神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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英雄

極東

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 慎二郎の応急処置をしていた剣城は、彼の凄まじい再生能力に度肝を抜かれていた。
 明後日の方向に曲がっていた右手は、時間が経つと元通りにねじ曲がり、欠損していた左腕は、トカゲのように生えてきた。
 そして美鬼の方を見る。
"とは言ったものの、このまま都に入れば、どうなるかは予想がつく。"
「おいお前、これを着ろ。」
 剣城は美鬼にフード付きのローブを投げつけた。
「なるほどな。私も騒ぎを起こしたいわけではない。ありがたく頂戴するよ。」
 翌日。
 三者は下山すると、都向けて歩き出した。
 道中、ボロボロの藁葺きで生活する人々を見て、慎二郎は剣城に質問した。
「ここの人たちは?? 」
「戸籍の無い人々だ。都に入れるのは戸籍を持った人間のみ。ここの人間は畑を耕したり、日雇いで食い扶持を稼いでいる。」
 慎二郎は彼らの鋭い視線に恐怖を覚えた。
 そして、初めて人の悪意を受け取る。
<ウチの人間だ。いくら持ってるかな?? >
<クソ、都の人間め、俺たちの税で、私腹を肥やしやがって。>
<あれはやめた方が良いな。全員てだれだ。他の弱い奴を探した方が良い。>
 慎二郎は再び彼に質問する。
「なぜこの人たちは都に入れないの?? 」
 剣城が答える。
「人が増えすぎたからだ。それに、彼らがいないと都の人間は、食糧を手に入れることが出来ない。」
 西の城門が見えてくる。あそこで検問を行なっているのであろう。
 剣城が美鬼に釘を刺した。
「おい、分かっているな。終始、顔を隠して黙っていろ。俺がうまく取り繕う。」
 三者は城門前の石段を登ると、二人の衛士に引き止められた。
「おい、お前ら止まれ。」
「っと剣城様でしたか。さ、どうぞお通り下さい。」
「そして、お前がシド・ブレイクを退けたという剣士か……」
<見るからに胡散臭い奴。>
 「そちらのローブの御婦人は?? 」
 剣城は笑顔で答える。
「森で倒れていてな。保護した。かなり衰弱していてな。手続きは明日する。今日は通してくれ。」
<チッ、好き勝手しやがるな、この鬼狩りは、女なんて連れてやがる。>
 三者はどうにか検問を掻い潜ると、朱雀大路を目指した。
「おい急ぐぞ。歩いても昼までに着くかどうか分からない。」
 都の建物は、全て木造の瓦葺で、人々はみな健康的で、活力があった。
 さっきの人間たちとあまりにも対照的であったため、慎二郎は驚いた。
 それを見た剣城は力なく笑うと、次に口を開く。
「さっきの人間たちとは、えらい違いだろ。みんな目に輝きがある。」
 慎二郎は首を振った。
「違わないよ。ウチの人間も外の人間も同じだ。みんな何かを『所有』しようと血眼になっている。」
 剣城は少し驚いたが、それからニマリと笑った。
「人間ってのは、そういう生き物だよ。お前も名前が無くなってしまったら困るだろ。」
 慎二郎は震えた。
「困る、やめてくれ!! 俺の名前を取らないで。」
 剣城が、慎二郎を宥める。
「とって食ったりしねえよ。さあ、行くぞ。内裏はすぐそこだ。」
<人間とは、本当にくだらない生き物だ。>
 三者は、石段を登り始め、朱雀門を目指した。
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