神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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 ホントの始まり

名誉極東人

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 反乱軍をたった三人で鎮圧するという無理難題をクリアーした俺たちは、ひとまず、内裏に戻ることにした。
 剣城はと言うと、まだ「俺たちが得美士たちを追い出した。」という実感を持てていないようであった。
「なんだか……俺は人外専門だから人の戦争ってのを……いや、実際に戦ったのは鬼だし、軍勢のほとんどはお前が足止めしてくれていたけどよ。」
「ああ、そうだな。それに……俺は初めて人を殺した気がする。コレまでは、聖や代行者とかいう、比較的頑丈な人間を相手にしていたから。」
 剣城は力なく笑い、そして、背中をポンと叩いてくれた。
「考えすぎだぜお前。」
 俺は思わず剣城に聞いてしまった。
「もし極東の人間同士で争いが起こった時、お前ならどちらにつく? 俺は誰の味方をすれば良いんだ? 」
 彼は振り返る。 そして答えた。
「俺の味方をしろ。村の人間の味方をしろ。そして……美鬼を守ってやれ。」
 美鬼はまざか自分の名前が出てくるとは思っていなかったので、びっくりした。
「ふん、ありがた迷惑だ。こんな男なんかに守って貰わなくても私はやっていける。」
「でも。」
「私を人間の世界に連れ出したのはお前だぞ慎二郎。その責任ぐらいとってもらう…からな。」
 俺は快く答えた。
「ああ、もちろんだ。」
 俺たちは羅生門を抜けて、(流石に二、三時間、朱雀大路を歩くのは気が滅入るので。)人力車を捕まえると、ぎゅうぎゅう詰めになりながら朱雀門に到着した。
「なんか返ってつかれた気がするぜ。」
 剣城が自分の腰をポンポンと叩いている。
 内裏の入り口には……天と側近たちが立っていた。
「疲れているところ済まないが、会議だ。」
 俺たちは客間へと招かれる。
 天も側近たちも、当たり前のように定位置に座った。
 俺たちは天に一礼すると、三人揃って正座する。
「やぁ、まざか本当に三人でやり遂げるとは思ってなかったけど。」
「側近たちも、君たちのことを信用してくれたみたいだよ。」
 天は咳払いをする。
「さて三人にはそれぞれ褒美をあげないとね。」
 天は紅葉御前の方を向いた。
「紅葉御前。僕は君を極東人と認めよう。」
 美鬼は天を見上げる。
「私は、ここ極東にいても良いんだな。」
「ああもちろんだ。コレからも宜しく頼むぞ。我が臣下よ。」
 伴が、また横槍を入れた。
「上様、いくらなんでもヤツを信用しすぎです。鬼を臣下にするなど。」
「伴。僕はね。人を見る目だけ。コレだけには自信があるんだ。」
 天がそう言うと、伴はそのまま引き下がった。そこで「いえ、そんなことないです。」と言える人間はいないであろう。少なくとも、伴にはそのような胆力は存在しない。天もそのことは分かった上で、かくのようなことを言ったのだ。
「慎二郎。」
「はい。」
 急に呼ばれて我に返る。
「約束だ。君には姓をあげよう。色々考えたんだけど、君には『桐生』ってのはどうかな?? 」
「私には勿体ない姓でございます。」
「要らぬか?? 」
 俺は思わず首をブンブン振ってしまう。
「いえ!! この上ない!! 私にピッタリの姓です。ありがとうございます。」
「気に入ってもらえて良かったよ。」
 俺は美鬼が物欲しそうにこちらを見ているのを横目で見る。
 俺に名前をくれたのは彼女だ。
 なら。
 俺がやらなければならないことは「与える」こと。
「上様。」
「なんだい?? 」
「もう一つお願いをしても宜しいでしょうか?? 」
 天が答える前に、どこらから俺を叱責する声が飛んできた。
「調子に乗るなよ異邦人。本来お前なぞ、天様に謁見する権利すらないのだ。」
 ドウドウ。天は再びその声を制してから、慎二郎の問いに答えた。
「特別だ。君には色々と世話になったからね。」
 俺は息を大きく吸い込む。
「美鬼にも、俺と同じ姓を下さい。」
 周りが静まり返った。
 ただ、彼女だけが、意味を理解すると、顔を赤らめて、そして、首をブンブン振ると俺を睨むのだ。
「勝手に決めるな!! それに、他人と姓を共有すると言うことは、極東では……そう言うことなんだろ。」
 天が首を傾げる。
「なんだ? 要らないのか? 」
「いえ、下さい。ありがとうございます。ホントありがたき幸せでございます。」
「ハハハハハ。君も面白いね。良いよ。君も今日から『桐生』だ。」
 それから天は剣城の方へと向いた。
 剣城は「待っていました」と言わんばかりの顔で、自分にはどのようなリワードが贈られるのかをドキドキして聞いていた。
「大藤が、君に嫁を出したいそうだ。」
「どうした?? 不服か? 」
 剣城は重い口を開く。
「あの、娘さんはなんて? だって悪いでしょ。」
 天は今度こそ豪快に笑い飛ばしてから、なんとかそれを腹に収めた。
「まったく……君は奥手だな。お鶴も前から君の好意に気づいていたさ。大藤も度々僕の方へ相談に来てい……」
「天殿!! 」
 天の言葉は大藤に遮られる。
「ありがとうございます。上様。いや、大藤殿、本当にありがとう。」
「以上だ。わが臣下たちよ。今日は疲れただろう。解散だ。」
 客間から退出する最中。俺は天に肩をポンポンと叩かれた。
「君のその刀。ちょっとだけ借りても良いかな? 明日になったらちゃんと返すから。」
 俺は少し考えてから
「ええ。もちろんです。」
 と答えて叢雲を差し出す。
 朱雀門を出ると、都は騒がしく、どうやら祭りが開かれているようだ。
 俺たちは町人と一緒に朝まで歌って踊った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「予想以上のデータが取れました。」
 坂上は、いつにも増して満足そうな顔をしながら、天に巻物を渡した。
「おい、坂上。今回のは流石にやりすぎだ。吉田家の反乱分子を唆して、謀反を起こさせるなど。」
 坂上は満面の笑みを浮かべた。
「遅かれ早かれですよ。貴方様を邪魔する奸は早めに除いておいた方が良い。それに人間を異能者に改造する計画。コレで研究が二歩、いや三歩進みましたよ。コレでグランディルから極東を守ることも出来る。」
「……」
「知っていながらなぜ天様は私の計画を止めないのですか? 私が謀反を起こすかも知れないのに。」
「坂上。僕を殺しても良い。」
「ただ。」
「極東を護ってくれ。」
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