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ホントの始まり
契約者
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技を終えた俺が、荒野に足をつけると、何者かが拍手をしながらこちらに歩いてくる。
「おめでとう。君も晴れて契約者だ。桐生慎二郎。」
坂上頼次。やはりこの男が一枚噛んでいたか。
「なんだ? この武器は? コレではまるで……」
「逆に君はなんだと思う? 」
もう答えは出ている。極東の発展のために俺が天に献上した力の一つ。
「どうだ? 心持ちか前より表情が豊かになったな。」
「まぁそれもそうだ。意思共有でアップデートした偽物の感情ではなく、今の君には本当の感情がある。」
そんなことよりも。
「あ、剣城君か。安心しろ。君のくれたデータなら、こんな傷簡単に治せる。救急班はすでに呼んであるよ。」
「君に見せたいものがある。」
そう言われて、俺は坂上について行き、彼の船に同乗すると、極東まで帰ってきた。
内裏の極長院の極長室。
「何も無いようだが……見せたいものというのはなんだ? 年代物のワインでも開けてくれるのか? 」
坂上が極長室の床を蹴飛ばすと、隠し階段が出てきた。
「ついてこい。」
彼にそう言われて、俺も、階段に一歩踏み出した。
俺たちは、四角形のかね折れ階段を降る。五分もしたのち、地下から淡い光が漏れていることを確認した俺は、踊り場から身を乗り出し、その光を凝視した。
「もうすぐだ。」
坂上が手招く。
俺は彼の背中を追いかける。
三分もしたのち、最深部にたどり着いた俺は、培養液の中の人間を見た。
「彼は七宝刃。極東が創り出したデザイナーズチャイルド第一号だ。」
俺は培養液の中の人間が、何かの破片を握っていることに気付く。
「叢雲!! 」
俺は坂上の胸ぐらを掴んだ。
「お前!! 生身の人間に叢雲を契約させたのか? 」
彼は手で俺を振り払う。
「極東にとどめておくには、こうするしかなかった。そうで無いと、叢雲はあるべき場所に帰り、極東の勝利も絶望的になる。」
俺は培養液のカプセルに近づき、手をかざした。
「なら、俺が代わりに再契約する。」
が、不思議な力に弾かれた。
---エラー エラー 識別不能---
「『力を取り戻せなかった』が五割、『自責の念』が五割ってところか。」
俺はもう我慢できなかった。
「坂上!! 貴様ぁ!! 」
俺は坂上を殴り飛ばす。
「落ち着きたまえ。君に来てもらったのは、君にこの男の延命処置をしてもらうためだ。」
延命処置? 冗談じゃない。この男をまだ苦しめろと言うのか?
俺の刀の力で苦しんでいる彼を……
「君に拒否権は無い。」
「だって君はすでに契約したじゃ無いか……」
「私の作ったシステム。契約者システムと。」
俺はなんのことかサッパリ分からなかった。
「ようこそ十三小隊に。」
ここは山城国悲田院。四天王寺に天様のおじさまがお造りになった孤児院を天様が真似て五条に作られたものだ。
ここには、貧しい身分の子供や孤児だけでなく、さまざまな欠陥を持つ子供の治療まで行われていた。
だがそれは建前だ。
ここは、存在価値の低い命を集め、研究者たちの探究心を満たすために作られた強制収容所だ。
「さぁ、伊那目ちゃん。お注射の時間だよ。」
文字通り、腹の底が透けて見える。視力を回復させた私を再び失明させて、そのデータを取る気だ。
こんなことなら、契約者になんかなるんじゃなかった。
私は能力の本質を彼らに悟られるわけには行かないので、気づかないふりをし、無邪気な笑顔で注射器を受け入れた。
「針なしの注射器だから痛くない。大丈夫だからね。」
この後に及んで気持ち悪い。この男は腹の底ではどんな残酷なことを考えていようと、あくまでも人畜無害な人相でこちらに迫ってきている。
その腹黒さと、優しさとの齟齬が私にさらなる恐怖を植え付けた。
アクアポリン式注射器。
今の私には針も加圧式の注射器も通らない。 無理矢理身体の中に押し込むつもりなのだ。
私は白くなる視界の中で、研究者たちの本心を最後まで見ていた。
「おめでとう。君も晴れて契約者だ。桐生慎二郎。」
坂上頼次。やはりこの男が一枚噛んでいたか。
「なんだ? この武器は? コレではまるで……」
「逆に君はなんだと思う? 」
もう答えは出ている。極東の発展のために俺が天に献上した力の一つ。
「どうだ? 心持ちか前より表情が豊かになったな。」
「まぁそれもそうだ。意思共有でアップデートした偽物の感情ではなく、今の君には本当の感情がある。」
そんなことよりも。
「あ、剣城君か。安心しろ。君のくれたデータなら、こんな傷簡単に治せる。救急班はすでに呼んであるよ。」
「君に見せたいものがある。」
そう言われて、俺は坂上について行き、彼の船に同乗すると、極東まで帰ってきた。
内裏の極長院の極長室。
「何も無いようだが……見せたいものというのはなんだ? 年代物のワインでも開けてくれるのか? 」
坂上が極長室の床を蹴飛ばすと、隠し階段が出てきた。
「ついてこい。」
彼にそう言われて、俺も、階段に一歩踏み出した。
俺たちは、四角形のかね折れ階段を降る。五分もしたのち、地下から淡い光が漏れていることを確認した俺は、踊り場から身を乗り出し、その光を凝視した。
「もうすぐだ。」
坂上が手招く。
俺は彼の背中を追いかける。
三分もしたのち、最深部にたどり着いた俺は、培養液の中の人間を見た。
「彼は七宝刃。極東が創り出したデザイナーズチャイルド第一号だ。」
俺は培養液の中の人間が、何かの破片を握っていることに気付く。
「叢雲!! 」
俺は坂上の胸ぐらを掴んだ。
「お前!! 生身の人間に叢雲を契約させたのか? 」
彼は手で俺を振り払う。
「極東にとどめておくには、こうするしかなかった。そうで無いと、叢雲はあるべき場所に帰り、極東の勝利も絶望的になる。」
俺は培養液のカプセルに近づき、手をかざした。
「なら、俺が代わりに再契約する。」
が、不思議な力に弾かれた。
---エラー エラー 識別不能---
「『力を取り戻せなかった』が五割、『自責の念』が五割ってところか。」
俺はもう我慢できなかった。
「坂上!! 貴様ぁ!! 」
俺は坂上を殴り飛ばす。
「落ち着きたまえ。君に来てもらったのは、君にこの男の延命処置をしてもらうためだ。」
延命処置? 冗談じゃない。この男をまだ苦しめろと言うのか?
俺の刀の力で苦しんでいる彼を……
「君に拒否権は無い。」
「だって君はすでに契約したじゃ無いか……」
「私の作ったシステム。契約者システムと。」
俺はなんのことかサッパリ分からなかった。
「ようこそ十三小隊に。」
ここは山城国悲田院。四天王寺に天様のおじさまがお造りになった孤児院を天様が真似て五条に作られたものだ。
ここには、貧しい身分の子供や孤児だけでなく、さまざまな欠陥を持つ子供の治療まで行われていた。
だがそれは建前だ。
ここは、存在価値の低い命を集め、研究者たちの探究心を満たすために作られた強制収容所だ。
「さぁ、伊那目ちゃん。お注射の時間だよ。」
文字通り、腹の底が透けて見える。視力を回復させた私を再び失明させて、そのデータを取る気だ。
こんなことなら、契約者になんかなるんじゃなかった。
私は能力の本質を彼らに悟られるわけには行かないので、気づかないふりをし、無邪気な笑顔で注射器を受け入れた。
「針なしの注射器だから痛くない。大丈夫だからね。」
この後に及んで気持ち悪い。この男は腹の底ではどんな残酷なことを考えていようと、あくまでも人畜無害な人相でこちらに迫ってきている。
その腹黒さと、優しさとの齟齬が私にさらなる恐怖を植え付けた。
アクアポリン式注射器。
今の私には針も加圧式の注射器も通らない。 無理矢理身体の中に押し込むつもりなのだ。
私は白くなる視界の中で、研究者たちの本心を最後まで見ていた。
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