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代行者
愚か者には天罰を
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私は「変異」する人間や神族たちを横目に、雷の落ちた場所へ向けて足を引きずっていく。
私の隣の女は、頭を押さえて奇声を上げている。
確かに覚えている。彼女の頭からは二本の角が生えていたことを。
続く右側の男は、八重歯が鋭く尖り、今にも隣の女性の首に噛み付かんとしている。
が、ほかの強烈な存在に圧倒されていた私は、彼らの存在に気が付いていなかった。
ただ私は進み続けた。
丘の上に突き刺さる、一振りの黄金を。
私は丘を登り、剣の前に立った。
そして高らかに宣言する。
「私の名はシド・ブレイク!!神に代わって神族に天罰を下す者だ!!」
誰に聞かれたわけでもない。ただ聞かれた気がしたのだ。丘の上に鎮座する金色の剣に。
私が剣の柄を握ると、私はくすみ上がった。
"なんだコレは??頭が割れそうになる。私は今何を見ているのだ??"
地、海、風、太陽、草、木、森羅万象が、容赦なく私の脳を巡った。
私は、脳を駆け巡る謎の知識に、五感を奪われ、頭が真っ白になった。脳が大量の情報を処理することに精一杯で、他の感覚の処理が追いついていないのだ。
何も聞こえなくなり、何も見えなくなり、ついには平衡感覚まで失う。
倒れそうになったところで、少女の声が聞こえ、同時に全ての感覚を取り戻す。
---おーい!!---
---あっ、やっと気が付いた。私エクスカリバー。よろしく。---
気怠そうな声なのに、抑揚が無い。
「お前か???私に知識を流し込んだのは??」
---そう。だってそうしないと、私の力を使えないから。あ、ええとシド、なんて呼べば良い??---
「なんでも好きに呼べ。お前の好きなように。」
---じゃあマスターで---
"主人、悪く無い響きだ。"
---よろしくねマスター---
---マスター---
---マスター---
こうして私の物語が始まったのであった。
私はあの後、ローラント大陸に瘴気が満ちる前に、彼女の力を使い、空を飛んだ。
目指すは、我が故郷アグスだ。
グラン帝国、神族の国。
グラン帝国の奴隷は、群を抜いて扱いが悪い。
畑では、神族に後ろから弓を引かれながら、一心不乱に鍬を扱う人々の姿が見えた。
石造の建物から覗く人間は、目に隈を作りながら、必死にハタを織っている。
彼らはみんな、肩に焼印を押されていた。
おそらく、逃げ出す者が後を立たなかったのであろう。
名誉あるその印さえ有れば、他所のファームに逃げられたとしても、すぐに見つけられるわけだ。
「おい、人間??そこで何をしている??」
翼を生やした男が、私を引き止めた。
「見るところ、ここの人間では無さそうだな。抵抗しなければ、比較的楽な労働にぶち込んでやろう。」
男はこちらに槍を向けて来た。
「私は元々ここの人間だ。家族に会いに来たんだ。見逃してはくれないだろうか??」
出来れば面倒ごとは避けたい。というか、なんの考えもなしに、ここへ来た自分に驚いた。エクスカリバーに流し込まれた知識のせいで、まだ思考がまとまっていないのかもしれない。
「頭が高いぞ人間。」
左腕を何かが走った。
ただ、痛みも何も感じない。斬られたという感覚だけが残った。こんなおかしな事はない。鉱山で働いていた頃は、毎日ムチで叩かれていたが、慣れるモノではなかった。
振り返ると、男がバケモノを見るような目で、こちらを見ているのだ。
「お前!! どんな小細工を!! なぜ人間のお前が、魔術を使えるのだ!! 」
男は腰からラッパを取り出すと、勢いよく吹いた。
「ブー」
あたりに、翼や光背を持ったモノが集まってくる。
「奴を捕まえろ!! 反乱が起こるぞ!! 人間たちに反抗心を目覚めさせるな!! 奴らに希望を与えてはならん。」
"困ったことになった。"
神族に一矢報いるには絶好のチャンスであろう。しかし……
---大丈夫、魔術のコツはイメージすること。脳で発生したパルスを増幅させる感じ。マスターは才能ある。泥舟に乗ったつもりでドンと来い---
腰から聞こえる剣の声に従い、イメージする。
全てを焼き尽くす光を。
次の瞬間、私は腰からエクスカリバーを引き抜くと、天に翳した。
---Ίκαρος---
剣から、裁きの光が神族たちに降り注ぐ。
裁きの光は、彼らの翼や、光背を燃やし尽くし、飛翔する力を無くした者から地に地に堕ちた。
彼らが母なる大地に接吻を交わす頃には、もはや原型をとどめていなかった。
丸焦げになった肉塊は、バタバタと落ちていき、やがて灰になり消えていく。
私は改めて自覚した。自分が、とんでもないバケモノに変わってしまったことに。
同時に、自分の中では、ある一種の破壊行動が目醒めていた。
虐げられていたモノに復讐をしたい。彼らにも同じ苦しみを味合わせたい。
そういうドス黒い感情をかき消すように、奴隷たちが歓声を上げたのだ。
私の復讐心は、形容しがたい優越感に変わる。
私はもう一度剣を振り上げた。
「私は代行者シド・ブレイク。神に代わって人類を救済しに来た。」
私の隣の女は、頭を押さえて奇声を上げている。
確かに覚えている。彼女の頭からは二本の角が生えていたことを。
続く右側の男は、八重歯が鋭く尖り、今にも隣の女性の首に噛み付かんとしている。
が、ほかの強烈な存在に圧倒されていた私は、彼らの存在に気が付いていなかった。
ただ私は進み続けた。
丘の上に突き刺さる、一振りの黄金を。
私は丘を登り、剣の前に立った。
そして高らかに宣言する。
「私の名はシド・ブレイク!!神に代わって神族に天罰を下す者だ!!」
誰に聞かれたわけでもない。ただ聞かれた気がしたのだ。丘の上に鎮座する金色の剣に。
私が剣の柄を握ると、私はくすみ上がった。
"なんだコレは??頭が割れそうになる。私は今何を見ているのだ??"
地、海、風、太陽、草、木、森羅万象が、容赦なく私の脳を巡った。
私は、脳を駆け巡る謎の知識に、五感を奪われ、頭が真っ白になった。脳が大量の情報を処理することに精一杯で、他の感覚の処理が追いついていないのだ。
何も聞こえなくなり、何も見えなくなり、ついには平衡感覚まで失う。
倒れそうになったところで、少女の声が聞こえ、同時に全ての感覚を取り戻す。
---おーい!!---
---あっ、やっと気が付いた。私エクスカリバー。よろしく。---
気怠そうな声なのに、抑揚が無い。
「お前か???私に知識を流し込んだのは??」
---そう。だってそうしないと、私の力を使えないから。あ、ええとシド、なんて呼べば良い??---
「なんでも好きに呼べ。お前の好きなように。」
---じゃあマスターで---
"主人、悪く無い響きだ。"
---よろしくねマスター---
---マスター---
---マスター---
こうして私の物語が始まったのであった。
私はあの後、ローラント大陸に瘴気が満ちる前に、彼女の力を使い、空を飛んだ。
目指すは、我が故郷アグスだ。
グラン帝国、神族の国。
グラン帝国の奴隷は、群を抜いて扱いが悪い。
畑では、神族に後ろから弓を引かれながら、一心不乱に鍬を扱う人々の姿が見えた。
石造の建物から覗く人間は、目に隈を作りながら、必死にハタを織っている。
彼らはみんな、肩に焼印を押されていた。
おそらく、逃げ出す者が後を立たなかったのであろう。
名誉あるその印さえ有れば、他所のファームに逃げられたとしても、すぐに見つけられるわけだ。
「おい、人間??そこで何をしている??」
翼を生やした男が、私を引き止めた。
「見るところ、ここの人間では無さそうだな。抵抗しなければ、比較的楽な労働にぶち込んでやろう。」
男はこちらに槍を向けて来た。
「私は元々ここの人間だ。家族に会いに来たんだ。見逃してはくれないだろうか??」
出来れば面倒ごとは避けたい。というか、なんの考えもなしに、ここへ来た自分に驚いた。エクスカリバーに流し込まれた知識のせいで、まだ思考がまとまっていないのかもしれない。
「頭が高いぞ人間。」
左腕を何かが走った。
ただ、痛みも何も感じない。斬られたという感覚だけが残った。こんなおかしな事はない。鉱山で働いていた頃は、毎日ムチで叩かれていたが、慣れるモノではなかった。
振り返ると、男がバケモノを見るような目で、こちらを見ているのだ。
「お前!! どんな小細工を!! なぜ人間のお前が、魔術を使えるのだ!! 」
男は腰からラッパを取り出すと、勢いよく吹いた。
「ブー」
あたりに、翼や光背を持ったモノが集まってくる。
「奴を捕まえろ!! 反乱が起こるぞ!! 人間たちに反抗心を目覚めさせるな!! 奴らに希望を与えてはならん。」
"困ったことになった。"
神族に一矢報いるには絶好のチャンスであろう。しかし……
---大丈夫、魔術のコツはイメージすること。脳で発生したパルスを増幅させる感じ。マスターは才能ある。泥舟に乗ったつもりでドンと来い---
腰から聞こえる剣の声に従い、イメージする。
全てを焼き尽くす光を。
次の瞬間、私は腰からエクスカリバーを引き抜くと、天に翳した。
---Ίκαρος---
剣から、裁きの光が神族たちに降り注ぐ。
裁きの光は、彼らの翼や、光背を燃やし尽くし、飛翔する力を無くした者から地に地に堕ちた。
彼らが母なる大地に接吻を交わす頃には、もはや原型をとどめていなかった。
丸焦げになった肉塊は、バタバタと落ちていき、やがて灰になり消えていく。
私は改めて自覚した。自分が、とんでもないバケモノに変わってしまったことに。
同時に、自分の中では、ある一種の破壊行動が目醒めていた。
虐げられていたモノに復讐をしたい。彼らにも同じ苦しみを味合わせたい。
そういうドス黒い感情をかき消すように、奴隷たちが歓声を上げたのだ。
私の復讐心は、形容しがたい優越感に変わる。
私はもう一度剣を振り上げた。
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