闇堕勇者と偽物勇者

ぼっち・ちぇりー

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おしまい。

エピローグ

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「アスィール、こっちこっち。」
 丘の上で少女が読んでいる。
 丘の上に聳え立つ、一本の大樹は、エドヒガン桜の花弁を散らしている。
その花弁の一枚を掌に乗せて、僕は答えた。
「すぐ行くよアスピ。」
 僕は、僕たちは処刑されずに済んだ。
 だって、現にアスピは生きているじゃないか。
 慎二さんが女神を殺した。
 と言うか、後から彼に教えてもらったが、厳密には、懲らしめて、女神の地位から引きずり下ろしただけで、誓って殺しは、やっていないらしい。
 にわかには信じがたい事だが、ビギニア王は、彼女の声を聞くことが出来なくなり、が落ちたように別人になった。
 ソレでもフォースは、彼のことをまだ許さなかったけれども。
 僕は、エドヒガン桜の根本へと立ち、彼を見上げた。
「コレが、勇者の言っていた、桜? 」
「そうだ。僕とスカサアはここで会うことを約束していた。今でもこうして、存在していることが奇跡だよ。」
「いや、その言葉には語弊があるね。桜はね、繊細なんだ。人間がちゃんと手入れをしていないと、ここまで長生きはしないよ。」
「ちゃんと、代々受け継がれてきたんだ。この桜は。僕が、スカサアを閉じ込めた後も、あの世界に幽閉された後も。」
「コラ、触るなっ!! 」
 勇者に怒られてしまった。
「まったく!! 勝手にいなくなっちゃうんだから。」
 スカサア様は頬を膨らませる。
 出会った頃の生気のない彼女の面影はもうなかった。
 彼女にとって、勇者がどれほど大きな存在であったかが分かる。
「女の子はね、そう言うことを覚えてるんですよ。」
「もう女の子って歳じゃないし、僕が言い出すまで忘れてたじゃん。」
「何か言いましたか? 」
「いいや、酒を注ごう。君は数千年間、酒を飲める歳じゃ無かったんだ。」
 そう言って勇者は、スカサアの横に座ると、慎二さんが持ってきた瓶詰めの酒を、彼女のグラスへと注いだ。
「兄さんっ!! 」
「前やっただろ。お前下手くそなんだよ。エスカリーナやらリリスは、もっと上手かったぞ。痛くないし、血は出ないし。外耳炎にもならない。」
「へぇ。私たちがぁ、必死になってディアスト兄さんを助けようとしていたのに、兄さんは、汚いメスたちとイチャイチャしていた訳ね? 」
「汚い? 」
 横で幼女が涙目になっている。
「あーあー、エスカちゃんのことじゃないよ。ねぇヨシヨシ。エスカちゃんの耳も綺麗にしてあげるからね。」
「助けてディアスト!! 」
 幼女は、彼に抱きつく。
 ディアストが彼女を庇うと、彼女は安心したように笑みを浮かべる。
「ぐぬぬぬ。」
「なんで、兄さんにばっかり懐くのかしら? 」
「嫌われてるのは、お前だけだよ。」
「おー、やってんな。」
 少し遅れて、兄弟子がこちらにやって来た。
 エシールは、あの後、混乱状態にあった魔族たちをまとめ上げて、今はリリスと一緒に魔王代理の業務を行っている。
「またアスピ様は、エスカリーナ様を虐めていらっしゃるのですか? 」
「違っ。」
「リリスっ!! まぁアスピ姉さんに虐められた怖かったよ~ 」
 彼女は、エスカリーナを受け止めると、ギュッと抱きしめた。
「大丈夫。アスピ様はそんなことをする人間ではありませんよー ちょっと短気でガサツなだけです。」
「ムキィ。」
「すまない。私たちも遅れた。」
 フォースは、あの後、神父の仕事を辞めて、ドレイクの婿養子となった。
 彼が神父を辞めることを、咎める仲間は居なかったし、ドレイクは返事二つで受け入れたらしい。
 今は、ドレイクと共にサウスランドの重臣として、王の手助けをしている。
 今となっては、ちょっと遠い存在になってしまったな。
「へぇ。コレがダーリンの言っていた桜かぁ。とっても綺麗。」
 ドレイクの言う通りだった。
 『綺麗』ただただ、その言葉しか出てこない。
 僕らには綺麗なモノを綺麗だと感じる余暇すら無かった。
 だから、それ以上の言葉が出てこない。
 コレから僕たちは、色々なモノを見て、もっと感受性を広げていくことだろう。
「アーちゃん!! 」
 白のワンピースを着た女性が、丘の麓で手を振っている。
 バスケットを持った孤児院の子供達を連れて。
「リワン姉さん!! 」
 僕は彼女の元へと走っていき、転びそうになりながら。
 そして、彼女の元へと辿り着いた。
「荷物、重いでしょ。持つよ。」
「ありがとう、アーちゃん。」
 丘の方で歓声が聞こえる。
「おーおー、飯が来たぞ。」
「ちょ、スカサア、酔ってるよ。」
「勇者ぁ、ワラワの顔は真っ赤かぁ? 」
「遅いぞリワン。」
「そんな言い方は無いんじゃない? ディアスト兄さん? 」
「腹が減った。俺もドレイクも、業務でロクなモノを腹に入れられ無かったからな。」
「リワン、早く早くぅ!! 」
「なんだ……言ってくれれば、迎えに行ったのに。」
「ご飯? 人間の食べ物には興味があります。献立のバリエーションは多い方が良い。魔族たちの食いつきも良くなります。」
「さぁ、みんな、重箱を広げて広げて。」
「サンドイッチに、ハンバーガー、プライドポテト。」
「こっちはイーストサイドの食べ物か? 卵焼きに、ソーセージに、おにぎり。」
 こんがりとした脂の匂いが食指を動かす。
「コラ、みんな、まだ手を出さない。」
「アレを忘れてるぜ。」
「アレか? 」
「アレね。」
「「「「「「勇者、おかえり。」」」」」」
 今でも、世界が平和になったことに実感が持てない。
 でも、その気持ちも、日常の中に消えていくんだと思う。
 そして、人々の中で『平和』は『平凡』に変わるのだ。
 コレで僕たちの役目も終わり。
 後は老いて死ぬだけ。勇者とは、そんなモノなんだと思う。
 でも、得たモノだって勿論あるよ。
 オンリーワンの伝説の勇者じゃなかったからこそ分かったこと。
 いつ、いかなる時でも、仲間の存在が、僕の大きな支えになったこと。
 最初に出会ったのがフォースで良かった。
 ノースランドで折れかけた時、アスピが居てくれて良かった。
 ドレイクがいなければ、ディアブロの猛攻は止められなかった。
 そして、勇者がいなければ、僕は処刑されていた。
 そして……
 ドゥルガたち。
 出来れば、彼女たちも、ここに居て欲しかった。
 居なくなると分かるのなら、もっと彼女達と話をしておくべきだった。
「リワン姉さん、アスピ、エシール。」
「そして、みんな。ありがとう。」
「本当にありがとう。ソレからゴメン。何も言わないで、勝手に魔王城に逃げ込んだりして。」
「いや、ディアストのお陰だよ。こうして今もみんなで、こうやって花見が出来ているのも。
だけどね。
僕と接続を切る時は一言欲しかったね。エシールが居なかったら、僕はまた一人だった。君たちのことをただ指を咥えて見ていることしか出来なかったんだよ。」
 勇者が頬を膨らました。
「ゴメン勇者。君に一言言っておくべきだった。でも、ディアストのこととか、みんなに心配かけたくないだとか、魔王のスパイだとか思われたくなかったから。」
「いや、刺客は送り込まれたからな。」
 フォースがため息を吐いた。
「ゴメン、監視をつけて、ちゃんと見ておくべきだった。」
「あー、私たちのこと、信用していないでしょ。」
「えーーー。」
「「「「ガハハハハ。」」」」
 コレで僕たちの物語は終わり。
 本当の本当に。
 ソレでは皆さん、さようなら。
 
 
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