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二人の過去
アスィール
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「よく来たな二人とも。」
小屋に行くと、初老の男が、俺たちを出迎えてくれた。
「アンタが、俺の弟の親父か? 」
「君が、アスィールの言っていた、エシールという兄弟子だね。」
「というのなら、私が君の弟の父親だ。」
「さぁ、さぁ入りなさい。」
アポ無しだというのに、初老の夫婦たちは、俺たちを快く出迎えてくれた。
十二使徒の人たちは、アスィールのことをどの程度、彼らに話しているのだろうか。
俺たちは話の切り出し方に困った。
彼らは俺の弟弟子を奴隷商に売り払ったクズだ。
だが、同時に、俺を救ってくれた恩人の父親と母親でもある。
「今、魔族たちを統治している、アポカリプスとかいう新しい魔王、アレはウチの子なんだろ? 」
俺たちが、言葉に困っていたのを察してか、母親が、先に話を切り出して来た。
「そうだ。」
「ちょっと、エッちゃん。」
言葉を濁して、適当にアイツの昔話でも聞き出せば良かった。
でもソレじゃダメな気がしたんだ。
だから俺は馬鹿正直に答えた。
「やっぱりね。教会の皆さんに聞いても、誰も何も言ってくれなかったから。」
「正直に答えてくれて嬉しいよ。」
「そうか、あの子がね。」
母親が、ポロポロと涙を流す。
「あのっ!! 」
「心配ない。お前のせいじゃない。」
父親は、啜り泣く母親の両肩をそっと支えると、首を横に振った。
「アスィールは親不孝ではありません。」
急に立ち上がり、何を言い始めるかと思いきや。
「友人を救おうとしたんです。ディアストっていう。」
「あっ!! 」
リワンは慌てて口を押さえた。
「昔、私たちがまだノースランドに住んでいた頃、棺桶を引いた息子が、一人の女を連れてひょっこり帰ってきた。」
「その女はアスピと言って、どうやら勇者の妹らしい。」
「その少女は、兄を、なんとかして救いたいと言っていた。」
「アスピと面識が? 」
「驚くのも無理はない。私も驚いたさ。売り飛ばした息子がひょっこり帰って来たんだからな。」
「元より、私にアイツの父親を名乗る権利なんてないのかもしれない。」
彼は再び、妻の肩に手を置き、トントンとたたき始めた。
「だけどな、母さん。コレだけは言わせてくれ。アスィールは何か理由があって魔王になっているんだ。」
そう言って、リワンの肩をガッチリ掴んだ。
「息子は、大事な物を守るために、や魔王になったんだな。」
「は、はい。」
「今日来たのは、そんなことを伝えるためではありません。」
「アーちゃ……アスィールさんを助けるために彼の過去の記憶が必要なんです。」
「協力して下さい。」
夫婦は互いに目を見合わせて、冷や汗を掻きながら、二、三歩後ずさった。
「息子は、助かるのか? 殺されずに。」
「元より、殺す気なんてねえよ。恩人を。そして、一人で勝手に言っちまったアイツをぶん殴る。」
* * *
アスィールの伝記は、彼が生まれた瞬間から始まった。
彼を産んだ時の痛み。
あまりにもデカかったので、産婆さんだけでは取り出せず、オヤジが彼女の手伝いをしたこと。
寝返りを打ってからハイハイ、立ち始めたのが遅かったこと。
木こりを教えると、呑み込みが早かったこと、母親の手伝いをよくする出来た子供であったこと。
特に好物については、リワンと一緒に盛り上がっていた。
こうして、彼らと言葉を交わしているうちに、俺は、彼らが本当にアスィールを愛していたことを悟った。
リワンも多分同じ気持ちだったと思う。
彼らに対する疑念は去り、心の中には罪悪感と、使命感だけが残った。
「おい、お前。」
父親に話しかけられて、ふと我に返る。
「両親は、どこにいる? お前もマスター・リーとやらに拾われたのか? 」
「さぁな。どこがで、のたれ死んだか…… 」
「俺がこの手で殺したか。」
仕事は終わった。
俺は、もうコイツらと話すことなんてないし、だから関係をキッパリ斬るつもりでいた。
俺の心には二対の魔導剣がある。
何も問題ない。
「そうか、居場所がないのなら、ここに戻ってくるといい。お前はアスィールの兄なんだろう? 」
親、そんな物は要らない。
とっくの昔に割り切っていたのに、何故だろう。
涙がポロポロと溢れ出して。
「エッちゃん泣いてるの? 」
「泣いてない。コレは汗だ。」
「いつでもご飯作って待ってるから。煮込み料理はここら辺じゃ珍しいでしょ。心まで温まってホッコリするから。」
「ありがとうございます。本当にぃッ。」
ソレからのことはよく覚えていない。
二人に見送られながら、勇者が俺のことをアスピたちの元に送り届けてくれて。
彼女たちに涙を見せたくなかったので、寺の裏庭で、うずくまっていたっけ。
でも、結局リワンがゲロりやがったんだ。
だから俺は笑い物にされた。
情けない奴だってな。
小屋に行くと、初老の男が、俺たちを出迎えてくれた。
「アンタが、俺の弟の親父か? 」
「君が、アスィールの言っていた、エシールという兄弟子だね。」
「というのなら、私が君の弟の父親だ。」
「さぁ、さぁ入りなさい。」
アポ無しだというのに、初老の夫婦たちは、俺たちを快く出迎えてくれた。
十二使徒の人たちは、アスィールのことをどの程度、彼らに話しているのだろうか。
俺たちは話の切り出し方に困った。
彼らは俺の弟弟子を奴隷商に売り払ったクズだ。
だが、同時に、俺を救ってくれた恩人の父親と母親でもある。
「今、魔族たちを統治している、アポカリプスとかいう新しい魔王、アレはウチの子なんだろ? 」
俺たちが、言葉に困っていたのを察してか、母親が、先に話を切り出して来た。
「そうだ。」
「ちょっと、エッちゃん。」
言葉を濁して、適当にアイツの昔話でも聞き出せば良かった。
でもソレじゃダメな気がしたんだ。
だから俺は馬鹿正直に答えた。
「やっぱりね。教会の皆さんに聞いても、誰も何も言ってくれなかったから。」
「正直に答えてくれて嬉しいよ。」
「そうか、あの子がね。」
母親が、ポロポロと涙を流す。
「あのっ!! 」
「心配ない。お前のせいじゃない。」
父親は、啜り泣く母親の両肩をそっと支えると、首を横に振った。
「アスィールは親不孝ではありません。」
急に立ち上がり、何を言い始めるかと思いきや。
「友人を救おうとしたんです。ディアストっていう。」
「あっ!! 」
リワンは慌てて口を押さえた。
「昔、私たちがまだノースランドに住んでいた頃、棺桶を引いた息子が、一人の女を連れてひょっこり帰ってきた。」
「その女はアスピと言って、どうやら勇者の妹らしい。」
「その少女は、兄を、なんとかして救いたいと言っていた。」
「アスピと面識が? 」
「驚くのも無理はない。私も驚いたさ。売り飛ばした息子がひょっこり帰って来たんだからな。」
「元より、私にアイツの父親を名乗る権利なんてないのかもしれない。」
彼は再び、妻の肩に手を置き、トントンとたたき始めた。
「だけどな、母さん。コレだけは言わせてくれ。アスィールは何か理由があって魔王になっているんだ。」
そう言って、リワンの肩をガッチリ掴んだ。
「息子は、大事な物を守るために、や魔王になったんだな。」
「は、はい。」
「今日来たのは、そんなことを伝えるためではありません。」
「アーちゃ……アスィールさんを助けるために彼の過去の記憶が必要なんです。」
「協力して下さい。」
夫婦は互いに目を見合わせて、冷や汗を掻きながら、二、三歩後ずさった。
「息子は、助かるのか? 殺されずに。」
「元より、殺す気なんてねえよ。恩人を。そして、一人で勝手に言っちまったアイツをぶん殴る。」
* * *
アスィールの伝記は、彼が生まれた瞬間から始まった。
彼を産んだ時の痛み。
あまりにもデカかったので、産婆さんだけでは取り出せず、オヤジが彼女の手伝いをしたこと。
寝返りを打ってからハイハイ、立ち始めたのが遅かったこと。
木こりを教えると、呑み込みが早かったこと、母親の手伝いをよくする出来た子供であったこと。
特に好物については、リワンと一緒に盛り上がっていた。
こうして、彼らと言葉を交わしているうちに、俺は、彼らが本当にアスィールを愛していたことを悟った。
リワンも多分同じ気持ちだったと思う。
彼らに対する疑念は去り、心の中には罪悪感と、使命感だけが残った。
「おい、お前。」
父親に話しかけられて、ふと我に返る。
「両親は、どこにいる? お前もマスター・リーとやらに拾われたのか? 」
「さぁな。どこがで、のたれ死んだか…… 」
「俺がこの手で殺したか。」
仕事は終わった。
俺は、もうコイツらと話すことなんてないし、だから関係をキッパリ斬るつもりでいた。
俺の心には二対の魔導剣がある。
何も問題ない。
「そうか、居場所がないのなら、ここに戻ってくるといい。お前はアスィールの兄なんだろう? 」
親、そんな物は要らない。
とっくの昔に割り切っていたのに、何故だろう。
涙がポロポロと溢れ出して。
「エッちゃん泣いてるの? 」
「泣いてない。コレは汗だ。」
「いつでもご飯作って待ってるから。煮込み料理はここら辺じゃ珍しいでしょ。心まで温まってホッコリするから。」
「ありがとうございます。本当にぃッ。」
ソレからのことはよく覚えていない。
二人に見送られながら、勇者が俺のことをアスピたちの元に送り届けてくれて。
彼女たちに涙を見せたくなかったので、寺の裏庭で、うずくまっていたっけ。
でも、結局リワンがゲロりやがったんだ。
だから俺は笑い物にされた。
情けない奴だってな。
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