闇堕勇者と偽物勇者

ぼっち・ちぇりー

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帰還

融合

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 この少女からは明らかにエスカリーナと同じ魔力が流れていた。
 情報量が多すぎる。
 目に入り込んでくる。
 可視光線、非可視光線、宙を漂う魔力、空気中を漂う水分子の一つ一つ、彼女が城中に仕掛けていた魔力仕掛けの全てが。
 僕はあまりの情報量に目を覆い、掻きむしった。
 慧眼が今まで以上に機能している。
 少し落ち着いて、多分、自分でもその力を制御できていないのだと、確信した。
 原因は………
 そう僕の中にはディアストがいる。
 僕は自身の魔法で、ディアストと融合したんだ。
 ようやく事態を理解し、事の重大さに気付いた。
「アスピになんて話せば良いのか。」
[ったく。大馬鹿モノだよお前は。]
[俺はエスカリーナと融合する。それだけで良かった。]
[お前がこのを背負う必要なんて無かった。]
 烙印?
 僕はソレがなんのことなのか分からなかった。
 が……
 しかし。
 自分の身体を慧眼で見て驚愕する。
 周りの状況を確認することに精一杯で、まざか自分が魔王と同じ魔力を宿してしまっていることには気付かなかった。
「ん?んあ。」
 少女は喉を鳴らしながら、両手を大きく広げて欠伸をする。
「お兄さん? 誰? 」
 お兄さん?
 彼女の罠か、ソレとも、融合に失敗した影響か。
[エスカリーナは完全に記憶を失っている。]
[俺は知っている。あれは他者に魂を移し、対象を乗っ取る魔術だ。もちろん、奴がソレを研究していたことも知っていた。]
「知っていた……ってなんだよ。」
[言葉の通りだよ。だから今、目の前にいるのは、エスカリーナの抜け殻だ。]
「抜け殻ってことは…… 」
 やっと自分の中にエスカリーナの魔力が宿っていることの理由を理解した。
 エスカリーナはディアストを乗っ取って、再び世界を支配しようとした。
 僕はディアストを引き戻すために、 次元の腕パラレル・スクランブルで彼を掴んだ。
[まざか俺と融合しちまうなんてな。文字通り、本当に魔王になってしまうとは。]
「お兄さん? どうしたの? 」
 彼女に手を差し出そうとした、その時。
「エスカリーナ様に触らないで下さい。」
「リリスか。」
 リリスとは面識がない。
 今出てきたのはディアストだ。
「ディアスト様でしたか。」
 彼女を首をブンブンと横に振った。
「貴方がディアスト様であるわけがありません。そうやって魔族を欺いて、エスカリーナ様を殺すおつもりでしょう。」
「違っ。」
「殺す? いやだ、死にたくない。許して。」
 彼女は怯えた表情を取ると、リリスの後ろに隠れた。
「大丈夫ですよエスカリーナ様。」
 リリスはこちらに向き直ると
「エスカリーナ様は私にお任せ下さい。」と答えた。
「すまない、頼む。」
 彼女に嫌われてしまったからにはしょうがない。
「すまない、しばらく魔王を頼みます。僕は行かなければならないところがある。」
「行かせない。お前も、アスピも。」
 ったく、ディアストは心配性だ。
「アスピもお前も死んだことにしたら良い。二人が起きたらそう伝えろ。」
「でも、彼女はどうする? この浮遊城が稼働し続ければ、人間たちは恐れをなして、再びここに入ってくるかもしれない。」
「なら殺す。」
「いや、殺さないね。」
「僕は、この争いを止めるためにここに来た。魔族を根絶やしにするためにきたんじゃない。」
「同じだ。魔王が滅んだところで、再び人間同士で争いを続けるだけだ。」
「幸い、伝説の武具はもう一つも残っていないようだが。」

「あの……一人で何を話していらっしゃるのですか、ディアスト様。」
 
 僕は事情を全て彼女に話した。
 エスカリーナが融合の魔術を使ったこと、偽勇者が、彼女からディアストを引き剥がしたこと。
  次元の腕パラレル・スクランブルは、勇者のディアストを、偽勇者のアスィールと同一人物と見なしてしまったこと。
「今、そこにいらっしゃるのは、ディアスト様でもあって、アスィール殿でもあるということ。なるほど、理解しました。」
「でも出来るだけ早く帰ってきてください。魔王不在の、この状態で、残当たちがどのように動くか。魔族たちも一枚岩ではないんです。今、エスカリーナ様がこのような状態だと、もし手下たちにバレたら。」
「分かった。ビギニア王に魔王に勝ったことを伝えたら、旅に出ると言って、すぐにここに戻ってくるよ。」
「チッ、どうなっても知らないぞ。俺は反対だ。アスピの身に危険を感じたら、すぐに主導権を渡してもらう。」
「ああ、約束だ。ディアスト。」
「リリス、早くエスカリーナを連れて隠れて。もうすぐ、フォースたちが起きそうだ。彼らの意識が戻ったら、すぐに出発する。」
「エシール様は? 」
「連れて帰るよ。ここに来たのはそのためでもあるんだ。」
 リリスは、怯えるエスカリーナの脇をがっしり掴むと、向こうの柱の裏に隠れた。
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