神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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役者は揃った

敵襲

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「まざかお鶴さんと出産時期が重なるなんてね。」
 私は妊娠してからすぐに気分が悪くなり、時々憂鬱な気分になることも多かった。
 しかしお鶴さんは、剣城の子供を妊娠しても、全くその素振りは見せなかった。
 ので私も彼女が妊娠しているということには気づかず、三ヶ月前にお腹が大きくなっていることに気づいたぐらいだ。
 弓館さんは、孫が生まれるということに泣いて驚き、私とお鶴さんのお腹に耳を当てたり、囁いたりしては、その度にお腹のわんぱく小僧に蹴飛ばされていたのである。
 つい数時間前、私の陣痛は、お鶴さんの陣痛を追うように起こり、産婆さんを困惑させた。
 そうして無事、私たちは元気な赤ちゃんを産んだのである。
 私たちが産声をあげる赤子を怪していると、大きくて、丈夫なてが赤子たちに伸びていき
「おじいちゃんでちゅよ~」
 と彼らを抱き抱える。
「弓館さん。首が据わっていない間は、気をつけて扱って下さい。貴方みたいに強く無いんですから。」
「何を言う!! 坂田家の男児たるもの、これぐらいで逝っちまうほどやわでは無いわ!! 」
「「ギャー👶」」
 彼の癇癪に、赤子たちがびっくりして泣き出してしまった。やれやれ先が思いやられる。
 私たちは、赤子たちを安心させるために抱き上げる。
 落ち着いた赤子たちは、弓館の指を握り始めた。
 賢い子たちだ。もうおじいちゃんの顔を覚えたらしい。
「敵襲!! 敵襲!! 」
 高台のベルが鳴る。見張りが闖入者を見つけた合図だ。
「なぜ今。」
 その通りだ。今は慎二郎も剣城も出払っている。
 私が……村を守らなくては……
「美鬼さん無理しないで。」
 励ましてくれたお鶴さんの横では……
 弓館さんが形相を変えて立ち上がっていた。
「あのバカどもに、自分がどんな過ちを犯したか教えて来てやる。」
「拳こそ世界共通言語。暴力こそ最高の学習法。」
 彼はポキポキと指を鳴らすと、瞬きした次の瞬間には、垣根を突き破り、火の手の方へ走り去ってしまった。


 賊のリーダーは、村の入口の前に立つと、高々と宣言する。
「我らは得美土!! 得美士様の意思を継ぐものだ!! 払暁の勇者を出せ!! さもなくば、この村を燃やし尽くすのみ。」
 その問いに門番が答える。
「彼は今出払っている。この村は無関係だ。彼に用があるなら、直接開いに行ってはくれないか?? 」
 リーダーは部下たちに問うた。
「なぁお前らどうする?? 」
「別に襲わない理由は無いよな。」
「なぁ兄ちゃんよ。シカトしとけば、この村も助かったんじゃねえの?? まぁどっちにしろだよなぁ。」
「なぁリーダー? この村を襲ってメチャクチャにして、女も子供も掻っ攫って、女犯しながら、ヤツが帰ってくるのを待とうぜ。アイツ?? どんな顔すっかな?? 頭の血管吹っ切れて死んじまうかもしれねえぞ。」
 リーダーは指を鳴らす。
「良いねぇ。その案。THE俺たちって感じ。」
 彼は向き返る。
「ってことでよ。」

      「死ねよ。」

 彼のたった三文字の言葉が、門番の額を打ち抜いた。
「ビンゴー」
「さすが、元武士ってだけはあるな。」
「フン、弓なら俺の方が上手い。今に見てろ。次は、あそこで震えている男の目ん玉だ。」
 果たして、この俗物たちは人間であろうか? そうだコレが人間だ。
 この猿たちも、四十八本の染色体を持ち、赤い血を流し、愚かにも二本足で歩き、言葉という名の鳴き声を放っている。
 放たれた矢は、男性向けて飛んでいくと、彼に当たる寸前で姿を消した。
「おい、外してんぞ。」
「ダッサ。当たりもしてねえじゃん。」
 二者が、弓矢を打った本人に振り向くと、脳天を矢にぶち抜かれて立ったまま死んでいた。
「「うわわわぁ。」」
 さっきまで生きていた人間が、立ったまま至近距離で死んでいる。
 そんな新鮮な経験をした彼らは、思わず声を上げた。
「おい、お前らに一つ忠告しといてやる。」

「山賊なんなら、他人の力量ぐらいは測れるようになっておけ。」

 賊の一人が声を上げる。
「俺、コイツを知っている。豪傑の弓館だ!! 」
「何?」
「弓館だと?」
「あの坂田家の?」
「バケモノ狩り回っている精神異常者たちじゃねえか。」
 リーダーが叫んだ。
「狼狽えるな!! たかが人間一人。囲んで殴れ。武士の背中に傷をつけてやれ。」
 弓館はというと。
「フン、ザコどもが。お前らに力とは何か教えてやる。」



「お鶴さん。逃げないと。」
「ほえたな!! 」
 お鶴さんが私の口に人差し指を当てる。
「おっ女じゃねえか。」
 私たちの小屋にも族がやってきた。
「別嬪が一匹…別嬪が二匹……」
「って子持ちかよ。俺の趣味に合わんわ。」
 お鶴さんが彼らを睨みつける。
 彼らは、その鋭い眼差しに思わず後ずさった。
「舐めんなよコノアマァ!! 」
 彼女はなお彼らを高圧的な態度で見下した。
「女だったら勝てるだろうと思っているんだろう? 情けない男たちだ。」
 そういうと、お鶴さんは近くにあったお湯の桶を彼らにぶつけた。
「アツアツ!! アツい!! 」
 彼女は、私に赤子を預けると、壁にかけてあった薙刀を振るった。

「坂田鶴参る。」
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