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帰還
竜騎士
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俺は起きると、いつのまにか勇者になっていた。
いや、されていたのだ。
魔王アポカリプスを倒せと、そうすれば、お前の人間への裏切りは恩赦にしてやろうと。
ビギニア王から、そう勅命を受けた。
俺には時空間魔術が宿った。
いや、その表現はおかしい。
彼から俺に助けを求めて来たのだ。
『彼が門を開けてくれなくなった。助けて欲しい。』と。
彼とは、かの伝説の勇者のことで、彼とは俺の弟弟子、アスィールのことだ。
俺と戦った人類を魔王の侵略から守った勇者様は、俺が気を失っている間に、魔王になったらしい。
わけが分からない。
「また、そうやって頭を抱えて、うずくまって…… 」
「だってそうだろ。奴に負けて、分けが分かんねえまま勇者にされて。」
「俺には務まんねえよ。」
リワンは俺の背中をサワサワと摩った。
「しょうがないよ。伝説の武具も全部アーちゃんが壊しちゃったし。今、勇者に一番近い場所にいるのが、エッちゃんなんだから。」
「お願い、アスィールを連れ戻して欲しいの。アーちゃんが、君にそうしたように。」
彼女の心はまだアスィールにある。
そのことに嫉妬している自分を憎んだ。
そうだ、俺は弱い。
「オイ!! ヘタレ。早く来い。」
檜の棒を担いだ少女が、恐ろしい血相で、丘の方へと、こちらの方へとゆっくり歩いてくる。
「もう勘弁してくれ。」
少女は、丘を登りきると、俺を見下し、そしてそれから、俺の胸ぐらを掴んだ。
「エシール兄さんがマスターキーになれなかった理由。分かったよ。」
「アスピ!! 」
リワンが勇者を止める。
そう、彼女こそが真の勇者だ。
俺は勇者ではなく偽物。
偽物という表現も、色々と語弊がある。
俺は人類を裏切って、人々を殺して回っていたのだから。
「チッ、早く来てね。私たちには時間が無いの。早くディアスト兄さんを…… 」
「エシール、彼女の気持ちも汲んであげて。彼女は少し焦燥しているのよ。」
彼女は昼に、俺の勇者としての能力を高めるための稽古を付けて、夜は融合魔術についての研究をリワンと共にしている。
俺の弟弟子と融合した自分の兄を再び連れ戻すために。
だけど……
どれだけ修行を重ねても 次元の腕で、俺自身に光の力が宿ることは無かった。
それどころか、いつのまにか、闇魔術と炎魔術は最上級までマスターしていたし、以前のように時空壊や燠見もコントロール出来るようになっていた。
強く念じれば念じるほど魔族へと近づいてしまう。
魔王軍に入る前と、今との違いといえば、間違い続けても、理性を奪われることがなくなったぐらい……か。
アスピと自分の修行を見た民衆たちは、やがて自分のことを『竜騎士』なんて呼び始めた。
[ लुमा]
慣れない二文字を唱えて、伝説の勇者と接続する。
彼女を次元の狭間から引っ張り出した時もそうだった。
彼女の背後にワープすると、両掌に魔導剣の柄を出現させて、彼女に斬りつける。
[ドラゴン・ファング]
赤紫色に光る竜の牙を、彼女は、後ろに回した自身の杖で、簡単に受け止めてしまった。
そのまま弾き返され、雷で強化された、下半身に弾かれた上半身が、杖を大きく構えて、こちらに迫って来ている。
---時空壊---
心拍数が急上昇し、世界がゆっくりと流れ始める。
俺がさっきまでいた場所に、杖がはたき落とされ、草原に大きなクレーターが出来る。
それに足を取られた俺は、再び लुमाを使うと、クレーターの外まで逃げた。
彼女のギガ・スパークの『ギ』が出たところで、俺は、ドラゴン・ファングを両手で胸の前に持ってくると、鋒をアスピへと焦点を合わせて、こう唱えた。
[レジェンド・ブレス]
俺の闇と炎は、螺旋のように交わり、赤黒く変色すると、竜の顎を形成し、アスピへと襲いかかる。
[ギガ・スパーク]
聖なる青白い雷は鋭い爪で竜の顎を切り裂くと、俺のこめかみの前で止まった。
気がつくと、俺は尻餅を付いていて、彼女が、俺の額に杖を付いていた。
「それが、貴方の答え……か。エシール。」
「俺は、こんな身なりだから、皆んなに竜騎士なんて言われちまっている。」
「俺は勇者にはなれない。」
「だけど、アスィールには借りがある。」
「身内を助けたいって気持ちは、アンタと同じだよアスピ。」
アスピは、杖で後頭部を支えるように、両手でソレを担ぐと、サクサクと、自分の小屋へと帰っていってしまう。
「待て、今日の稽古はどうする? 」
「なーに? さっきまで、あんなに嫌がってたのに。したけりゃ自主練でもしとけば。」
「今からフォースとドレイク姉さんたちに手紙を書かなきゃいけないから。」
「言ったでしょ、貴方と違って私は暇じゃ無いの。」
「待て、なら俺も手伝う。」
「あーあ、辞めた方が良いと思うケド。フォースとアンタ、殺し合った仲なんでしょ。」
「アレは…… 」
「あーめんどくさいな。アイツと同じで。旅の最中に、暴走して後ろから襲って来たら、マジ殺すから。」
心なしか、彼女の足取りはいつもより軽快に見えた。
いや、されていたのだ。
魔王アポカリプスを倒せと、そうすれば、お前の人間への裏切りは恩赦にしてやろうと。
ビギニア王から、そう勅命を受けた。
俺には時空間魔術が宿った。
いや、その表現はおかしい。
彼から俺に助けを求めて来たのだ。
『彼が門を開けてくれなくなった。助けて欲しい。』と。
彼とは、かの伝説の勇者のことで、彼とは俺の弟弟子、アスィールのことだ。
俺と戦った人類を魔王の侵略から守った勇者様は、俺が気を失っている間に、魔王になったらしい。
わけが分からない。
「また、そうやって頭を抱えて、うずくまって…… 」
「だってそうだろ。奴に負けて、分けが分かんねえまま勇者にされて。」
「俺には務まんねえよ。」
リワンは俺の背中をサワサワと摩った。
「しょうがないよ。伝説の武具も全部アーちゃんが壊しちゃったし。今、勇者に一番近い場所にいるのが、エッちゃんなんだから。」
「お願い、アスィールを連れ戻して欲しいの。アーちゃんが、君にそうしたように。」
彼女の心はまだアスィールにある。
そのことに嫉妬している自分を憎んだ。
そうだ、俺は弱い。
「オイ!! ヘタレ。早く来い。」
檜の棒を担いだ少女が、恐ろしい血相で、丘の方へと、こちらの方へとゆっくり歩いてくる。
「もう勘弁してくれ。」
少女は、丘を登りきると、俺を見下し、そしてそれから、俺の胸ぐらを掴んだ。
「エシール兄さんがマスターキーになれなかった理由。分かったよ。」
「アスピ!! 」
リワンが勇者を止める。
そう、彼女こそが真の勇者だ。
俺は勇者ではなく偽物。
偽物という表現も、色々と語弊がある。
俺は人類を裏切って、人々を殺して回っていたのだから。
「チッ、早く来てね。私たちには時間が無いの。早くディアスト兄さんを…… 」
「エシール、彼女の気持ちも汲んであげて。彼女は少し焦燥しているのよ。」
彼女は昼に、俺の勇者としての能力を高めるための稽古を付けて、夜は融合魔術についての研究をリワンと共にしている。
俺の弟弟子と融合した自分の兄を再び連れ戻すために。
だけど……
どれだけ修行を重ねても 次元の腕で、俺自身に光の力が宿ることは無かった。
それどころか、いつのまにか、闇魔術と炎魔術は最上級までマスターしていたし、以前のように時空壊や燠見もコントロール出来るようになっていた。
強く念じれば念じるほど魔族へと近づいてしまう。
魔王軍に入る前と、今との違いといえば、間違い続けても、理性を奪われることがなくなったぐらい……か。
アスピと自分の修行を見た民衆たちは、やがて自分のことを『竜騎士』なんて呼び始めた。
[ लुमा]
慣れない二文字を唱えて、伝説の勇者と接続する。
彼女を次元の狭間から引っ張り出した時もそうだった。
彼女の背後にワープすると、両掌に魔導剣の柄を出現させて、彼女に斬りつける。
[ドラゴン・ファング]
赤紫色に光る竜の牙を、彼女は、後ろに回した自身の杖で、簡単に受け止めてしまった。
そのまま弾き返され、雷で強化された、下半身に弾かれた上半身が、杖を大きく構えて、こちらに迫って来ている。
---時空壊---
心拍数が急上昇し、世界がゆっくりと流れ始める。
俺がさっきまでいた場所に、杖がはたき落とされ、草原に大きなクレーターが出来る。
それに足を取られた俺は、再び लुमाを使うと、クレーターの外まで逃げた。
彼女のギガ・スパークの『ギ』が出たところで、俺は、ドラゴン・ファングを両手で胸の前に持ってくると、鋒をアスピへと焦点を合わせて、こう唱えた。
[レジェンド・ブレス]
俺の闇と炎は、螺旋のように交わり、赤黒く変色すると、竜の顎を形成し、アスピへと襲いかかる。
[ギガ・スパーク]
聖なる青白い雷は鋭い爪で竜の顎を切り裂くと、俺のこめかみの前で止まった。
気がつくと、俺は尻餅を付いていて、彼女が、俺の額に杖を付いていた。
「それが、貴方の答え……か。エシール。」
「俺は、こんな身なりだから、皆んなに竜騎士なんて言われちまっている。」
「俺は勇者にはなれない。」
「だけど、アスィールには借りがある。」
「身内を助けたいって気持ちは、アンタと同じだよアスピ。」
アスピは、杖で後頭部を支えるように、両手でソレを担ぐと、サクサクと、自分の小屋へと帰っていってしまう。
「待て、今日の稽古はどうする? 」
「なーに? さっきまで、あんなに嫌がってたのに。したけりゃ自主練でもしとけば。」
「今からフォースとドレイク姉さんたちに手紙を書かなきゃいけないから。」
「言ったでしょ、貴方と違って私は暇じゃ無いの。」
「待て、なら俺も手伝う。」
「あーあ、辞めた方が良いと思うケド。フォースとアンタ、殺し合った仲なんでしょ。」
「アレは…… 」
「あーめんどくさいな。アイツと同じで。旅の最中に、暴走して後ろから襲って来たら、マジ殺すから。」
心なしか、彼女の足取りはいつもより軽快に見えた。
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