神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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英雄

極東追放

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 天は慎二郎から天叢雲剣を受け取ると、坂上へと差し出した。
 数日後、都がそっくりそのまま再生されたことに驚いたのは三者だけでは無いだろう。
 おそらく、都に住む九万の人間が同時に面食らったであろう出来事だった。
 日を改めて内裏に呼ばれた三者は、朱雀門をくぐる。
 剣城は慎二郎の叢雲を見る。
「その刀、一体どうなっているんだ?? 」
 慎二郎はその問いに力なく笑った。
「分からないんだ。なんにも。」 
 彼は美鬼の顔が浮かれないことを見て彼女を元気づけようとする。
「大丈夫。俺と剣城でなんとかするよ。」
 三者が客間に入ると、天はすでに正装で高御座に座っており、壁の両側には側近たちがずらりと並び、正座していた。
「ありがとう。よく来てくれたね。さぁ座って。」
 剣城は
「失礼いたします。」
 とお辞儀をし、正座する。
 二者はそのまま座り込んだ。
 その行為に我慢ならなかったのか、立ち上がった伴光が真っ赤になり、慎二郎たちを糾弾する。
「お前たちは上様に感謝の言葉もないのか。」
 周りの側近たちが伴光を宥める。
「おい、落ち着け。天様の御前であるぞ。」
「伴殿、どうか怒りをお納め下さいませ。」
 だがしかし、伴は他の側近たちを振り払うと、さらに言葉を続ける。
「天様!! コイツらが都にやって来た直後に都が聖に襲われました。コイツらは悪魔の末裔だ。聖と繋がっているに違いない。天様に取り入り極東を内部から潰そうとしているに違いない。」
 天は伴を手で制する。
 そして、剣城を見た。
「坂田。お前から見て慎二郎たちはどう思う?? なぜお前は紅葉御前を殺さなかったんだい?? 」
 剣城はその問いに答えた。
「我が坂田一族は、怪異を狩ることが生業であり、使命です。」
「ならッ」
 伴が横槍を入れる。
 剣城は続けた。
「我々先祖が代々怪異を狩り続けたのは、民や近衛、天様を守るためであります。決して殺戮のためにこの職業を頂いている訳ではありません。」
 伴は顔を真っ赤にして剣城に食ってかかる。
「なら!! 今ここにいる逆賊どもを切り捨てい。お前が責任を持って!! 都に害をなした厄災どもを。」
 剣城は立ち上がった。
「天様の御前でいたずらに刀を抜けましょうか?? 」
 あたりがざわめき始める。
 彼らの思念が、慎二郎の心をチクチク攻撃し始める。
 慎二郎は不快感を覚え、耳を塞ぎたい気持ちを抑えながら、必死に耐えていた。
「そうだ、私が悪いんだ。」
 美鬼は立ち上がり。叫んだ。
 伴は彼女を指差し、天を仰ぐ。
「ホラ、言わんこっちゃない。あの売女、やっと自白しましたよ。」
 彼女は客間を飛び出した。
「逆賊が逃げたぞ!! 追…」
「伴ッ」
 伴が見上げると、そこには自分を見下す鬼の姿があった。
「お前はあの鬼に何をされた?? 肉親を殺されたのか?? 何を奪われた?? 何を壊された?? 」
「あの怪しい奴らがいなければ、都も、内裏も壊れませんでした。」
「本気で言っているのかッ!! 」
 慎二郎は立ち上がると、美鬼を追う。剣城もその後を追った。
「天様は!! 虎に翼をつけて放つおつもりですか?? 民がいくらか犠牲になったのですよ。」
 天はその言葉に反論する。
「彼らがいなければ、都はもっと酷い有様だった。彼らは都の救世主だ。そのものたちに中傷紛いの批判をぶつけて……お前はどれだけ私の顔に泥を塗れば気が済むんだ?? 」


 慎二郎は建物を飛び出し、石段を駆け降りる美鬼の左手を掴んだ。
「離してくれ。」
「嫌だ。」
 そして彼は力なく笑うのである。
「ごめん。俺、何にも出来なかったよ。何も出来ないのに、美鬼をこんなところまで連れて来てしまって、君を傷つけて。情けないよね。」
 美鬼は目に涙を溜めながら答えた。
「なんで慎二郎が謝るんだ。」
剣城が後からやって来る。
「二人とも。俺の村へ来い。」
 美鬼が答える。
「これ以上貴殿に迷惑をかけるわけには行かない。」
(剣城が続ける。)
「また愛宕山に戻るのか??俺じゃない誰かが、またお前を襲いに来るぞ。」
「……」
 慎二郎が一歩前に出た。
「頼めるか?? 」
 剣城はコクリと頷いた。
「ああ、」
 
 数日後、内裏宛に剣城の手紙が届く。
 その手紙には、剣城が、慎二郎たちを監視しているということ、万が一のことがあった場合、自分が責任を取るとの文面が記されていた。
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