神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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 ホントの始まり

敵に情けをかけるべからず

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俺たちは、オヤッサンに連れられて坂田家の道場に入った。
 オヤッサンは道場にお辞儀して入るや否や、場内に飛び込み、俺を手招きする。
「きな。坂田家でモノを言えるのは強き者のみ。」
 剣城が耳打ちしてきた。
「おい、お前。刀の力は絶対に使うなよ。道場がメチャクチャになるからな。」
(俺は腰から刀を抜き、構える。)
「ふーん。父親の心配はしないみたいだな。」
 剣城の血相が青くなる。
「おい!! ちゃんと前を見ーー」
 凄まじい衝撃が腹部を襲う。
 どうやら刀の鞘で思いっきり突かれたようだ。
「おい、集中してねえと死ぬぞ。」
 オヤッサンは鞘を宙に放り投げると、俺の胸ぐらを掴む。俺の身体が宙に舞った。そして俺は道場の地面と接吻する。
「そんな貧弱な身体で女を守れると思うなよ!! 」
 俺は天と地が逆転した世界で、こちらに迫り来る巨漢を見た。
「鬼だ。」
 俺は素早く起き上がると、叢雲を水平に構えて迎撃に備える。
 そして彼の上段斬りを鍔で弾き返し、そのまま反時計回りに一回転すると、オヤッサンを左肩から右脇まで斬り裂こうとする。
「甘ちゃんめが!! 」
 巨漢は攻撃を全身で受け止めると、その逞しい肉質で弾き返した。
"攻撃が通じない。"
 オヤッサンの左ストレートが飛んでくる。
 その攻撃は見事俺の右頬に命中し、「ガリッ」と言う顎が外れる音がした。
 そのままグルグルと回転し、道場の壁に身体をぶつける。
「グェフグェ。」
 咳き込み、顎を動かしてしまい、脳内に稲妻が走る。
「ッカッー。」
 巨漢が刀を構えて突進してきた。
「弱き者に生きる権利などない!! ここで死ねぇ!! 」
 俺は彼の肩を左手で掴み、踏み台にすると、飛び上がった。
 俺の脳内に叢雲の情報が流れ込んでくる。
「こっこだぁ!! 」
 俺は刀の峰を素早く返すと、大上段で巨漢の背骨を叩いた。
 オヤッサンは反動で少しぐらつくが、
「この青二歳ガァッ!! 」
 と叫び、俺の左足を掴むと、投げ飛ばした。
 俺は掛け軸に身体をぶつけ、次に壁で背中を強打する。
 重みに耐えかねた掛け軸が顔に落ちてくる。

『敵に情けを掛けるべからず。容赦は死に直結する。』

「だが。」
「『不要な殺生は行わない。』と言う覚悟は受け取った。」
「約束だ。男に二言はない。お前をこの村に引き入れることを許可しよう。」
 オヤッサンが手を差し伸べてくる。
 俺はその、人間にしてはひときわデカく肉厚の手に捕まる。
「そういえば、お前、名前を聞いていなかったな。」
「武士は一騎討ちの前に『名乗り』をすると聞いたんですけど。」
 巨漢が豪快に笑う。
「はっはっはぁ。コイツは一本取られたな。俺の名前は坂田弓館。坂田剣城の父親だ。お前は?? 」
「俺の名前は慎二郎です。姓はまだありません。」
「そうか。よろしくな慎二郎。今日からお前もうちの子だぁ。」
  
 二、三日の後、坂田家の横に俺たちが住む小屋が出来た。
 美鬼がそれに苦言を挺する。
「人間が家というモノに住むということは分かったが……」
「なぜコイツと住まなならんのだ。そりゃ住む場所が出来たのはコイツのおかげだが、私はここまでしてくれとも言っていない。」
 剣城が指を振る。
「いけませんよお嬢様。ちゃんと人間のフリしないと、一緒に村にやってきた男女が別々の家に住んでいたら、村人たちが不審に思うでしょう?? 」
「お前!! 私を馬鹿にしているな!! 」
 それから一週間後、剣城に極東からの返しの手紙が届いたようだ。
 どうやら僧侶たちの反乱を鎮圧して欲しいとのことだった。
 俺たちは再び極東に呼び戻されることとなった。
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