神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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 ホントの始まり

無為徒食

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×月○日
 今日は、力を失った脱力感と使命を絶たれた虚無感に苛まれ、寝床から起き上がることができなかった。
 美鬼が俺を起こしにくる。どうやら村の復興を手伝ってほしいとのことらしい。
 とは言ったものの、今の俺には薪を割る斧を握る力すらない。そうだ。力を失った俺にそのような力など無い。俺は無力だ。

 ×月△日
 戦場の剣城から手紙が届いた。どうやら、グランディルの「七英雄」という聖たちに手を焼いているらしい。
 手紙は俺宛に書かれていた。
 なぜ美鬼ではなく俺なのであろうか。俺にはなんの力もない。鬼であり、能力者である美鬼なら、きっと剣城の力になれるであろう。
 なぜ、俺を求める。力のない俺を……
 得美士の気持ち、今なら少しわかる気がするのだ。奴は弱者の心を理解していなさすぎる。だから求められることへの恐怖などまるで無いのだ。俺は疲れた。求められることに、村では、俺を徒食者と罵る者まで現れた。
 先日の復興の件であろう。別に構わない。俺は見返りを求めて他人を助けていたわけではない。よく思えば、俺は村人たちに助けを求められていた訳ではない。そのままにしておけば良かったのかもしれない。
 いや、その時点で間違っていた。最初から極東などに肩入れしなければ良かったのだ。
 そうだ、俺は俺の使命に生き、使命に死んでいれば、こうして力を失うことなどなかった。 最初から間違えていた。世界を救えるなどという勘違いと、自惚れで。
 強力な力が有れば、全てを正しく導けると思っていた。
 強い正義感が有れば、どんな悪も正せると思っていた。
 英雄症候群も甚だしい。

 ×月◇日
 痺れを切らした極東から使者が送られてきた。
 状況は芳しくないらしい。
 「今すぐ戦場に戻れ。」とのことだ。もう良してくれ、辞めてくれ。俺は弱い。誰の力にもなれない。誰も救えない。ただの乞食だ。斧も握れないような寄生虫に何を求めているのだ。
 いやだ、帰れ、早く帰ってくれ。もう、懲り懲りだ。放っておいてくれ。これ以上俺を追い詰めないでくれ。非力な俺を頼らないでくれ。何も背負えない人間に重荷を乗せないでくれ。重くて潰れそうなのだ。いや、いっそう……

 ×月*日
 剣城の妻であるお鶴さんが、俺を訪ねて来た。美鬼についてのことで話があるらしい。
 元より話を聞くつもりなどなかった。どうせ俺に説教をするつもりなのだろう。俺は追い返そうとした。
 すると彼女は俺の胸ぐらを掴み、頬を何度もぶった。痛くはない、痛みなど無い。ただ視界がブレるのが鬱陶しかった。早く終わって欲しい。いや、早く終わらせてくれ。こんな地獄。
 そうだ俺の使命は
「責務を終えて。お前も死ね。」
 俺の使命はまだ終わっていなかった。
 そうだ、俺の最後の使命を全うしなければ、人類の未来のために、俺が死ぬことによってもう村人たちに迷惑をかけることもなくなる。
 こうして俺は英雄システムとしての責務をまっとうできるのだ。
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