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ホントの始まり
楽しいピクニックだよ
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私たちは、最古に連れられて比叡山へ遠足に行くことになった。
私は眼の力を使い、最古の心を見た。どうやら、私達に何かしようとしているわけではなく、純粋に子供たちとピクニックを楽しみたい。それだけらしい。
彼からは、他の研究者から感じる悪意を一つも感じられない。
「おあえ、なあえあなんえゆうの? 」
朝連れてこられた耳の聞こえない男の子だ。
私は彼に悪意がないことを確認すると、リュックから木簡を取り出して、筆を書く。
『霧島伊那目』
「へぇ。きいしまいあえっていうのあ。」
(へぇ。きりしまいなめっていうのか。)
「おえのなあえあびあそうすえ。」
(おれのなまえはびわそうすけ。)
なるほど、彼は琵琶奏助というらしい。
「おあえ、おえのことあをりあいしえくえうんだあ。」
(おまえ、おれのことばをりかいしてくれるんだな。)
耳が聞こえないせいであろうか。発音がメチャクチャだ。だが、相当努力したのであろう。
耳が聞こえない。すなわちインプットが出来ないということは、アウトプットするのも難しくなる。
私は再び木簡を取り出すと、また筆に墨をつけ、スラスラと文字を書いた。
『言葉にしなくて良い。私には全部通じるから。』
すると琵琶は驚いた。
「すええなおあえ。」
(すげえなおまえ。)
「バタン。」
隣で何かが倒れる音がした。
振り返ると、二人の男の子が倒れていた。
脳を損傷した子と、骨が無い子だ。
あたりを見回す。
朝の二人が目につき、私は彼らを呼んだ。
上着を着た少年と、契約の完了した女の子。それぞれが、倒れた二人を支える。
異変に気づいた琵琶も手を貸してくれる。
私たちは六人で寺の御堂に着いた。
他の子供たちは、もう先に到着しており、枝でチャンパラをしたり、おむすびを頬張ったりしている。
私たちは、六人、輪になって座ると、杖をついていたこの方が、先に私達に礼を言ってきた。
「すまない。事故以来、左足首が動かなくなってしまってな。」
とても子供とは思えないような口調。……私が言えたことでは無い。
が、他の子達も唖然としていた。
「おえのなあえあびあそうすえ。よおしうあ。」
「俺の名前は琵琶奏助。よろしくな。」
私は奏助の言葉をそのまま通訳する。
「俺は馬田海という。摂津から来た。」
と杖突きの男の子。
上着を着ていた子は熱海淳といい、骨の無い子は骨元梵助。
そして
「花音は灰弩花音。よろしく。」
彼女は自分の名前だけを言って、また黙り込んでしまった。
その沈黙の中で、琵琶だけが馬田に絡んでいる。
私は馬田に木簡を渡す。
といっても、馬田には彼の言葉なんて理解できないだろうが……
え?
彼は木簡に文字を書き、琵琶と意思疎通していた。
「おまえの言葉は子音が無い。故に分かりにくいんだ。」
子音だけでもおおよそ九種類ある。琵琶の言葉を全て脳内で書き写し、意味が通じるように子音を当てはめたというのか……
とても四歳とは思えない言動であったが、彼は天才だ。
日暮が鳴き始め、お寺参りを終えた私達は、帰路に就き始めた。
帰りは、琵琶が馬田の面倒を見ていたため、私は花音と一緒に骨元を支えた。
熱海は相変わらず何も言わない。
帰路に着いた私は、風呂に入ると、そのまま布団に潜りんでしまった。
が、ふと気になることがあり、馬田のいる部屋に行く。
「空いている。」
彼にはできる限りの情報を提供しておきたい。私が目になり、彼が頭脳になる。そうすれば「少しでもここに来た子供たちを救えるのでは無いか。」と思ったからである。
彼は事情をすんなり受け止めた。元々、ここに来た頃から悲田院を疑っていたのは分かっていた。
私は壁を透視し、巡回がいないことを確認してから自分の部屋に戻り、床に就いた。
私は眼の力を使い、最古の心を見た。どうやら、私達に何かしようとしているわけではなく、純粋に子供たちとピクニックを楽しみたい。それだけらしい。
彼からは、他の研究者から感じる悪意を一つも感じられない。
「おあえ、なあえあなんえゆうの? 」
朝連れてこられた耳の聞こえない男の子だ。
私は彼に悪意がないことを確認すると、リュックから木簡を取り出して、筆を書く。
『霧島伊那目』
「へぇ。きいしまいあえっていうのあ。」
(へぇ。きりしまいなめっていうのか。)
「おえのなあえあびあそうすえ。」
(おれのなまえはびわそうすけ。)
なるほど、彼は琵琶奏助というらしい。
「おあえ、おえのことあをりあいしえくえうんだあ。」
(おまえ、おれのことばをりかいしてくれるんだな。)
耳が聞こえないせいであろうか。発音がメチャクチャだ。だが、相当努力したのであろう。
耳が聞こえない。すなわちインプットが出来ないということは、アウトプットするのも難しくなる。
私は再び木簡を取り出すと、また筆に墨をつけ、スラスラと文字を書いた。
『言葉にしなくて良い。私には全部通じるから。』
すると琵琶は驚いた。
「すええなおあえ。」
(すげえなおまえ。)
「バタン。」
隣で何かが倒れる音がした。
振り返ると、二人の男の子が倒れていた。
脳を損傷した子と、骨が無い子だ。
あたりを見回す。
朝の二人が目につき、私は彼らを呼んだ。
上着を着た少年と、契約の完了した女の子。それぞれが、倒れた二人を支える。
異変に気づいた琵琶も手を貸してくれる。
私たちは六人で寺の御堂に着いた。
他の子供たちは、もう先に到着しており、枝でチャンパラをしたり、おむすびを頬張ったりしている。
私たちは、六人、輪になって座ると、杖をついていたこの方が、先に私達に礼を言ってきた。
「すまない。事故以来、左足首が動かなくなってしまってな。」
とても子供とは思えないような口調。……私が言えたことでは無い。
が、他の子達も唖然としていた。
「おえのなあえあびあそうすえ。よおしうあ。」
「俺の名前は琵琶奏助。よろしくな。」
私は奏助の言葉をそのまま通訳する。
「俺は馬田海という。摂津から来た。」
と杖突きの男の子。
上着を着ていた子は熱海淳といい、骨の無い子は骨元梵助。
そして
「花音は灰弩花音。よろしく。」
彼女は自分の名前だけを言って、また黙り込んでしまった。
その沈黙の中で、琵琶だけが馬田に絡んでいる。
私は馬田に木簡を渡す。
といっても、馬田には彼の言葉なんて理解できないだろうが……
え?
彼は木簡に文字を書き、琵琶と意思疎通していた。
「おまえの言葉は子音が無い。故に分かりにくいんだ。」
子音だけでもおおよそ九種類ある。琵琶の言葉を全て脳内で書き写し、意味が通じるように子音を当てはめたというのか……
とても四歳とは思えない言動であったが、彼は天才だ。
日暮が鳴き始め、お寺参りを終えた私達は、帰路に就き始めた。
帰りは、琵琶が馬田の面倒を見ていたため、私は花音と一緒に骨元を支えた。
熱海は相変わらず何も言わない。
帰路に着いた私は、風呂に入ると、そのまま布団に潜りんでしまった。
が、ふと気になることがあり、馬田のいる部屋に行く。
「空いている。」
彼にはできる限りの情報を提供しておきたい。私が目になり、彼が頭脳になる。そうすれば「少しでもここに来た子供たちを救えるのでは無いか。」と思ったからである。
彼は事情をすんなり受け止めた。元々、ここに来た頃から悲田院を疑っていたのは分かっていた。
私は壁を透視し、巡回がいないことを確認してから自分の部屋に戻り、床に就いた。
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