神の壜ー零

ホントの始まり

へぇデートかよ。

　俺たちは、叢雲の能力抽出が終わるまでの間、二人の時間を楽しんだ。
　小豆をすり潰し、寒天で固めた少し弾力のあるお菓子、縁結びの効果がある七色の半透明な食べ物、広場で蹴鞠を一緒に見た後に、怪しげな路地裏でお揃いの指輪を買った。
　そして極め付けは……
　ウドンのしっぽ。
　極東人は、この辺りの川に生息する水牛の尻尾を食べるらしい。
　その事実を知った俺たちは二人して驚いた。
　しかし、出された料理を恐る恐る口に運ぶと……
　なるほど、どうやらこの水牛の尻尾は、甘い香辛料的な役割を果たしているらしい。キリッとパンチの効いたスープをまろやかにする働きをしている。
　俺と美鬼は、夢中で雑炊を貪った。
　日が沈む頃、剣城たちを合流した俺と美鬼は、再び内裏に戻った。
　客間に入ると
「お待たせ。」
　と天が微笑みかける。
「例の刀を持って来てくれるかい？ 」
　侍女たちは、五人がかりでその刀を持ってきた。
　見た目は天叢雲剣と変わらない。
　俺は無言でそれを受け取り、刀を引き抜いた。
『草薙之剣』
　俺はその両刃の刀を握った時、あることに気がつく。
「人の思念が聞こえない。」
　そればかりでは無かった。これま視えていた少し先の未来、相手の術式を可視化する能力、術を跳ね返す八咫鏡、俺が主に使っていた三十あまりの力が全て消滅している。
「どうだい？ 人の心が見えなくなったのは？ 少し心が楽になったかな。それとも。そうだよね今まで出来ていたことができなくなるって、相当ストレスになると思うんだ。その力を取り出してしまったのも僕のエゴだよ。」
「いえ、目から鱗が落ちたようです。」
　実際そうであった。他人の思念や未来が視えなくなったことで、逆に五感が研ぎ澄まされたような気がする。
　いつもより視界がクリアに映り、天の声もなんだか新鮮だ。
「君のその刀、能力を引き抜いたら短くなってしまってね。刀鍛冶に頼んで打ち直してもらったんだ。そしたら…両刃になっちゃったんだよ。これじゃぁ刀じゃなくて剣だ。」
「いえ、とても良い武器ですよ。」
　峰が無くなってしまっては、峰打ちもクソもない。
　刃の片側に布を巻くことも考えたが……
「コレはケジメだ。人々を傷つけるために刃を振るわないことへの。」
「そして、極東の繁栄への……」
　不意に宮内へ一人の男が飛び込んで来た。
　どうやら剣城の村の衛士のようである。
「どうした？ 」
　男は息を切らしながら答えた。
「剣城さん。村が、丹楓村が……」
「今は村守弓館様が食い止めて下さっていますが、いつまで持つか……」
「相手は？ 何人いる？ 」
「一人です。息をする様に火を放つバケモノです。」
　二人の会話をそこまで聞き終わると、俺は美鬼と剣城を抱き抱え…風の力は使えなくなったので、足元に意識を集中させその爆発力で一気に飛び上がった。
　そのまま客間の屋根を突き破る。
　風を操っていた時と違い、細かい調整が出来ないため、空気が、突風のように襲いかかる。
　俺はそれを書き分け、目的地の丹楓村へと急いだ。