闇堕勇者と偽物勇者

ぼっち・ちぇりー

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魔王討伐

決戦前夜

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「ベザレル……… 」
 僕は確かに、この人を否定した。
 だけど、魔王軍たちと剣を交えるたびに、心の奥底で燻る懐疑心に掻き乱される。
 この人の言っていることも、セブンスの言っていたことも、全部正しいことだ。
 だからこそ、この人のことを恨みきれなかった。
 恨もうと必死になっていた。
 自分は正しいことをしたのだろうと。
「部下たちは解放してくれ。その力がアレば、殺さずに無力化できるだろう? また奴らが攻めてきても、お前は、羽虫を払うように撃退できるだろう? 」
「………惨めですね。」
「ああ、ワシは惨めだ。敗者はいつだって惨めだ。何も残らない。ワシは長い人生の中で、そういう人間を俯瞰して見てきたのだから。」
「人間を裏切って魔堕ちしたこと、今でも後悔していますか? 」
「そんなことは無い。エスカリーナ万歳。魔族に栄光あれ。」
「………人間たちに呪いあれ。」
「………… 」
「早くトドメをさせ。肺に穴が空いてな。苦しいんだ。」
「………何を震えておる。人、一人も殺せんのか? 」
「そうか、初めてか人を斬るのは。」
「案ずることは無い。ワシが初めになってやる。お前の手が初めて人間の血で染まる。ワシはお前の一番最初になれる。こんなに光栄なことは無い。私はお前の心の中で一生消えない呪いとして生きていける。ゴホゴホ。」
 僕は、ここまでになってもなお、自分の行いに誇りを持てないでいる。
 だから、この男にトドメを刺すことが出来なかった。
 でも、もし、エシールや、ディアストがフォースや、アスピたちを殺そうとしたら。
「私は人間を沢山殺した。エシールも、ディアストも。」
「殺した人間の家族、恋人、友人、全ての業を背負っている。」
「そして、お前は、その人間全ての業を背負う責務がある。」
 そう言ってベザレルは、自分の首に手を当てる。
 『自分の首を落とせ。』そう言っているのだ。
「あ……ま……い……な……で……も……き…………」
「…………………」
「…………………………」
「…………………………………………………………………………………………………………………………」
 老魔術師が動かなくなるとともに、荒野で、揺蕩たゆたう、膨大な魔力も止んだ。
 瀕死の状態でなお、この魔力。
 この人が人間側についてくれていれば、こんなことにはならなかっただろう。
 このような力を持った人間が、教会にいてくれていたのなら、ディアストが処刑される心配もなかったかもしれない。
 この世界は狂っている。
 だからこそ、こういう『マトモな人間。』はマトモな生き方が出来なかったのだろう。
 ______頭が痛い。
         割れる。
 落ち着け。僕は勇者だ。人類を救うためにここまで旅をしてきた。
 僕は、魔導兵の残当を、 लुमाルマで、魔王城へと贈ると、その場に仰向けで大の字に寝転がった。
 さっきまでの激戦が嘘みたいな青空。
 快晴までとはいかない。
 雲の流れが早いな。


      * * *

 
「そうか、十三番が。」
 フォースは、ベットでリンゴを齧っている。
 クランに付けられた呪いや、消耗した魔力もだいぶ回復したようで、明日からは、また戦場に出れそうだ。
 アスピも、ドレイクも似たような状態である。
「魔王の側近はあと二人。」
「私の兄と、貴方の兄弟子。」
「なんて数奇な運命なんだろうな。」
 僕は立ち上がった。
 少しでも多くの人を救わなければならない。
 今までは、僕にその力が無かった。
 だけど、今は違う。
 ベザレルの言ったように、僕は、誰も傷付けずに敵を無力化できる力がある。
「ちょっと待たんかい大将。」
 ドレイクに止められる。
「魔王軍の進軍が止まった。今、ジジイ祖父たちに探らせとったんや。」
「魔王城に帰っていっとる。」
 フォースは、リンゴを口に放り込み、咀嚼すると、指を顎に当てて考え込んだ。
「各個撃破を恐れたか。」
「逆に言えば、それまで私たちはナメられていたってわけ。敵のボスにね。」
 アスピがまっすぐ、こっちを見る。
 そして低くも凛々しい声で僕を叱った。
「なんて顔してるの。アンタ、もう一冒険者でも、武具を集める旅人でも無いの。」
「人類を救う救世主なのよ。貴方は。」
「ありがとう。アスピ。」
 今思えば、彼女には何度も助けられていた。
 フォースが呪いにかかり、寝たきりになったり、自分の出生と身分を知り、絶望したり、守るべきモノたちに裏切られたり、どうしようもなくなった時に、いつも支えてくれたのがアスピだった。
「ありがとうアスピ。ディアストは必ず僕が止めるから。」
「はぁ? 」
「とんだ勘違い野郎ねアンタは。コレは私の問題なんだから手出さないで。」
「仲間なのに? 」
「仲間だからよ。」
 アスピは鼻を『ふん』と鳴らした。
「その代わり、貴方は絶対エシールに勝ちなさいよ。」
「私、決めたの。ディアスト兄さんは必ず連れて帰る。あの性悪女から奪い返すの。」
「下品なモノをぶら下げて、下品な服を着て、下品な言葉で兄さんをたぶらかすアバズレ女をね。」
「誑……かされているのか、アレは。」
 フォースが眉をハの字に曲げた。
「そうよ。ディアスト兄さんは女性経験がないんだから、だから騙されやすいの。私が目を覚まさせてあげないと。」
「だとしたら、とんだ迷惑な野郎やないか。」
「もう!! ドレイク姉さん!! 」
 そうだ。
 僕もエシールを。
 師匠のことも、生前のエシールのことも、微塵たりとも思い出せないが、マスター・リーの遺言には、「エシールを殺せ。」とは一言も書かれていなかった。 
 少なくとも師匠は、兄弟子のことを恨んだりなんてしていない。
 リワン姉さんも、エシールの帰りを待っているに違いない。
 だから、僕は、彼を連れ戻さなければならない。
 勝って、頬をぶって、更生させて、彼の罪を半分背負って、
「また………か。」
 僕に存在するはずの無い記憶。でも確かにソレはあるのだ。
「行こうみんな。僕は、船の準備をしてくるから。」
「また市場で変なもん買ってくるんじゃ無いわよ。」
「分かってるって。」
 僕は病棟を後にした。



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