79 / 104
魔王討伐
決戦前夜
しおりを挟む
「ベザレル……… 」
僕は確かに、この人を否定した。
だけど、魔王軍たちと剣を交えるたびに、心の奥底で燻る懐疑心に掻き乱される。
この人の言っていることも、セブンスの言っていたことも、全部正しいことだ。
だからこそ、この人のことを恨みきれなかった。
恨もうと必死になっていた。
自分は正しいことをしたのだろうと。
「部下たちは解放してくれ。その力がアレば、殺さずに無力化できるだろう? また奴らが攻めてきても、お前は、羽虫を払うように撃退できるだろう? 」
「………惨めですね。」
「ああ、ワシは惨めだ。敗者はいつだって惨めだ。何も残らない。ワシは長い人生の中で、そういう人間を俯瞰して見てきたのだから。」
「人間を裏切って魔堕ちしたこと、今でも後悔していますか? 」
「そんなことは無い。エスカリーナ万歳。魔族に栄光あれ。」
「………人間たちに呪いあれ。」
「………… 」
「早くトドメをさせ。肺に穴が空いてな。苦しいんだ。」
「………何を震えておる。人、一人も殺せんのか? 」
「そうか、初めてか人を斬るのは。」
「案ずることは無い。ワシが初めになってやる。お前の手が初めて人間の血で染まる。ワシはお前の一番最初になれる。こんなに光栄なことは無い。私はお前の心の中で一生消えない呪いとして生きていける。ゴホゴホ。」
僕は、ここまでになってもなお、自分の行いに誇りを持てないでいる。
だから、この男にトドメを刺すことが出来なかった。
でも、もし、エシールや、ディアストがフォースや、アスピたちを殺そうとしたら。
「私は人間を沢山殺した。エシールも、ディアストも。」
「殺した人間の家族、恋人、友人、全ての業を背負っている。」
「そして、お前は、その人間全ての業を背負う責務がある。」
そう言ってベザレルは、自分の首に手を当てる。
『自分の首を落とせ。』そう言っているのだ。
「あ……ま……い……な……で……も……き…………」
「…………………」
「…………………………」
「…………………………………………………………………………………………………………………………」
老魔術師が動かなくなるとともに、荒野で、揺蕩う、膨大な魔力も止んだ。
瀕死の状態でなお、この魔力。
この人が人間側についてくれていれば、こんなことにはならなかっただろう。
このような力を持った人間が、教会にいてくれていたのなら、ディアストが処刑される心配もなかったかもしれない。
この世界は狂っている。
だからこそ、こういう『マトモな人間。』はマトモな生き方が出来なかったのだろう。
______頭が痛い。
割れる。
落ち着け。僕は勇者だ。人類を救うためにここまで旅をしてきた。
僕は、魔導兵の残当を、 लुमाで、魔王城へと贈ると、その場に仰向けで大の字に寝転がった。
さっきまでの激戦が嘘みたいな青空。
快晴までとはいかない。
雲の流れが早いな。
* * *
「そうか、十三番が。」
フォースは、ベットでリンゴを齧っている。
クランに付けられた呪いや、消耗した魔力もだいぶ回復したようで、明日からは、また戦場に出れそうだ。
アスピも、ドレイクも似たような状態である。
「魔王の側近はあと二人。」
「私の兄と、貴方の兄弟子。」
「なんて数奇な運命なんだろうな。」
僕は立ち上がった。
少しでも多くの人を救わなければならない。
今までは、僕にその力が無かった。
だけど、今は違う。
ベザレルの言ったように、僕は、誰も傷付けずに敵を無力化できる力がある。
「ちょっと待たんかい大将。」
ドレイクに止められる。
「魔王軍の進軍が止まった。今、ジジイたちに探らせとったんや。」
「魔王城に帰っていっとる。」
フォースは、リンゴを口に放り込み、咀嚼すると、指を顎に当てて考え込んだ。
「各個撃破を恐れたか。」
「逆に言えば、それまで私たちはナメられていたってわけ。敵のボスにね。」
アスピがまっすぐ、こっちを見る。
そして低くも凛々しい声で僕を叱った。
「なんて顔してるの。アンタ、もう一冒険者でも、武具を集める旅人でも無いの。」
「人類を救う救世主なのよ。貴方は。」
「ありがとう。アスピ。」
今思えば、彼女には何度も助けられていた。
フォースが呪いにかかり、寝たきりになったり、自分の出生と身分を知り、絶望したり、守るべきモノたちに裏切られたり、どうしようもなくなった時に、いつも支えてくれたのがアスピだった。
「ありがとうアスピ。ディアストは必ず僕が止めるから。」
「はぁ? 」
「とんだ勘違い野郎ねアンタは。コレは私の問題なんだから手出さないで。」
「仲間なのに? 」
「仲間だからよ。」
アスピは鼻を『ふん』と鳴らした。
「その代わり、貴方は絶対エシールに勝ちなさいよ。」
「私、決めたの。ディアスト兄さんは必ず連れて帰る。あの性悪女から奪い返すの。」
「下品なモノをぶら下げて、下品な服を着て、下品な言葉で兄さんを誑かすアバズレ女をね。」
「誑……かされているのか、アレは。」
フォースが眉をハの字に曲げた。
「そうよ。ディアスト兄さんは女性経験がないんだから、だから騙されやすいの。私が目を覚まさせてあげないと。」
「だとしたら、とんだ迷惑な野郎やないか。」
「もう!! ドレイク姉さん!! 」
そうだ。
僕もエシールを。
師匠のことも、生前のエシールのことも、微塵たりとも思い出せないが、マスター・リーの遺言には、「エシールを殺せ。」とは一言も書かれていなかった。
少なくとも師匠は、兄弟子のことを恨んだりなんてしていない。
リワン姉さんも、エシールの帰りを待っているに違いない。
だから、僕は、彼を連れ戻さなければならない。
勝って、頬をぶって、更生させて、彼の罪を半分背負って、またみんなで暮らせるように。
「また………か。」
僕に存在するはずの無い記憶。でも確かにソレはあるのだ。
「行こうみんな。僕は、船の準備をしてくるから。」
「また市場で変なもん買ってくるんじゃ無いわよ。」
「分かってるって。」
僕は病棟を後にした。
僕は確かに、この人を否定した。
だけど、魔王軍たちと剣を交えるたびに、心の奥底で燻る懐疑心に掻き乱される。
この人の言っていることも、セブンスの言っていたことも、全部正しいことだ。
だからこそ、この人のことを恨みきれなかった。
恨もうと必死になっていた。
自分は正しいことをしたのだろうと。
「部下たちは解放してくれ。その力がアレば、殺さずに無力化できるだろう? また奴らが攻めてきても、お前は、羽虫を払うように撃退できるだろう? 」
「………惨めですね。」
「ああ、ワシは惨めだ。敗者はいつだって惨めだ。何も残らない。ワシは長い人生の中で、そういう人間を俯瞰して見てきたのだから。」
「人間を裏切って魔堕ちしたこと、今でも後悔していますか? 」
「そんなことは無い。エスカリーナ万歳。魔族に栄光あれ。」
「………人間たちに呪いあれ。」
「………… 」
「早くトドメをさせ。肺に穴が空いてな。苦しいんだ。」
「………何を震えておる。人、一人も殺せんのか? 」
「そうか、初めてか人を斬るのは。」
「案ずることは無い。ワシが初めになってやる。お前の手が初めて人間の血で染まる。ワシはお前の一番最初になれる。こんなに光栄なことは無い。私はお前の心の中で一生消えない呪いとして生きていける。ゴホゴホ。」
僕は、ここまでになってもなお、自分の行いに誇りを持てないでいる。
だから、この男にトドメを刺すことが出来なかった。
でも、もし、エシールや、ディアストがフォースや、アスピたちを殺そうとしたら。
「私は人間を沢山殺した。エシールも、ディアストも。」
「殺した人間の家族、恋人、友人、全ての業を背負っている。」
「そして、お前は、その人間全ての業を背負う責務がある。」
そう言ってベザレルは、自分の首に手を当てる。
『自分の首を落とせ。』そう言っているのだ。
「あ……ま……い……な……で……も……き…………」
「…………………」
「…………………………」
「…………………………………………………………………………………………………………………………」
老魔術師が動かなくなるとともに、荒野で、揺蕩う、膨大な魔力も止んだ。
瀕死の状態でなお、この魔力。
この人が人間側についてくれていれば、こんなことにはならなかっただろう。
このような力を持った人間が、教会にいてくれていたのなら、ディアストが処刑される心配もなかったかもしれない。
この世界は狂っている。
だからこそ、こういう『マトモな人間。』はマトモな生き方が出来なかったのだろう。
______頭が痛い。
割れる。
落ち着け。僕は勇者だ。人類を救うためにここまで旅をしてきた。
僕は、魔導兵の残当を、 लुमाで、魔王城へと贈ると、その場に仰向けで大の字に寝転がった。
さっきまでの激戦が嘘みたいな青空。
快晴までとはいかない。
雲の流れが早いな。
* * *
「そうか、十三番が。」
フォースは、ベットでリンゴを齧っている。
クランに付けられた呪いや、消耗した魔力もだいぶ回復したようで、明日からは、また戦場に出れそうだ。
アスピも、ドレイクも似たような状態である。
「魔王の側近はあと二人。」
「私の兄と、貴方の兄弟子。」
「なんて数奇な運命なんだろうな。」
僕は立ち上がった。
少しでも多くの人を救わなければならない。
今までは、僕にその力が無かった。
だけど、今は違う。
ベザレルの言ったように、僕は、誰も傷付けずに敵を無力化できる力がある。
「ちょっと待たんかい大将。」
ドレイクに止められる。
「魔王軍の進軍が止まった。今、ジジイたちに探らせとったんや。」
「魔王城に帰っていっとる。」
フォースは、リンゴを口に放り込み、咀嚼すると、指を顎に当てて考え込んだ。
「各個撃破を恐れたか。」
「逆に言えば、それまで私たちはナメられていたってわけ。敵のボスにね。」
アスピがまっすぐ、こっちを見る。
そして低くも凛々しい声で僕を叱った。
「なんて顔してるの。アンタ、もう一冒険者でも、武具を集める旅人でも無いの。」
「人類を救う救世主なのよ。貴方は。」
「ありがとう。アスピ。」
今思えば、彼女には何度も助けられていた。
フォースが呪いにかかり、寝たきりになったり、自分の出生と身分を知り、絶望したり、守るべきモノたちに裏切られたり、どうしようもなくなった時に、いつも支えてくれたのがアスピだった。
「ありがとうアスピ。ディアストは必ず僕が止めるから。」
「はぁ? 」
「とんだ勘違い野郎ねアンタは。コレは私の問題なんだから手出さないで。」
「仲間なのに? 」
「仲間だからよ。」
アスピは鼻を『ふん』と鳴らした。
「その代わり、貴方は絶対エシールに勝ちなさいよ。」
「私、決めたの。ディアスト兄さんは必ず連れて帰る。あの性悪女から奪い返すの。」
「下品なモノをぶら下げて、下品な服を着て、下品な言葉で兄さんを誑かすアバズレ女をね。」
「誑……かされているのか、アレは。」
フォースが眉をハの字に曲げた。
「そうよ。ディアスト兄さんは女性経験がないんだから、だから騙されやすいの。私が目を覚まさせてあげないと。」
「だとしたら、とんだ迷惑な野郎やないか。」
「もう!! ドレイク姉さん!! 」
そうだ。
僕もエシールを。
師匠のことも、生前のエシールのことも、微塵たりとも思い出せないが、マスター・リーの遺言には、「エシールを殺せ。」とは一言も書かれていなかった。
少なくとも師匠は、兄弟子のことを恨んだりなんてしていない。
リワン姉さんも、エシールの帰りを待っているに違いない。
だから、僕は、彼を連れ戻さなければならない。
勝って、頬をぶって、更生させて、彼の罪を半分背負って、またみんなで暮らせるように。
「また………か。」
僕に存在するはずの無い記憶。でも確かにソレはあるのだ。
「行こうみんな。僕は、船の準備をしてくるから。」
「また市場で変なもん買ってくるんじゃ無いわよ。」
「分かってるって。」
僕は病棟を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜
水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。
魔王乱立の時代。
王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。
だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。
にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。
抗議はしない。
訂正もしない。
ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。
――それが、誰にとっての不合格なのか。
まだ、誰も気づいていない。
欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
ボンクラ王子の側近を任されました
里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」
王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。
人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。
そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。
義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。
王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?
「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」
イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。
ある日、夢をみた。
この国の未来を。
それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。
彼は言う。
愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
婚約破棄は構いませんが、私が管理していたものは全て引き上げます 〜成金伯爵家令嬢は、もう都合のいい婚約者ではありません〜
藤原遊
ファンタジー
成金と揶揄される伯爵家の令嬢である私は、
名門だが実情はジリ貧な公爵家の令息と婚約していた。
公爵家の財政管理、契約、商会との折衝――
そのすべてを私が担っていたにもかかわらず、
彼は隣国の王女と結ばれることになったと言い出す。
「まあ素敵。では、私たちは円満に婚約解消ですね」
そう思っていたのに、返ってきたのは
「婚約破棄だ。君の不出来が原因だ」という言葉だった。
……はぁ?
有責で婚約破棄されるのなら、
私が“善意で管理していたもの”を引き上げるのは当然でしょう。
資金も、契約も、人脈も――すべて。
成金伯爵家令嬢は、
もう都合のいい婚約者ではありません。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる