神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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 ホントの始まり

支配領域

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「ホントにやんのか?? 」
 ここは極東の羅生門の外の貧民街から少し離れた場所。
「為せば成る為さねば成らぬ何事も。」
 剣城は腹を抱えて笑っている。
「なんだよそれ。」
 美鬼が左手で俺たちを制する。
「二人とも、来るぞ。」
 事は数時間前に遡る。俺たちで𠮷田家の軍勢にどう対処するか作戦会議を行っていた。
「勢いで言っちまったけど、どうするよコレ。いくらお前ら二人が強いって言っても。三人で五万の軍勢を相手するのは流石に無理があるぜ。」
 剣城は、本当に何の策も無しに勢いで答えていたらしい。
「こんなもんなら、あの腰巾着から軍の一万や二万でも貰っとくもんだったぜ。」
「だめだ。」
 自分でもびっくりした。自分の口からこのような言葉が出たことに。
「俺が軍勢の脳を叢雲で押さえ込む。二人はそのうちに首領の鬼を抑えてくれ。」
 剣城は疑心暗鬼で俺に問うた。
「いくらお前でも、ホントに出来んのかそんなこと?? 」
「やってみるさ。」
 当然、俺はこう答えた。
「そうか……信じているぞ慎二郎。首領たちは私たちに任せてくれ。」
 と美鬼。
「慎二郎を信じろ。」
 

 こうして今に至る。
 向こうから砂煙を上げて、こちらに走ってくる軍勢が見えてくる。
 剣城が𠮷田の軍勢に苦言を挺する。
「今から戦争するってのに、兵を疲労させるとかアホかよ。」
 その言葉に美鬼が返した。
「極東が軍を集め終わるまでに叩くことを選んだか。そう考えれば、相手が何も考えてないわけでも無さそうだぞ。」
 剣城が鼻で笑う。
「フッ。向こうも藁に頼らざる終えなかったってことか。そのまま溺れ死んじまえば良かったな。」
(美鬼が銃鬼を構え始めた。)
「川底に引き摺り込まれたというのなら、川底の地盤沈下で岩底に閉じ込められた空気を吸えば良い。」
 彼女はそういうと、集中している俺に話しかけた。
「おい、慎二郎、まだか?? 」
「まだだ。軍勢が俺の術式範囲内に入っていない。」
 俺は叢雲を地面に突き立てたまま、刀の頭を額に当て、ひたすら、その好機チャンスを待っていた。
 剣城が焦燥し始めているのを思念で感じ取る。俺の言葉を信じ、ひたすら待ち続けている美鬼の思念が俺の背中を支える。
「いまだ!! 」
---支配領域 レギオン・オブ・ドミネーション---
 術の展開と同時に、おびただしい思念が俺の脳内に直接流れ込んでくる。辺境で鍬を握っていたもの。両親がおらず、窃盗を繰り返すことで今日まで生きながら得たもの。武士の生まれであったが、才能がなく一族から見放されたもの。
 信者達の、さまざまな思念が俺を襲い……
 アレ?? 俺は誰だったんだろう?? 
 商人の子か?? 農民?? それともどこぞの盗賊だったのだろうか?? 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
沈みゆく意識の中で、一つの声が、俺を再び俺のあるべき場所へと引き戻す。
"お前の名は慎二郎だ。"
 美鬼だ。彼女が名前をつけてくれたから、俺は今ここにいる。
 目を見開き、再び意識を集中させる。
 極東に進軍していた五万の兵士たちが、一瞬にして無力化された。


「ほう?? やるじゃねえか。俺の手駒を一瞬で無力化するなんてよ。」
 鬼は、ゆっくりと歩いと来ると、彼らの先陣を切っていたおそらく幹部であろう男を小突いた。
「おい起きろ。弟よ。」
「…」
「得美士!! 」
「は、俺は何を。悪りぃなアニキ。」
 名前を呼ばれたことで自我を取り返した得美士という男は、こちらに刀を向けた。
「っと改めて。俺は得美士だ。下手こいたが、まぁぼちぼちやらしてもらうぜ。」
 剣城が憎しみを込めて彼に言葉を返した。
「おい、人間のお前が何で鬼と連んでやがる。」
「おい、まず名乗れよ。鬼狩ぃ。」
 剣城は襟首に当てられた得美士の刀を左手で振り払うと、後ろに大きくバックステップする。
 こうして俺たちと反乱軍の戦いが始まった。
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