神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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 ホントの始まり

天叢雲剣

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「……んんっ。」
 誰がに呼ばれた気がする。
 というか、今のはなんだったのだろうか。とても長い夢を見ていた気がする。
 が、内容は正直思い出せなかった。
「起きろ慎二郎。」
 俺を揺さぶっていたのはどうやら美鬼だったらしい。
「こんなところで寝るな。」
 どうやら俺は、街の人間が開いた宴会で酒を飲み、そのまま寝てしまっていたらしい。
「いやぁ。お前さ酒に弱すぎんだろ。」
 剣城だ。
「私を差し置いて、他の女に鼻の下を伸ばしやがって。」
 別にそんなつもりは無かったが、気をつけようと思った。
 美鬼は頬を膨らませたまま、続ける。
「私とお前は、人間から見たら夫婦なんだ。夫婦は他の異性と話をしたらいけないんだ。」
"普段お前も剣城と話をしているじゃん。"
 と喉まででかかったが、美鬼がそういうならそうなんだろう。
 そう、夫婦とはそういうものなのだ。
「おい、お前、刀。」
 剣城にそう言われて、昨日、天に叢雲を預けていたことを思い出す。
「取りに行こう。刀が無いと何も出来ないからな。」
 美鬼が俺の身体に鼻を当てると、次に鼻をつまんで手を払った。
 今度は俺が怒った。
「おい、言い方ってもんがあるだろ。」
「人間は、こんな時、香水を振り撒くようだが、そんなんじゃダメだ。湯浴びに行ってきてくれ。」
 「臭い」と言われて喜ぶ人間など少数派であろう。まぁ俺も美鬼も人間では無いのだけど。
 俺たち三者は銭湯で体臭とアルコールを綺麗さっぱり抜き出すと、朱雀大路に出て朱雀門を目指した。
「おい、それより良かったのかよ。アレ、お前の大事なモノだろ。もし天が『この刀は美しい。コレはオレノモンダ。』とか言い出したらどうするんだよ。」
「そんなこと言うのは剣城だけだろ。お前も触りたいのか、俺の刀を。」
 剣城は首をブンブンと振る。
「いや、布津御魂剣に勝るエモノなんぞいねえよ。ああ、絶対にそんなことなどない。」
 俺たちが朱雀門を抜けると、番兵たちに招かれ、俺たちを客間へと案内した。
 客間にはいつもの顔ぶれが…現れることは無く、坂上と天だけが部屋に入ってきた。
 そして、俺の目の前に天叢雲剣が帰ってきた。そのことに安堵していると天が口を開く。
「ありがとう。刀見せてもらったよ。とても良い刀だね。」
 「喜んでいただいて光栄です。」
「ところで。」
「君のその刀、調べさせてもらったよ。」
「どうやら少なくとも二百種類の技術がその刀には詰め込まれている。流石に驚いたよ。極東はまだしも、おそらくグランディルを超えるであろう技術まであったんだからさ。」
 自分でも驚いた。無意識に使っていた能力だったが、あってせいぜい三十種類ほどだと思っていだからだ。
「そこで。」
「君に頼みがあるんだ。」
「なんでしょうか? 」
 天は答えなかった、代わりに答えたのは坂上である。
「刀の能力の一部を、我々に譲っていただけないだろうか? 」
「君も知っての通り、この極東の地域には、持たざるモノの集まるスラム街と、全てを手に入れたモノたちが暮らす京内がある。」
「その刀の力を利用すれば、極東をもっと豊かに出来るんだ。」
 彼らの言っていることを全て信用することは出来ない。
 だが、
 俺たちが初めて極東にやってきた時に見た貧困街の光景……
「分かりました。そうですね。それは俺の義務でもあります。俺は救う人を選んではいけない立場の『極東人』なのです。」
(坂上が立ち上がる。)
「よくぞ言ってくれた。それでこそ、我が極東の臣下だ。今から天叢雲剣の能力を一部、引き抜かせてもらうぞ。」
 剣城が手を挙げた。
「あの、その間俺たちは?? 」
 天は微笑む。
「いい機会だ。極東を見て回ると良い。二人を案内してやれ。と言いたいところだが、そうだな。」
 天は少し考えた。
「君はお鶴と観光すると良い。」
 次に俺たちの方を向く。
「そうだな君たちは……」
 彼は懐から巻物を取り出した。
「ここに僕のオススメのお店がある。勤務中にこっそり抜け出し、身分を隠して訪れた店をレビューしたものだ。」
 俺は巻物を開くと、極東の地図にズッシリと箇条書きされた文字を見た。
「ありがとうございます。一日で回り切れるかどうか。」
 こうして俺たちは、束の間の安息を満喫することになる。
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