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ホントの始まり
叛逆の狼煙
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乱れた呼吸を整える。全身の筋肉が悲鳴を上げている。特に腓腹筋が酷い。ゴムバンドで脹脛を強く縛られたような、そんな痛みだ。
喉が熱い。それに乾燥しているようだ。鼓膜がおかしい。耳が痛い。
倒れてはいけない。この前それをやって、立ち上がるのにかなりの力を使ったのだから。
そんなこちらの状況はお構いなしに、目の前の巨漢は、左ストレートを放ってきた。
満身創痍の両腕をクロスし、それを受け止める。
前傾姿勢、分力は全て足に送る。
身体を流れた拳の衝撃が、腓腹筋に伝い、さらなる危険信号を放つ。
吹き飛ばされそうになるが、なんとか堪える。
力を抜き、筋肉を収縮させる。
それをバネにして勢いよく飛び上がる。筋肉が軋んだ。
両足で、オヤッサンの右腕を執拗に狙った。が、彼の弾力の飛んだ筋肉に全て弾き返されてしまう。
反撃に彼から左のボディブローを受け、道場の端まで吹き飛ぶ。
「もう一度だ。」
誰よりも強くなりたいのに、身体がついていかない。
「今日はここまでだ。」
「でも。」
「努力をするということは、ただ闇雲に突き進むわけではない。お前は強くならなければならない。違うか? 」
「そうです。そのためにもー」
「違うッ。」
道場にオヤッサンの声が響く。
「手段と目的を混ぜるな。努力は強くなるための過程でしかない。」
「強くなるために休息を取れ。」
「…わかりました。」
俺は立ち上がり、裏庭で顔を洗うと、いつもの日課である薪を割る。
修行のお陰かどうか知らないが、あらゆるモノが軽くなった。
持ち上げるのに苦労していた斧も、この通りだ。
調子に乗った俺は、山積みにしてあった薪を中に放り投げると、
---大蛇滅殺斬---
左手で落ちてきた薪を受け止める。
「あら、元気がよろしいこと。」
お鶴さんだ。
彼女のお腹も、心持ちか少し大きくなっている。
恥ずかしくなった。死にたい。
「その様子だと、修行も順調そうね。早く戦場に出て夫を助けて貰わないと。」
「はい、おかげさまで。任せてください。」
俺はそそくさ家に戻り、釜を炊く。
野菜を切り、処理をした魚とともに煮込む。
「慎二~郎~悪いな体調が悪くて。」
お腹を大きくした美鬼がこちらにやって来た。
「むりをするな。今日はオヤッサンから魚をもらって来たからな。今日は風呂に入れ。ぬるめにしとくから。」
「良かった。」
美鬼が微笑む。
「何がだ? 」
俺は首を傾げる。
「なんでもない。」
能力者研究レポート。
先月の『英雄作成の実験』で使用したデザイナーズチャイルド七宝刃は、急激な老化が見られた。おそらく『叢雲の欠片』と契約した代償と考えられる。
似た症状として、グランディルの代行者、シド・ブレイクが挙げられる。
公にはなっていないが、隠密部隊達の調査によると、彼は急激に老化が進んでおり、とても二十代後半とは思えない身体になっているらしい。
おそらく、剣使用の代償として、生命力を取られているのであろう。
このままでは、生身の人間による能力の使用は難しい。
そこで、先月、先天性色素欠乏症の童に、叢雲の力の一部を与えたところ、彼女の視力が回復し、老化のような代償も見られなかった。
おそらく、人間の一部を代替する形で「契約」が成立したのだと考えられる。
以下、この方法で異能者となった者たちを契約者と呼ぶ。
よって桐生慎二郎から掻っ攫った三十五の力を極東の適合者たちに『鍵穴』として契約者を作成することが、次の研究目標となる。
プロジェクト名は
code:13
これが成功すれば、極東が発展するばかりでなく、グランディル軍に一石投じることができるであろう。
上様には、さらなる資金提供を願いたい。
・契約者確保のために、極東人を買い取るため。
・デザイナーズチャイルドの技能向上のため。
如件
極東最高司令官
坂上頼次
喉が熱い。それに乾燥しているようだ。鼓膜がおかしい。耳が痛い。
倒れてはいけない。この前それをやって、立ち上がるのにかなりの力を使ったのだから。
そんなこちらの状況はお構いなしに、目の前の巨漢は、左ストレートを放ってきた。
満身創痍の両腕をクロスし、それを受け止める。
前傾姿勢、分力は全て足に送る。
身体を流れた拳の衝撃が、腓腹筋に伝い、さらなる危険信号を放つ。
吹き飛ばされそうになるが、なんとか堪える。
力を抜き、筋肉を収縮させる。
それをバネにして勢いよく飛び上がる。筋肉が軋んだ。
両足で、オヤッサンの右腕を執拗に狙った。が、彼の弾力の飛んだ筋肉に全て弾き返されてしまう。
反撃に彼から左のボディブローを受け、道場の端まで吹き飛ぶ。
「もう一度だ。」
誰よりも強くなりたいのに、身体がついていかない。
「今日はここまでだ。」
「でも。」
「努力をするということは、ただ闇雲に突き進むわけではない。お前は強くならなければならない。違うか? 」
「そうです。そのためにもー」
「違うッ。」
道場にオヤッサンの声が響く。
「手段と目的を混ぜるな。努力は強くなるための過程でしかない。」
「強くなるために休息を取れ。」
「…わかりました。」
俺は立ち上がり、裏庭で顔を洗うと、いつもの日課である薪を割る。
修行のお陰かどうか知らないが、あらゆるモノが軽くなった。
持ち上げるのに苦労していた斧も、この通りだ。
調子に乗った俺は、山積みにしてあった薪を中に放り投げると、
---大蛇滅殺斬---
左手で落ちてきた薪を受け止める。
「あら、元気がよろしいこと。」
お鶴さんだ。
彼女のお腹も、心持ちか少し大きくなっている。
恥ずかしくなった。死にたい。
「その様子だと、修行も順調そうね。早く戦場に出て夫を助けて貰わないと。」
「はい、おかげさまで。任せてください。」
俺はそそくさ家に戻り、釜を炊く。
野菜を切り、処理をした魚とともに煮込む。
「慎二~郎~悪いな体調が悪くて。」
お腹を大きくした美鬼がこちらにやって来た。
「むりをするな。今日はオヤッサンから魚をもらって来たからな。今日は風呂に入れ。ぬるめにしとくから。」
「良かった。」
美鬼が微笑む。
「何がだ? 」
俺は首を傾げる。
「なんでもない。」
能力者研究レポート。
先月の『英雄作成の実験』で使用したデザイナーズチャイルド七宝刃は、急激な老化が見られた。おそらく『叢雲の欠片』と契約した代償と考えられる。
似た症状として、グランディルの代行者、シド・ブレイクが挙げられる。
公にはなっていないが、隠密部隊達の調査によると、彼は急激に老化が進んでおり、とても二十代後半とは思えない身体になっているらしい。
おそらく、剣使用の代償として、生命力を取られているのであろう。
このままでは、生身の人間による能力の使用は難しい。
そこで、先月、先天性色素欠乏症の童に、叢雲の力の一部を与えたところ、彼女の視力が回復し、老化のような代償も見られなかった。
おそらく、人間の一部を代替する形で「契約」が成立したのだと考えられる。
以下、この方法で異能者となった者たちを契約者と呼ぶ。
よって桐生慎二郎から掻っ攫った三十五の力を極東の適合者たちに『鍵穴』として契約者を作成することが、次の研究目標となる。
プロジェクト名は
code:13
これが成功すれば、極東が発展するばかりでなく、グランディル軍に一石投じることができるであろう。
上様には、さらなる資金提供を願いたい。
・契約者確保のために、極東人を買い取るため。
・デザイナーズチャイルドの技能向上のため。
如件
極東最高司令官
坂上頼次
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