神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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 ホントの始まり

良心欠落者

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 うう……寝違えたか??
 首筋が痛い。
 寝返りを打とうとした私は、右手が引っかかったことに不快感を覚えた。
 それだけでない。
 四肢が冷たい何かで……
「はっ!! 何これ!! 」
 私はベットの上で鎖に繋がれていた。
「おはよう。伊那目ちゃん。」
 最古倫春だ!! くそ!! 油断していた。
 私は錯綜する頭の中で、出来るだけ多くの情報を得ようと眼を凝らした。
 昨日の四人が鎖に吊るされている。
 花音だけが一人、立ち尽くし、吊るされている彼らを見ている。
「……たうけえ。」
「このキ0ガイめ!! 」
「……」
「………何をする気だ。」
 四人は必死に身体を動かし、助けを求めていた。
「……子供たち……かわいそうな子供たち……」
「僕が……私が……すぐに良くしてあげるからねェェェェェェ。」
 狂っている。だが、気が触れているわけではないようである。
 なぜなら
  最古倫春からは悪意の一つも感じられないからである。
 研究者特有のモルモットを痛ぶるような残虐性も、虫を潰すような子供の好奇心も彼からは感じられなかった。
 彼にただ一つ存在する感情は……

       愛

 それだけである。
 私は身体を必死に動かし、花音を睨みつけた。
「花音!! アナタ契約者でしょ!! 奏助たちを助けて!! 」
 その問いに答えたのは、花音ではなく最古だった。
「ほう……なぜそれを知っている。」
 マズイ!!
 最古は私の目を覗き込んだ。
「どうやら君の『眼』は視覚よりもより多くの情報を可視化できるみたいだ。」
「なぜ…黙っていたんだい? 恩人の私に能力を隠していたなんて……なぜなぜなぜ? 私を疑っていたのかい? 私はこんなにキミを愛しているというのにぃぃぃぃぃぃぃ。」
 私は彼の顔に唾を吐いた。
「近づくなケダモノ!! オマエのそれは愛でもなんでもない。ただの良心欠落者だ!! 」
 彼は良心欠落者などではない。
 なぜなら、今も彼の心の中は慈愛に満ちていたのだから。
「……僕のこと……信用してくれないのかい? 悲しいな。」
 私は鎖に縛られた右手を花音に伸ばした。
「花音!! 四人を助けて!! このままじゃみんな死んじゃうかもしれない。」
 彼女は首を振る。
「嫌だよ……」
 私は彼女を安心させようと必死だった。
「大丈夫。私がついているから。」
「嫌っ。」
 彼女は最古の後ろに隠れた。
「倫春さんは、苦しむ私を救ってくれたの……だから……そう。この子達も救ってくれるはず。」
 最古は憂いを帯びた瞳を私に向ける。
「良心が欠落しているのは君の方じゃないのか?? 私はただ、子供たちを救おうとしているだけなんだ。この子 花音と同じように。君も、君も目が見えるようにしてあげた。」
「村の人たちを皆殺しにしたオマエらだけには言われなくない!! 」
「君はどうなんだい?? 」
「君に良心はあるかい?? 」
「白兎教の御神体となって、毎日人を救うフリをして、心の奥底では笑っていたんだろう?? 哀れな彼らを……」
 私に伸びてくる手がフラッシュバックする。
「一緒にしないで。あんなの……耐えられるのはアンタみたいなサイコパスだけよ。」
「悲しいな……」
 最古は彼らに振り返った。
「さぁ。始めようか……キミもそこで見ていたまえ。神に見捨てられた哀れな子供たちが、私の手によって救われるのを!! 」
 彼は、装置の前へ戻り、最後の赤いボタンを押した。
「血 ワイン 身体 パン 救済 不可避 贖罪 代償 束縛 解放 魂 永遠 そう!! 永遠だ。」
「「「ぐあぁぁぁぁぁぁ。」」」
 鎖に繋がれた彼らに電撃が流れる。
「やめてぇぇぇぇぇぇ。」
 

contract: completed

keyhole: hearing/brain/temperature/frame

ability:  noise/brainwashing/heat/frame

success
success
success
success
success
success
 ・
 ・
    ・
ALL CLEAR




「やった…やったぞ。成功だ!! おめでとう。君たちも今日から契約者だ。」
 最古の不気味な笑い声だけが、いつまでも響き渡っていた。
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