神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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 ホントの始まり

最後の警告

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 俺は、黄昏の花畑の中で目を覚まし、どこか懐かしい気持ちになった。
 いや懐かしくは無いのだか。
 起き上がり、陽に当たり輝く大理石の神殿を見た。
「いかなきゃ。」
 誰に命令されたわけでも無い。ただ、呼ばれている気がするのだ。「こっちへ来い」と。
 俺は起き上がり、スノーポールやマリーゴールドを避けながら宮殿の階段へと一歩踏み出す。
 吹き通しになっている階段の上から、この世界を見渡した。
 一年草や多年草、春の花や夏の花、冬の花まで混同している。というか……
「暑いわけでは無い。かと言って肌寒いわけでも無いのだが。」
 空気はカラッとしているわけでも湿っているわけでもない。
 陽はいつまで経っても沈むことはない。
 時間が止まっているのか、しかし風は吹いている。寝床に帰る鳥の鳴き声。……どこに帰るのだろうか。
 ひたすら階段を登り、どれぐらい時間が経っただろうか。(そもそも、この世界に時間という概念は存在するのであろうか。)次第に玉座の笠木が見え、背板が見えたところで……
「随分と時間が掛かっているじゃ無いか? まだ代行者を処分できないのか? 」
 男? 女? 
 気がつくと、玉座には一人の人間が腰を下ろし、足を組んでいた。
「右も左も分からない俺を勝手に送り出したのは、お前だ。俺は如何なる命も受けていない。」
 隣で吹き出しそうになっている男が一人。
「コイツは一本取られたな割田。」
 すると、玉座に座るソレは青くなり、次に紅くなると、声を荒げた。
「命令?? そんなものは要らないね。君は世界から異物を取り除くために生み出された存在、それ以外に存在価値は無い。」
 俺も負けていない。
「異物とは一体……どこまでが異物で、どこまでがそうでない。代行者だって元は人間だし、聖は代行者の力を借りて能力を行使してるに過ぎず、彼らは、ただの無能力者だ。俺は人を守るためにプログラムされた存在。ならなぜ人を守るために生み出された俺が人を殺せようか。」
 その、割田という人間は、肘掛けを勢いよく叩いた。
「その異物というのが、ことあることにお前を利用している天とかいう夷と……そう、鬼だ。あの売女。お前の仕事は奴らをこの世から一匹残らずデリートすることだ。」
「あの鬼、酒呑童子の記憶、最後のほんの一瞬だけ視えましたよ。」
 俺のその言葉にソレは絶句した。
「ねえ、鬼ってのは吸血鬼っていうのは、どういう存在なんですか? 」
「うるさい、この世界のプログラムの一部でしかないお前にその思慮は不必要だ。」
「貴方がシド・ブレイクに力を授ける以前から存在していたのですか? 」 
 「黙れ。」
「鬼や吸血鬼も元はーーー」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ。
 僕が黙れと言っているんだ。だからプログラムであるお前は黙らなければならない。私が『殺せ』といえばお前は殺さなければならないし、『死ね』といえばお前は自害する。それ以上でも、ソレ以下でもない。いいか? 最後の警告だ。これ以上私の命に背くなら。」

「お前の英雄としての力を剥奪する。」
 
 黒服の男……蝠岡蝙は、終始、管理人に意見することもなく、英雄に助言することもなく、ただ、黙って二者の会話を聞いていた。
「どうやら、この賭けは僕が勝ちそうだね。」
 さっきまで紅潮し、取り乱し、二人称までに余裕が無くなっていた管理人は、勝ちを確信し、すっかり得意になっている。
"そういうとこだぞ、君の詰めが甘いのは。"
「それはどうかな。」
 管理人は眉を顰めると、蝠岡を見た。
「ふっ。どうした? 天才科学者のキミでもお手上げかい? まぁこうなることは分かっていたさ。」
 彼は自慢の黒縁メガネを人差し指で押し当てると
桐生慎二郎は世界を救うよ。」
 と、そう一言だけ漏らした。
 管理人はアホ顔を晒す。それから腹を抱えて玉座の上を転がり回った。
「この後に及んでも、まだそんな大ボラが吹けるね。」
「そうだ。『未来』を見てきたからね。」
「オイオイ、大丈夫かーい天才科学者様ぁ。研究のしすぎで頭おかしくなっちゃったのかな? いい脳神経外科を紹介するよぉ。」
「ちゃんと睡眠は八時間摂ってるよ。それに大兄弟助に見てもらったんだ。」
「ホラ。」
(彼は管理人の元に、一冊の分厚い本を放り投げる。)
「僕が彼の見せてくれたビジョンを元に小説を書いた。君の退屈しのぎ程度にはなると思うけど。」
 管理人は、いよいよ蝠岡が恐ろしくなり、一本後ずさった。
「未来なんか見えるもんか、君も知っているだろ。バタフライ効果。蝶はいつ竜巻を起こすか分からないんだよ。」
 彼はしたり顔で管理人を見つめる。
「ああ、知っているよ。それぐらいはね。」
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