微笑む。
「アレで良いんだ。慎二郎も言っていた。慎二は優しい人間に育ってほしいと。」
 角の生えた子供は、母親に抱きつくと、彼女に問うた。
「お母さん。お父さんはどこ? 」
「仕事だ。慎二たちが安心して暮らせるように、都で頑張っているんだよ。」
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